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星野リゾートは投資対象になるか、実際に宿泊してみた

星野リゾート社長の星野 佳路(ほしの よしはる)さんの経営哲学を本やYouTubeを通じて知るたびに、同社に興味を持つようになりました。何よりも話がわかりやすい。

ホテルマネジメント学科が有名な米国コーネル大学のビジネススクール(大学院)で経営を勉強されており、非常に論理的です。星野リゾートの経営の強みは、アメリカの経営理論の良いところを取り入れながら、独自の日本的経営手法を確立されていることと個人的に感じました。そこで。。。

投資対象としてどうだろう?

自分の場合、経営者や企業に興味が湧くとその会社を投資対象として調べたくなります。ホームページなどで投資家向けのIR資料(決算資料、財務諸表など)を調べますが、今回は実際に星野リゾートに宿泊してみたいと思いました。理由はそうすることにより、独自の日本人にしかできない経営手法を体感できると考えたからです。


1. OMO金沢片町(2024年3月に2泊三日で滞在)

星野リゾートの中では都市型のカジュアルなサブブランドOMO。金沢市内の便利な街中に位置しています。値段は時期や曜日にもよりますが、二人部屋が大人二人、朝食付きで1泊1室 1-2万円台のカジュアルなホテルです。でも、あなどれません。室内は20平米強でそんなに広くないものの、機能的でインテリアデザインもスッキリしていて、とても快適。たとえばスーツケースはベッドの下に隠すように収納できるようになっており、取り出すのも手軽で便利です。

1階にある共有部分のカフェレストランも自然光が入りひろびろしています。朝のビュッフェの時間、そこそこ人がいても混み合っている感じはなくストレスフリーです。金沢らしい伝統的な柄のオブジェや職人の作った工芸品が内装を飾り、客室内同様にセンスの良さを感じます。海外からの観光客は伝統工芸の置き物の写真を撮っていたりします。(もちろん、私もです!)

https://hoshinoresorts.com/ja/hotels/omo5kanazawakatamachi/dining/

このカフェレストラン、夜はカフェやバーとしてまったり過ごすことができます。ライティングのせいか、日中とは違ったおちついた雰囲気で、ゆったりとリラックスした時間を過ごせます。ここでも星野リゾート独特の品の良さを感じます。

OMO金沢片町:夜のカフェレストランの雰囲気


OMO金沢片町:カフェレストランの伝統工芸オブジェ

会社員のときは出張で勤務先が法人契約している外資系、日系のホテルによく泊まりました。これらはいわゆる高級ホテルなので、確かに部屋が広かったり、内装のデザインも凝っているので最初の5分ぐらいは「さすが、豪華だなー」と感じます。でも、しばらくすると、不必要に大きい人工的な豪華さの空間に飽きてきます。残念ながら、ワクワクするような気分の高揚はなかったです。(仕事ということを差し引いても。)

一方、OMO金沢片町は、2泊3日の滞在を通じて、星野リゾートの「遊び心」「センスの良さ」を感じました。施設などのハード面だけでなく、ソフト面でも従業員の若者たちが前向きに働かれているし、こちらが困ってキョロキョロしていると察して先に声をかけてくれたりと、カジュアルなホテルでありながら顧客目線のサービスを提供してくれています。

欧米やアジアからの観光客も多く、彼らにも十分良さが知れ渡っている評判のホテルなんだろうなと感じました。以来、海外の知り合いが日本に来た際には都市部にあるOMOをススメています。

2. 青森屋(2024年7月に3泊四日で滞在)

青森屋は海岸沿いの八戸から近い三沢市にあります。旧渋沢家の邸宅や農場のあった広大な敷地内に温泉リゾートとして「古牧グランドホテル」があった場所です。同ホテルは人気を博していたものの、バブル期を経て、膨大な債務を抱え2004年に経営破綻。その後、投資銀行のゴールドマンサックスが事業再生のため資本を注入し、星野リゾートがホテルマネジメントを担うことにより、現在の青森屋が誕生しました。では早速レビューしますね。

