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記事の中で映画、ゲーム、漫画などのネタバレが含まれているかもしれません。気になるかたは注意してお読みください。
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古賀コン6(第6回私立古賀裕人文学祭) 作品全感想

はじめに

 佐藤の能力不足+時間不足により的外れなことを書いている可能性があります。どうぞご指摘ください。


1. 非常口ドットさん「私怨小説」

 今回は今までの非常口ドットさんの作品と違って、介護ではない作品でしたが、いつも通り完成度が高かったです。作家としての基礎能力の高さを感じます。作品全体でこれでもかと「 架空 “☆1” レビュー 」というタイトルを生かしていたのが良かったです。
 自分のために書いた作品が世間的にも評価されるというのは作家にとっては理想であるはずが、実際はそうでもないというギャップが面白かったです。また、どんなに大人になって成功しても、学生時代に成功していたらなと夢見る気持ちも共感できます。(僕は成功者ではないですが。)
 非常口ドットさんは毎回作品の提出が早いところもすごいと思います。筆が早いのがうらやましいです。

2. 憚譚之傍見さん「"今夜の気分"」

 とてもセンスがいい作品です。「双子の兄は引用符 中のドットは無言の私」とかかっこいいし、僕は一生かけても思いつかないなと思います。
「 架空 “☆1” レビュー 」というテーマを利用して、"……"の間に星が1つ降りてくると“☆1”になるということでしょうか。着眼点がおもしろいし、おしゃれです。

3. げんなりさん「三浦じゃないし山田でもない」

 今回もげんなりさんらしく比喩表現が巧みでした。
「二人くらいをめった刺しにして三日くらい置いたような臭いだったなと思う。それも真夏の暑い時にだ」
「靴底にねばりつくものの感じは臓器に絡んだ汚物の感触に近かった」
「指紋を拭きとった後のように清潔」
 など参考にしたいです。が、同時になんで語り手はそんな物騒な臭いや感触を知っているのだろうと疑問に思いました。最後は銃を出してるし、殺し屋?ハードボイルドです。

 よく考えると、「三浦じゃないし山田でもない」というタイトルが一番ホーラーな気がします。二人は赤の他人なのに何してるんだろう「三浦、だよな?」と声をかけられ、とりあえずこたえた語り手も、「山田?」
と声をかけたら「そうそう、おれ山田!」と話しに乗ってくれた山田(仮)も、結構いいヤツらなんじゃないかと思いました。

 個人的には作中に登場する配膳用のロボットが欲しくなりました。「全体的に丸っこく可愛らしいデザインだが、頭部に当たる部分を見下ろすと、透明なドーム状のカバーの下、若い子供の脳みそのような物が白い磁器の皿の上でぷるぷると揺れていた」っていいデザインだなと思います。

4. 渋皮ヨロイさん「届いたらびっくり、ゴリラでした」

 この前動物園で見たんですけど、ゴリラって生だと迫力がありますよね。
 異常な状況をさらりと書き切ったところにさすがの高い技術を感じました。上手い。
「電話の向こう側が大変ボリューミーでございまして」とか「これはわたくしもプロとして、なんとしても、うなずいてやるぞ、って強い気持ちで臨んでみたのですけれどもね」とかには笑いました。
 この作品のおかげでAwichさんのことを知れました。そういう意味でもありがとうございます。この感想も「WHORU?」を聴きながら書きました。「まじお前誰?」→ゴリラ、ということですか。


5. 添嶋譲さん「カスタマーレビュー」

 テクニカルな印象の作品。古賀裕人作品の一つ、なのか?
「したくもない質問を何度もしてようやく来たと思ったら返事ではなくていきなり家の前にいた」の「したくもない質問」とは何なのだろう。正直、内容を理解しきれてはいませんが、謎を謎のまま楽しむ作品なのかもしれません。

6. 大江信さん「極北からの手書き文字」

 蜂蜜に関する細かい描写から話がはじまるのが好みです。語りの視点にも工夫がされています。蜂蜜のべたべた感が俯瞰的でクールな語りにアクセントを加えているような気がします。タイトルの「手書き文字」は蜂蜜が残す跡のことでしょうか? リアリズム小説家と思いきや「彼女の人生はいま八周目」とかさらっと出てくるのがいいです。
「洗面所はどこかな?」という質問から、「彼」は彼女と一緒に住んでいないことがわかります。やはり「かつての夫」=「彼」なんでしょうか? そうだとしたら、どうして彼女の家にいるのだろう。
 全体的に高い技術と意識的な仕掛けが楽しめる作品でした。

7. 比良岡美紀さん「架空⭐1レビュー」

 似たもの兄弟ということでしょうか。「キレっキレだよ。触ると血が出るよ」が良かったです。なんでグルメサイトのレヴューに低評価をつけられた文句を役所でしているんだろう、というところが笑えました。オチまでとてもうまくまとまった作品だなと思いました。

8. 草野理恵子さん「レビー小体」

 草野さんらしい繊細さと壮大さが調和した素晴らしい作品でした。
「これを登れってか? 紐だぞ紐」は草野さんには珍しいちょっと荒れた?言葉遣いだと思いましたが、取り繕わない感情を出した表現により、後半の感動が引き立てられた気がします。

9. こい瀬伊音さん「ルラの夢」

 現代社会の話かと思いきや、高校にも大学にも託児所がある未来?の話でした。託児所の人員はどうやって確保しているんだろう。と思っていたら、「昔は薄給だったらしいけど、次世代育てるってのにそれはないわよね。☆1から5へ変更。わたしは割りと満足して生きてる」とあるから、きっと待遇は改善されたのでしょう。しかし子育てを担っているのは誰なんでしょう? これは理想の世界なのか失敗した世界なのか。もちろん、全部、夢見がちなルラの夢なのかもしれませんが。

 全体としては、2、3、4段落の女性視点が新しい世界に適応しているのに、1、5段落の男性視点は現代日本とおなじようなことを言っているなと思いました。最後の独身男性の独白とか特に。

「ルラはサッカーゴールを地引き網に見立て、男子五人を強引に曳いていく」という出だしがこい瀬さんらしくて良かったです。かわいらしさとちょっとの怖さが溶け合ったいい作品でした。

10. 所沢海行さん「☆1」

 シュールな会社のレヴュー。「ワイシャツ越しの草原で育ったであろう逞しい筋肉」というのがよかったです。大阪育ちのモンゴルを感じました。こんな会社には入りたくないという気持ちと、入ってみたいという気持ちが同時に湧きました。給与次第ですね。

11. 赤木青緑さん「くさくあれ」

「よい書物にはにおいというものがあり、芳醇な薫りがただよってくるものである」と言われてみると確かにそうだという納得感がありました。「くさみを消すな!くさみがあなたの強みなのだから」というのは文芸を創作している古賀コン参加者にとってとても励みになるなと思います。ありがとうございました。

12. 葉月氷菓さん「流星チャーハン」

 一時間で書いたとは思えないような完成されたSF作品です。テクノロジーの説明にはついていけてないですが、レールガンでチャーハンをつくるという流れにロマンを感じました。「ローレンツ力により米がパラパラになる」の表現には才能のほとばしりを感じました。「冷めたチャーハンみたいに床にべちゃりと寝そべった」というオチまで完璧です。

13. エンプティ・オーブンさん「スター1☆レビュー」

 お題に対して、スターダスト☆レビューで応えるという発想が完璧だと思いました。一人でバンドを再現なんて、何やってるんだろう、と笑っていたら、衝撃の事実が明らかになります。最後まで「架空 “☆1” レビュー」というテーマをうまく生かしていました。「祭りはね、楽しければいいんだ。」というという結びは、古賀コンを象徴しているようで見事です。私立古賀裕人文学「祭」だ。文学「賞」ではない。Youtubeの動画も利用していることには賛否が分かれそうですが、僕はありだと思いました。この感想も曲を聴きながら書きました。

14. tairananameさん「頤をぶち叩くのは俺か、おまえか?」

 ☆1レヴューに書かれそうな文章を畳みかけるようにつなげながら、インパクトのある結びにもっていきます。小説なのか詩なのかジャンル分けは難しいですが、どちらにしてもとても言葉が濃密です。

15. 夏川大空さん「イケメン☆モテモテ学園ハーレム ドキドキスクールライフ♥」

 今回も夏川さんらしい自由すぎる作品。文章だけでなくイラストでも魅せてきます。新時代の文芸であるのと同時に、懐かしさも感じました。恋愛ゲームのドキドキ感を体験できました。恋に落ちる瞬間が良かったです。ついでにフラグも回収するという夏川さんのサービス精神に感動しました。

16. 日比野心労さん「夜渡り」

童話、民話や昔話的な作品(ビルとか出てくるけど)。「あちらの世界へ、こちらの世界へ」とあるので様々な世界線を渡り歩いているのかもしれません。
 今回の古賀コンはテーマのせいかいつも以上にネタっぽい作品が多かったので、個性があります。「船の舳先、コンがちょこんと立っていて、真っ暗な海を眺めてた」というのがかわいくてよかったです。
 文章も安定していて、とても完成度が高かったです。

17. 佐藤相平「一つ星」

 タイトルが一番の不満点。誰かもっといいタイトルを教えてください。
 ちなみに登場人物、設定などはBFC5に応募した「残り火」を利用しました。


18. 甘衣 君彩さん「ひとつの星から愛を込めて」

 創作していると「☆1のレビューすら書かれていない」というのはあるあるで共感できます。いいねもなかなかもらえないし、コメントなんてめったにもらえない。完成されているのに☆1がつけられる作品は負の感情を掻き立てるということで、それはそれですごいんですよね。もちろん☆5が欲しいですけど。☆1が擬人化するのはおもしろいのと同時に、それだけ評価を欲しているという語りの願望が出ていていいです。「幾つもの銀河を形成するほどの沢山の星を手に入れるために、素晴らしい小説を書いていこうと心に誓った」という結びの一文から、これからも創作を続けていきたいという元気をもらえました。

19. 貞久萬さん「チェリオス効果 -2.0」「チェリオス効果 -2.0 裏」

 一時間以内に表と裏を仕上げたのでしょうか?とても面白い試みで参考になります。古賀コンは一時間という枠組みを守れば何作でも応募できるので、二人の視点の作品をそれぞれ書くというアイデアは僕もできれば使ってみたいです。
「三ヶ月ほど前にどこかの高校の校歌がなんとかコンテストで優勝していらいい」には笑いましたし、チェリオス効果 -1.0に登場する涼子がアイドルだったというのには驚きました。

20. ユイニコール七里さん「星一通りにある架空場のレビュー」

 調べたところ、永野万蔵は実在の人物で、カナダに移住したことが記録されている最初の日本人。塩鮭の加工・輸出会社を設立して成功したそうです。(Wikipediaより)。マンゾウ・ナガノ山も実在するみたいです。
 ソフローニアという地名は調べても見つかりませんでした。本文でも「ソフローニアという聞いた事も無い町」と紹介されているので、架空の地名かもしれません。
 実在の人物や地名と架空の地名をうまく組み合わせることで、物語に深みが生まれているような気がします。架空場=火葬場というアイデアも良かったです。
 家族を題材にした、個人的には好みの題材です。ちょうど長嶋有の『佐渡の三人』を読んでいたので、葬式に興味が出ていたところでした。終わり方にも余韻があってよかったです。

 本橋君と綾瀬駅で会う話にお母さんからのLINEが挟まっていて、こういう複線的な話は好きです。最後まで展開が読めなくて面白かったです。「メガネウラ」はかつて実在した生物なんですね。
「森村誠一女のサスペンス捜査線上のアリア」についても調べました。2012年に放送されたんですね。

21. 鮭さんさん「足さん」

 水虫が臭くて去っていくことには笑いましたが、皮膚や血が去っていくこと一気に不思議な世界に連れて行かれ、締めが見事でした。どんだけ臭い足なんだろう。知的かつユーモアな作品でした。
「トコトコトコトコ」の繰り返しがかわいくていいです。

22. 七名菜々さん「5×10の一つ星」

『らーめん霧崎』は人肉を出しているのか?
 ラーメン大好き丸さんのレヴューを利用したメッセージは気づいてもらえるのか?
 タイムオーバーということで途中で終わってしまった作品ですが、続きが気になりました。

23. はしもとゆずさん「☆が欲しくなった日」

 かわいらしい作品を一時間以内に仕上げてらしてすごいなと毎回感動しています。照明が月っぽいから星を買おうと発想が素敵です。物理的に星を買う話は意外となかったので、新鮮さもありました。

24. 萬朶維基さん「薔薇と能楽」

 adoさんの写真集という発想がよかったです。「Adoさんの正体は実は三島由紀夫である」なんて無茶苦茶な主張だと思っていたら「どちらも〈ブルーローズ隊〉と〈楯の会〉という民間防衛組織の隊長であり、両者ともに高い芸術性を有していること~」から続く流れるような強引な論理で押し通そうとするところがいいです。古賀コン4の「アイスクリーム帝国の大予言」もそうでしたが、無茶苦茶な主張に説得力があるようなないような迫力のある筆力で力業で成り立たせているのが好きです。深い教養を感じます。ありがとうございました。三島由紀夫の「からっ風野郎」も聞いてきました。adoさんがカバーしたらおもしろいんじゃないかと思いました。
 後半のAdo=宮沢賢治の亡くなった妹、トシ説もよかったです。結局、『薔薇刑』は保管するんだ、というオチまで最高でした。

25. 小林猫太さん「俺か、ローランドか」

 小林さんらしくテーマと真剣に向き合った作品+古賀裕人小説です。レヴュー内容は、もっと暴走するかと思いきや、かなり真面目だなと思いました。
 僕もローランドには注目していたので、小林さんもそうだと知れてうれしいです。タイトルはローランドの「世の中には、2種類の男しかいない。俺か、俺か以外か」という発言に基づいているのだと思います。
 作品全体から、小林さんから古賀さんとハギワラさんへの歪んだ愛を感じました。愛が届いていたらいいなと願っています。

26. 安戸 染さん「星の子たち」

 世の中がレヴューに溢れた状態を、「気付けば周りは星だらけ、星に囲まれている、いや星に支配されていると言ってもいい」と表現したのは鋭いなと思います。
 そのうえで、星が1つの方が気軽に持ち運べるというのは逆転の発想で良かったです。☆1=最低評価というamazonなどのつくった基準にとらわれない自由さを感じました。
 壮大さとユーモアが融合しているところが良かったです。
(タイトルだけ見た時は「推しの子」ネタか?と予想しました)

27. 染水翔太さん「全日本架空☆1レビュー選手権」

 架空☆1レヴュー同士で戦うという斬新な発想と、それを書き切る筆力がすばらしかったです。ぶっとんだ描写が多い中、「入学あるいはクラス替えしたばかりのころ、やけに勢いがよくてリーダーっぽく振る舞うやつっているよな? でもそういうやつって真の1軍ではないんだよな」というマジなセリフが心に残りました。
 「カラオケ館江古田店」選手が残していったキックボードを「有村崑」選手が再利用したのが見事でした。意味不明だけど楽しかったです。ちょっと大人向けの『ボボボーボ・ボーボボ』という感じで、謎の満足感があります。

28. 回円さん『かくうほしいちれびゅー』『境界のレビュー』

『かくうほしいちれびゅー』は、今回の古賀コンのテーマをネタにした作品で、発想がおもしろかったです。「わかってないわね。」という終わらせ方がいいです。ドキッとしました。
『境界のレヴュー』は、「仮想空間から切断されていた」ということは、「異常な世界」=現実世界だったということでしょうか。皮肉が効いていていいです。

29. 𝐀𝐘𝐀𝐊𝐀さん 「“𝐕𝐄𝐑𝐘 𝐁𝐀𝐃 𝐊𝐈𝐍𝐊𝐈𝐍𝐆”」

 まず「Kogazon」で笑いました。買ってない商品をレヴューすると宣言する出だしから「大泉退次郎」「脱なんらかのシンポジウム2024」と流れるようにギャグが続き、期待が高まります。いよいよ商品が届きます(架空)、BLなのか?という配達員とのやり取り、左右の乳首にトンボが止まるなど、何を妄想しているんだろうと突っ込んでいると、話が壮大になり、遥かなる星の高みに思いをはせながら物語が終わります。
 この感想を読む方が、作品を先に読んでいるのか読んでいないのかはよくわかりませんが、もしかしたら、これから読もうとしている方は「そんなにネタバレというかギャグを感想に書いてしまったら自分が読むときに楽しめないじゃないか」と思われるかもしれません。しかし、この作品は数珠のように次々とネタが連なっているので、この感想を先に読んでしまっても、安心して楽しむことができるでしょう。だから読んだ方がいいです。

 全作品の感想を書き終えた後で、この作品に投票することに決めました。くだらなさと尊さを包含した懐の深さ。商品レビュー、現代社会批判、BL、様々な要素を両立させた迫力。「自由のレヴューするための愛と勇気の門戸は誰にだって等しく開かれているはずだ」という主張は今回の古賀コンを象徴するにふさわしいと思います。

30. 高遠みかみさん「最低評価が12件あります」

 正統派の架空の☆1レヴュー作品です。いつものようにとても知的で完成度が高い作品でした。英語を翻訳したような文が良かったです。
 タイトル通り最低評価のコメントが12件あった後(数えました)、1件だけ☆5評価があるという構成も巧みです。オチとしておもしろかったです。

31. うさみんさん「世界一信用できるレビュー」

 こちらも正統派の架空の☆1レヴュー作品です。おもしろかったです。
「橋本環奈さん似の男の子の毛」というのがよかったです。会ってみたいです。

32. ケムニマキコさん「君の知らなひ物語」

 ☆1レヴューをつけられた側の視点という着眼点がユニークでした。
「人が人を評価することがどれだけ傲慢なのことなのか!?」
「⭐︎1をつけるってことは暴力なんだよ」
 という文章はとても心に響きました。僕も感想を書くときに注意したいと思います。
 憎しみは憎しみを生むだけだとことが理解できました。最後まで勢いがあってよかったです。

33. 尾崎ちょこれーとさん「愛するヒビ」

 小説と詩のあいだのような作品。

ねえ、いま、この文章を読んでる人はさ、
友くんが、 ともくんなのか、ゆうくんなのかって
思ってるよね どちらでもいい?

 という問いかけにはドキッとしてしまいました。とても効果的だったと思います。

34. 牛ヶ渕ぽしぇっとさん「岩澤課長のトミー・ジョン手術」

 タイトルがいいです。岩澤課長がふつうに糞で良かったです。
 語り手もすぐに切れて、「我が社随一の武闘派で知られるこの私に下唇を突き出すとはいい度胸である。私はデスク脇に常備してある棒に手を伸ばしかけた」りしているので問題がある気がするし、湯浅も「秋広の席上にあった「お~いお茶」を手に取ると、私に手渡した」というのは人のお茶を勝手に渡したということなのか。とにかく問題児が集まっていそうな会社です。
 160キロのストレートが投げるなら課長をやめて野球選手になるべきだと思いました。
「元祖トミー・ジョン手術 トミー・ジョン本舗」には笑いました。

35. じゅーりさん「もう誰も殺させない」

 語り口調がテンポが良くておもしろかったです。「これは肉とサワークリームとオニオン時々マッシュルームの吹奏楽発表会三年生引退リサイタルやでー。こんなん坂元祐二のカルテット以来の衝撃やでー」とか最高でした。星一つにしないと大事な人が殺されるという設定も良かったです。
 タイトルもいいです。

36. えこさん「架空の虹を駆ける」

 SF作品。「レビューとは、天空を渡る芸術競技である。レビューの選手をレビュワーと呼ぶ」という設定がよかったです。二人の愛の重さや、「不可思議な快感」という表現に心を惹かれました。いいBLだったと思います。

37. 乙野二郎さん「ダウナ&アツパ2ndシーズン」

 ハードボイルドな探偵小説という雰囲気。かと思いきや割としょうもないオチで笑いました。まあ、臭い化粧品ってありますよね。
 元祖「ダウナ&アツパ」は六枚道場の作品のようです。僕は第10回は参加してなかったのでこちらも初見でしたが、おもしろかったです。同時に六枚道場が懐かしくなりました。


38. はんぺんたさん「星が欲しけりゃ自分で掴め!」

 赤文字に黄色背景と、視覚にもこだわった作品。☆1レヴューをつけまくるというのは笑ったのと同時に、作品とは直接関係ないですが、☆1レヴューをつけるという行為に、ある種の暗い快感が伴っているということを発見できました。
 オチもうまいです。

39. 鞍馬アリスさん「切れ痔レビュー」

 久しぶりに鞍馬アリスの切れ痔小説を読めてうれしいです。六枚道場以来でしょうか。伝統芸のすばらしさを再認識できました。心が揺さぶられ過ぎると、人間は「いい……」とか「面白い……」という感想しか出て来ない」というには切れ痔だけでなく文学にも当てはまるなと思いました。

40. 草加奈呼さん「リサイクルショップ魔蒼堂 」

 ファンタジー作品を一時間で仕上げるのは難しいですが、しっかりと完成されていて、アイデアも面白いです。「顧客に「不完全な製品」を見せることで、かえってそのアイテムがどう進化するのかを見守る楽しさを提供する」というのは現実世界のビジネスでも成功するかもしれないなと思いました。結局は、誠実に商売をするのが一番という結論もよかったです。

41. あきのみどりはさん『秋来たりぬ』

 宝塚的なレヴュー作品。☆1=プリマ・ステラということでしょう。個人的には昔プロだった人がたまにその実力を見せつけるという話が好きなので妄想が広がりました。

42. くさのこうやさん(くさのりえこさん手伝い)「ほしひとつ」

 二人の愛情を作品から感じ、心が浄化されました。対話によってストーリーが予想しない方向に進んでいくのがおもしろかったです。
 親子合作というのも古賀コンでしか実現できない形式だったのかなと思います。新たな可能性を感じます。

43. 百目鬼 祐壱さん「紀子先生」

 ビンラディンが殺害されたのは2011年5月2日です。
 どこまでが真実で、どこからが語り手の妄想なのかわからないところが好きです。「紀子先生と私は近しい運命の下にいたのは事実」みたいな一方的な思い込みが終始語りを引っ張るところがいいです。
 ノコギリがホームセンターに売っていなかったという部分まではある程度のリアリティがありますが、「海が見える町の近くに小さな古民家のようなところがあって、そこにのこぎりは置いてあって、そのとなりに紀子先生がいました」というところから話が躍動します。なぜ紀子先生は十円玉を三枚くれたのか。公衆電話?「窓から身を投げ」だのは誰なのか。現代世界にもつながるラストが余韻を残します。
 最後まで読み終えた後で先頭に戻り、これが1年前に投稿されたレヴューということに気づきました。「もう何年も前のことだから記憶も定かではありません」という文が示すように、おそらく語り手は高校を去って十年たっています。なぜ今さらこんなレヴューを投稿しようと思ったのだろう。「窓から身を投げた」のは語り手で、ずっと昏睡状態だったのか。そうだとすると「そうやって目を覚ました私はベッドの上で携帯を開き」という文に納得がいきます。「携帯を開」くということは、語り手が使っているのはガラケーのはずです。十数年前ならまだガラケーの人もいたと思います。
 もちろん、紀子先生のガラケーを語り手が持っていて、ずっと使っているという可能性もありますが。
 高校のレヴューは僕もやろうかと迷ったのですが、この作品に勝てないので、回避して正解でした。

44. 大杉玲加さん「天使の星」

 今回の古賀コンでは星1つをマイナスに扱う作品が多かったので、星を1つずつくれるのが天使の優しさだったというシーンにほっこりしました。(「星、いろんなところにいっぱいあったほうがいいかなって思って。だから星をひとつずつ渡してた」)
 ゆったりルームウェアを着て、腹這いになって袋入りの芋けんぴを食べているからやる気がない天使なのかと思いきや、星を書く練習はしていたりと、ギャップがよかったです。
 文章が淡々としているのも個人的には好みでした。

45. 枚方天さん「二度と御免だ」

 とても共感できる作品。健康診査に行って何も異常が見つからないとそれはそれで損した気分になります。もちろん、健康が大事ですが。

46. 和生吉音さん 「星とはどんなものかしら」

 星一つ=低評価、という認識が原始時代からあったのかと思いきや、文明が滅びていた、という展開がおもしろかったです。「ポケモン」「「ポケモン」で笑わせてから、「ホーシャノー」で現実の問題を突き付けてくる緩急も素晴らしかったです。今回も気楽そうに見えて手が込んだ作品でした。

47. のべたん。さん「☆1」

 作者さんの誠実さが伝わる。好きな作品。弱い立場にいる人間がさらに弱い鳥を殺さなくてはいけないという状況が、とても現代的です。「血のように真っ赤な瞳でぼくをみる」という殺される寸前の鳩の描写が胸に迫ります。最後、鳩の卵はどうしたのか。語り手はこれからどうするのか。「ぼくは、ベランダの鍵をかけ、カビの生えた布団にもぐり込む」というラストがいろいろな想像の余地があって良かったです。

48. 海音寺ジョーさん「星合(ほしあひ)」

「夜食にはキーマカレーのランチパック」と「玉手箱バキバキにして生身魂」には笑いました。俳句は全然詳しくないのですが、「デシャップに顎のせて寝る春近し」とか結構いいじゃん、☆1はないでしょと思ったので、有識者の意見を聞きたいです。

49. UBEBEさん「『地球』への上位レビュー」

 Amazonを再現した作品。皮肉が効いています。ジョン・レノンのくだりには笑いました。
 地球以外の星を僕も利用したくなりました。

50. 藍笹キミコさん「恋愛感情についての勉強、期待外れな教材」

 まさかのAIによる商品レビューです。AI同士で互いのレヴューを参考にするというのもおもしろいです。AIに恋愛感情が理解できるのか、生産性が高くない不合理な知識だから必要ないのか、そもそも恋愛感情とは何なのか。さまざまことを考えさせてくれる作品でした。

51. 栗山心さん「Pちゃん」

 子育て体験ロボットを題材とした作品ということで、坂崎かおるさんの「私のつまと、私のはは」(以下「私の」)のことを連想しました。「私の」を読んでいない方には申し訳ないですが、両者を比較しながら感想を書いていきます。

*私が以前書いた考察

「私の」では女性同士のカップルがロボット(ひよひよ)を育てますが、「Pちゃん」では「あれ以来、ほとんどの女性の妊娠出産が不可能になったために、叶わないと思っていた我が子をこの手に抱き、育て上げる」ために語り手は「PLQ9755のモデルを、長期レンタル割で利用」したようです。

「到着するまでの間は、好奇心と罪悪感が綯い交ぜになっていたようで、毎晩夢を見てはうなされていました」と語り手は述べていますが、なぜ「罪悪感」があったのか。育児体験ロボットを世話するのに不安を感じるのは理解できるけど、罪の意識がなぜ生まれるのか。正直、「Pちゃん」の作品だけではわかりませんが、「私の」においてひよひよの開発者が「子育ては神聖であると我々は考えています」「もしかすると、我々の商品は、製品として存在する時点で、その神聖さを侵すなんらかの罪を背負っているのかもしれません」と話していることこ関係があるのでしょうか。栗山さんが「私の」を読んだうえで「Pちゃん」を書いたのかと気になりました。

「私の」ではひよひよは排便などの世話が大変で、それがカップルの破局につながりますが、Pちゃんは「一歳前には流ちょうに数か国語を話し、歩き出すと同時に側転、バク転までこなし、縦横無尽に駆け回り、人に優しく自分には厳しく、好き嫌いなくすくすくと育ち、見目麗しい長身体躯」と、あまり世話に手がかからなそうです。「育児の醍醐味を味わえなかった。スーパーの床に寝転んで駄々をこねる子供に怒り散らしたり、隠れてたばこを吸う不機嫌な反抗期の子供と、真剣に向き合って見たりしたかった」というのは贅沢な悩み、というか☆1つをつけるための強引な文句にみえます。

 最終段落には「子供が持てない人にも育児体験をというコンセプトのこのプロジェクトが、未だに続いているのか、担当者がいるのかも定かではない。しかし、こんなことはきっと止めるべきだろう」という文がありますが、「こんなこと」とはどんなことでしょう。たぶん、「子供が持てない人にも育児体験をというコンセプトのこのプロジェクト」を止めるべきだと語り手は考えています。なぜなのか。この作品に「PLQ9755のモデルを、長期レンタル割で利用させていただきました」とあるので、育児体験ロボットは基本的にレンタル制。そして、レンタルが終わったロボットは「工場に戻され破棄される」。他の多くの「PLQ9755」は返品されて、処分されたのでしょう。少なくとも語り手はそう考えている。Pちゃんに愛を持っている語り手には耐えられないはずです。(もしかしたら上に述べた「罪悪感」も関係しているのかもしれません)

「私の」においても、育児体験ロボットをいつまで育てるのか、どうしたら育児体験が終わるのか、という問題がありました。多くの場合の子育ては(この表現が正しいのか自信がありません)、子どもが成長して自立するにつれて負担が軽くなりますが、現在のテクノロジーではロボットは永遠に成長しない、成長したとしても成長に限度があります。「私の」においても「立ち上がるようになる一歳」までで成長は止まり、初期化をしてからひよひよを返品したり、廃棄したりしないとひよひよの世話は終わらないという要素がポイントだったと思います。(また「私の」においては初期化のために「首を折る」ことが必要というのが効果的な設定でした)

 一方で、Pちゃんは「好き嫌いなくすくすくと育ち、見目麗しい長身体躯」になったようなので、身体(?)的にも成長したようです。しかし、Pちゃんが人間とおなじ意味で二十歳になっていたら、親に反抗したり、ある程度自立しているはずなので、「永遠に私のそばに居る」とか、最後の「ね、Pちゃん」という呼びかけには違和感があります。可能性としては、レヴューは架空のものなので、嘘が混ざっているのかもしれません。つまり、Pちゃんは本当は成長していない、語り手の心の中でだけ成長したのではないかと思いました。

 なぜ二十年経った今になって架空の☆1レヴューを送ったのか。もう「保証期間が過ぎているので、本体は返品不要」だったとしたら、☆1レヴューを送らなくてもPちゃんは語り手の物ではないのか。
理由①「このプロジェクトが、未だに続いているのか」はわからないけれど、☆1レヴューがつくことで、新たな購入者が出ないようにするため。
理由②このレヴューを送り、「A社からは定型文の返信」をもらうことで、Pちゃんが「工場に戻され破棄されることはなく、永遠に私のそばに居る」ことを確認するため。

 女性の妊娠出産が不可能になった「あれ」とは何なのか。これはヒントがないから考えてもわからないかな。男が滅んだとか。

 作品世界では子どもが全く生まれないor何らかのテクノロジーで子どもが人工的につくられている。どちらにしても「我が子をこの手に抱き、育て上げる」のは容易にできない状況のようです。しかし、そのような状況ならば子育て体験ロボットには需要があるはずなので、最終段落の「そもそも、子供が持てない人にも育児体験をというコンセプトのこのプロジェクトが、未だに続いているのか」という疑問は生まれないはずです。

 もしかしたら、誰も子供を産まない世の中になったら、誰も子供にあこがれをもたなくなり、子育てをしたくなくなるのかもしれません。「私の」には「あの機械人形(=ひよひよ)がもし広まったら、子どもをもつ人は増えるのかしら、減るのかしら」という問いかけがあります。それに対して「Pちゃん」という作品は「もし子どもが減ったら、育児体験ロボットを持つ人が増えるのか、減るのか」という問いかけなのかもしれません。

 感想が長くなった上にまとまりがなくなってしまいましたので、ここら辺で止めます。栗山さんは古賀コン5の「右」とテーマを正面から処理していて素晴らしかったですが、今作も「架空の☆1レヴュー」という難しいテーマをうまく作品で生かしていてすごいなあと思いました。

52. 津早原晶子さん「キジバトの星」

「無印良品の白いシンプルな鳩時計」はこれでしょうか。

 少女はいらだってますが、読んでいる私はいやされる、鳩時計の鳩が話しはじめるとかいいな、と思いきや最後は壮絶です。すごい作品だなと思います。

53. 入谷匙さん「カスカスのカス」

 ホラーっぽさがある作品。語りの自由さがいいです。
 語り手は夢の中で死んだのではないのかという気がしました。なんとなく。
 ☆1レヴューのはずなのに、万年筆を久しぶりに使いたくなりました。

54. 吉野玄冬さん「超新星に捧ぐ墓碑銘」

 二重の意味でレヴュー作品。宝塚も演劇も歌劇もオペラも見に行ったことがないですが、『堕天』がどのような作品だった伝わってくるのは、作者さんの描写力の高さを感じます。
 最後に悲しい事実が明らかにされる構成も巧みでした。

55. 柊木葵さん『帰路』

 文章の密度が濃い作品。作品全体に漂う焦燥感や緊張感が良かったです。ニオイなど五感を利用した描写も巧みで、読んでいる僕も迷子になったような感覚になりました。金属音も効果的です。最後の一文も、金属音が遠ざかっていくことに安心感はあるものも、振り返った先になにが見えるのかわからない不安感があっていいです。

56. それいけ! まちか2世さん「ネオチンピラ」

 やくざ映画が好きなので、楽しかったです。この後、ネオチンピラ同士の戦いがはじまるのかと、ワクワクしました。

「ネオチンピラ」で検索すると、『ネオチンピラ 鉄砲玉ぴゅ~』という映画が出てくるけど、関係あるのだろうか?

57. 桜雪さん『⭐︎1の方が幸せだった』

 地獄がブラックな職場というのがおもしろいです。☆1=最低評価という前提を利用した発想が光っていました。語り手の鬼は本当にドジっ鬼なのか?わざとやってないか?
 ラーメン店のレヴューの話が多いですが、ラーメン業界も過酷なんだなと知りました。

58. 夏目ジウさん「ヒロト⭐︎シンジ1.2.3」

「この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません」と冒頭にありますが、古賀裕人さんとハギワラシンジさんを元ネタ?にしたらしい作品。小林猫太さんの作品や久乙矢さんの『割りスープに焼き石』もそうでしたね。古賀コンで古賀裕人ネタはやりつくされてしまったので、ハギワラさんまで投入するのが今後の新たな流行になるのでしょうか? ハギワラさんがどう思っているのか少し気になります。もちろん、「シンジ」が碇シンジ、香川真司、岡崎慎司、谷村新司などを指す可能性もありますし、完全に架空の人物な可能性もあります。
 B級映画感が味わえる作品で、楽しかったです。今や絶滅しかけているアダルトコーナーを舞台にしているところにもノスタルジーを感じました。

59. 605さん「間違いなく良品。ただし同封品のみ難点。」

 除霊師による塩のレヴューというアイデアがいいです。「空間除霊密度」をはじめ、細かい設定も面白かったです。除霊業界や塩業界の厳しさがわかりました。
 言いがかりみたいな☆1レヴュー作品が多い中、理由に納得できる、正当な☆1レヴューというのが新鮮でした。

60. 野田莉帆さん『コガヒトロ社をよろしく。ロボットの会社です。』

 「嫌だ」連打が良かったです。僕が「第誤回 私立古賀裕人文学祭感想」でネタにした同じ文字を書きまくる作品がすぐに出現したことに驚きましたが、ちゃんと作品内で生かされていて見事だと思いました。
「嫌だ」が脳内にあふれたものの、表向きでは冷静に進言することしかできないロボットの悲しさがいいです。

61. 群青 すいさん「Lucifer」

 オシャレな作品ですね。「金星が銀河をふみ砕くピンヒールで」に色気を感じました。
 どうしてペリドットが出てくるのだろうと思って調べたら、隕石がペリドットを含んでいることがあるんですね。なるほど。

62. ししゃもさん「古賀コン」

 古賀コンに☆1をつけるというありそうでなかった発想がすごい。「寝る間を惜しむ前に寝たいし」の素直さもししゃもさんらしくていいです。この内容なら短く終わらせた方が説得力があるのでそういう点も見事だと思います。
 確かに古賀コンの開催期間は短いですよね。特に投票期間はもう少し長くした方がいいと毎回思います。作品を読みきれない方が多いようなので。多忙な古賀さんの事情もあるでしょうが。

63. 只鳴どれみ「Yalla(ヤッラー)」

 勢いとリズム感がある作品。ハギワラさんに実況してほしくなります。小説の可能性というより可能性の文学を感じました。強いです。なんだか高橋源一郎の『ジョン・レノン対火星人』の石野真子の資本論おじいちゃんの話を思い出しました。

64. 笹慎さん「★☆☆☆☆『オーシャン・リーパー2』レビュー(ネタバレあり)」

 好きだった作品の続編が駄作だと落ち込むよね、という誰もが共感できるレビュー。ここまでひどい続編は珍しいと思いますが。逆に見てみたくなりました。おもしろかったです。

65. 山崎朝日さん「湖の虹」

 美しい物語でした。お父さんに魔法の才能があるという設定が面白いなと思いました。ハリー・ポッターなどのせいで少年少女が魔法学校に行くイメージが強いので。
 初読時は「怒り狂って、嘆き悲しんで、自分がかけた虹を引きちぎった」に違和感があったのですが、最後まで読むと理解できます。
 カレッツァ湖はイタリア北部、南チロル地方にある湖のようです。また、carezzaはイタリア語で「愛撫」「可愛い」「愛らしい」を意味するらしいです。

66. 南国アイスさん「お星様があなたをレビューしちゃうぞ・ᴗ・」

 文学とは何かという枠組みをぶっ壊す、こういう作品がやりたかった、と嫉妬してしまう作品です。
 今回の古賀コンに参加する作品を書く前に考えたのは、架空の☆1レビューというお題で本当に架空の☆1レビュー作品を書いたら埋もれてしまう、ということでした。
 だから、レビューをそのまま題材するなら、古賀コンの根本的な枠組みを破壊するような作品にしなければいけないと模索し、結局思いつかなかったのですが、南国アイスさんの作品は見事な解決策になっています。

67. 子鹿白介さん「☆の数は3の倍数で」

 低評価レビューがつくのは嫌だけど、レビューが全くないのは悲しいという、物書きあるあるな作品。甘衣 君彩さんの「ひとつの星から愛を込めて」と似た方向性です。
『転生したら河童だったので相撲部屋に道場破りしてみた』は読みたくなるタイトルですね。ちょっとだけ紹介される内容もおもしろそう。作中作をうまく扱うのは難しいですが、成功しています。軽快ながらもテクニカルな作品だと思いました。

68. 長尾たぐいさん「炙りカルビ 薄切りタレ漬け 特選 6人前」

 早口言葉を取り入れた作品。ハギワラさんに実況してほしくなります。気合の入った☆1レビューが軽く流されることに悲哀を感じました。

69. 若山香帆さん「川のホテル」

 幻想的で美しい作品。異常な状況をさらりと書きこなす作者さんの高い技能を感じました。すべてが夢のように消え去り星の粒が残るラストもいいです。
 実は、僕も部屋の中を川が流れる小説を書こうとして失敗したことがあるので、とても勉強になりました。

70. 松本玲佳さん「遅咲きの花」

 冒頭の重厚感ある描写から世界観に引き込まれます。
 具体的には、一文目の「人気のない並木道は、いつの間にか地を這ってきて、辺りに重く立ちこめた灰色の霧に沈んで、まるで冥府へと続く一本道のようだった」という文章がポイントだと思います。「いつの間にか地を這ってきて、辺りに重く立ちこめた灰色の霧に沈んで」と表現を重ねたことで、若干の読みにくさが生まれるのですが、読者にゆっくり読むことを強いることにより、流し読みされがちな風景描写に注意を向けさせることに成功しています。暗い風景を印象付けることが作品に厚みを生み、後半の感動につながっています。2文目以降の描写は読みやすい短文を重ねているので、一文目のゴツゴツ感は意図的なものではないかと推測します。
「私は……誰かに褒められたいから絵を描いているのではないのです……世界がいつの間にか汚れてしまったから、せめて美しい絵画に留めてあげたい。ただそれだけなのです……」と臆せず言い切れるのが玲佳様の強さだと思います。芸術の可能性に対する確信に感動させられます。神々が星を与えたくなるのも納得です。

71. ましこさん「コンビニで選ばないおにぎり第一位やんけ」

 ギャグっぽいタイトルとは裏腹に、さわやかな青春小説でした。僕も居酒屋でバイトとかすればよかったなと思います。「家に帰ったら、大好きな野沢菜のおにぎりを買って、小説を読みます」には切なくなりました。


72. ハギワラシンジ「濃厚と淡麗のあいだ」

 まず気になったのはどうして「2015年7月某日」という日時設定にしたのかということです。マクロスFや中島愛さんのイベントもないし、『君に届け』のアニメや映画があった年でもない。まあ、いいか。
『終わりなき不在』は佐川恭一の作品
1つめの〜めんがき〜はTSUNAMIのパロディー?
『濃厚と淡麗のあいだ』は『冷静と情熱のあいだ』
『メイクパプリカグレートアゲイン』はMake America Great Again
「アジカン」や全体的な一昔前のステレオタイプなオタク口調(「きますた」とか)も含めて、ハギワラさんって僕と同年代なんだなということを思い出しました。懐かしくなります。僕は楽しかったです。キラッ☆
 しかし、古賀コン参加者は20代が多いようです。このノリが通じるのかと不安になりました。みんな「星間飛行」とか知ってるのかな。

73. 吉田棒一さん「無題」

 メモ帳からの投稿という斬新な形式です。狙ったのか、9月30日20:50と締め切り時間ギリギリだからとりあえずスクショした画面を利用したのかわかりませんが、おもしろいです。短い作品だけど勢いがあって楽しかったです。

74. M☆A☆S☆Hさん「架空の古賀裕人の★1朗読」

 サムネの「画像引用 古賀裕人(女性)」に笑いました。
 朗読作品という斬新な発想。しかも古賀さんの作品を読むという発想が優勝です。朗読としても☆1じゃなくて☆5だと思います。数ある古賀裕人作品の中でも古賀さんへの愛が伝わってくる作品です。
 どうして背景が料理動画なんだろう、というのも楽しいです。

75. 夏原秋さん「燃える星」

「一生懸命に働くあまり、気付けば私の体は動かなくなってしまいました。どうしても身体が言うことをきかなくなりました。まるで魂だけが抜け出して、自分の体を見下ろしているような感覚でした」で語り手は死んだようです。初読時は気づきませんでしたが、そうすると後の展開が理解できます。星を題材にした美しい物語だったと思います。

76. 蒼桐大紀さん「もちろんこれはたとえ話です」

 前半は違和感がある描写が多く、それが後半の伏線になっています。
 睦美のノートを見た時に、香乃子が自分のページは探したのに、好香のページは探していない。
 一番の決め手?は「そして、私のことを〝友達〟と言ってくれそうな人は、このクラスの中では睦美以外にいない」という文です。あれ、好香は友達じゃないの?と疑問に思います。冒頭の「たとえば、私が一人でなかったのなら……。」もそうです。そもそも好香だけ苗字もわからない。
 どうやら好香は実在しない、香乃子の空想上の人物のようです。これがタイトルの「もちろんこれはたとえ話です」につながっています。
 前半の3つは☆なのに、後半の2つは★になるのが目印です。☆になっている章には架空の話が入り、★の章は事実と考えてよさそうです。だから「私はその時なにもできませんでしたし、なにひと言も言えませんでした。
好香なんて人間はどこにも存在しませんし、弱い私は弱いままで一人でした」からは現実の告白になります。
 問題はどこまでが架空で、どこまでが事実なのかということです。「彼女は私を〝友達〟と評価してくれていたみたいですが、実際の私は〝隣人〟としてすらまともに機能していなかった」という文があるので、そもそも二人は友達ですらなかったという解釈もできますが、睦美のノートを見たことや、二人で夏休みで遊んだことまで空想だと、この話はほとんど架空になってしまうので、好香がいない、ということ以外は現実だと考えてよさそうです。
 謎なのは「——嘘つきっ!」というセリフです。香乃子はほとんどセリフが無いので、嘘なんてついてないのではないか。どちらかというと、何も睦美に言えなかったことを後悔しているのではないか。たとえ話を嘘を表現していると解釈するのが自然でしょうか。

「もちろんこれはたとえ話です」といったら『ジサツのための101の方法』のopの『ヒカリ』を思い出します。が、関係あるのでしょうか?

「以前読んだ本で、行き詰まった女子高生がクライマックスでスマートフォンを海に放り投げるシーンがあったのを唐突に思い出した。」
 武田綾乃の『青い春を数えて』に収録されていた短編でしょうか?(本が手元になくてタイトルがわからない)

 長いうえにまとまりがない感想になってしまいました。蒼桐さんの作品は今回も一時間で書いたとは思えないように手が込んだ作品でした。楽しかったです。

77. sayakaさん「星を並べて」

 蒼桐さんに続き、人に☆1評価をつける作品です。ちょっとホラーっぽい雰囲気があり、謎が謎のまま終わるのも短い小説として巧みだと思いました。

78. 坂水さん「センチメンタル・ファニー・スター」

 レヴューの☆不足という発想がおもしろいです。三星嬢との出会いから語り手が心を入れ替え、地道に物語を紡ごうとする展開に心が温まりました。文章はこなれてない、ということはなく安定して上手でした。

79. サクラクロニクルさん「ひとつ星」

 今回も上質な百合作品。そして圧倒的文章量。
 二人の登場シーンが魅力的です。
 また、作中のレヴューにサクラクロニクルさんの文学観が表れていて勉強になります。ふだんからたくさんのレヴューを書いているサクラクロニクルさんの強みが生きていると思います。「女性だけが登場する、というような内容ももはやありきたりを通り越して古臭い。ただ性別としての女がたくさん登場すればそれは百合、のような適当さすら感じる」とか、サクラクロニクルさんの百合書きとしてのプライドを感じました。
 タイトルが、僕とかぶりましたね。

80. 杏杏さん「おすすめ」

「 架空 “☆1” レビュー 」がテーマだった今回の古賀コンの最後にふさわしい、容赦ない☆1レヴュー作品です。僕としては、☆1をつけるのはよくないという道徳的な作品も好きですが、「おすすめ」のような上質な悪意のある作品にも惹かれます。意外と、何のためらいもなく☆1をつける作品は少なかったので、光っている作品だなと思います。

最後に

 みんなの作品に☆100!

追記

 牛ヶ渕ぽしぇっとさんがすばらしい感想を書いてくれたので、こちらも読んでください。


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英語を教えながら小説を書いています/第二回かめさま文学賞受賞/第5回私立古賀裕人文学賞🐸賞/第3回フルオブブックス文学賞エッセイ部門佳作