ハード面
青森屋のハード面については、古牧ホテルを再生したため、エレベーターなどの共有部分に古さを感じます。部屋もよく見ると、建物の古さを感じる部分があります。しかし、そこは星野リゾートのホテルマネジメント能力で、うまくリカバーできていると言えます。たとえば、シャワーも肌あたりの優しいシャワーヘッドを使っていたり、トイレも最新のものを備え付けてあるので、快適です。また、部屋から見える自然のビューなどは感動的なぐらいパノラミックで綺麗です。このために部屋代をはらってもいいと思えます。

青森屋:客室からの眺め

敷地内の公園は広大で、森といった方が正しいぐらいで、自然そのものです。「森」を一周するのに30分ぐらいかかります。歩かずにじっと森林浴をしていても鳥のさえずりや、そよ風に揺れる木々のざわめきを聞きながら、気持ちよく何時間でも過ごせます。森を歩くと、途中に足湯、馬のいる牧場、わらぶき屋根の古民家などがあり、風情を感じます。

青森屋:森の中の牧場
青森屋:森の中の池と空
青森屋:夕方の森と古民家
青森屋:照らされた森の夜道

ソフト面
ソフト面は星野リゾートらしさがふんだんに感じられ、どれも完璧に近いです。
最も印象に残っているのが食事です。

食事(ビュッフェ、古民家レストラン)
ビュッフェは東北の旬の魚、肉、野菜を使った焼き物、揚げ物、なま物がふんだんに用意されています。どれもレベルが高く、楽しいです。デザートもケーキからソフトクリーム、あんこものまで用意され、子供からお年寄りまで楽しめます。

今回の3泊四日の滞在では到着日の夕食のみビュッフェでとりました。それ以外は朝食も夕食も事前にネットでオプショナルの古民家レストランを予約しました。理由は、追加費用はかかるものの、星野リゾートのホテルマネジメント力がここでも感じられるかなと思ったからです。

実際どうだったのか?

期待どおりというか、それ以上に古民家レストランでの食事はよかったです。連泊したので朝食は3回、夕食は2回でしたが、毎日メニューに工夫を凝らしながら東北の海や山の素材を生かしたさまざまなお料理を提供してくれました。美味しいだけでなく、器、盛り付けの彩りなどに気を配ったお料理のプレゼンテーションは芸術的です。

青森屋:朝食
青森屋:朝食の鍋物
青森屋:別の日の朝食
青森屋:朝食の鍋物
青森屋:夕食の前菜
青森屋:夕食メイン(りんごの形をした焼き物のお皿と牛肉)
青森屋:別の日の夕食の前菜
青森屋:別の日の夕食メイン(お刺身)

また、朝夕、共に品数も量も多いため、お昼は抜いたり、軽食で済ませても問題ないほどでした。また、若い従業員の方たちのサービスは親切で丁寧、でもフォーマルすぎないところがよかったです。かしこまらず、星野リゾートで働くことになった経緯や過去の苦労、やりがいをざっくばらんに話してくれました。「また明日もよろしくね」と自然に言葉が出るような、気持ちの良いものでした。

その他のソフト面

まつりや(青森のまつりのイベント)
青森のねぶた祭などを再現した約1時間のイベントを観覧しました。ネットでホテルを予約した際に、このイベントと席も併せて予約しましたが、大人気で当日は満席でした。イベントは若い従業員の方たちが中心になって、青森の各種お祭りをミュージカルのように歌って踊って紹介してくれます。本物のねぶたが出てきたり、影絵も凝っていて、子供たちも大喜び!もちろん大人も楽しめます。こちらについても、宿泊される方にはぜひおすすめしたいです。

青森屋:まつりや(イベント)
青森屋:イベントのねぶた

廊下のねぶたの飾り付け
1階にある温泉からビュッフェ食堂に通ずる廊下に、無数の金魚のねぶたが飾られていて、とても幻想的で綺麗です。思わず写真を撮りたくなる美しさ。季節によってりんごのねぶたなどに変わったりするようです。ここでも星野リゾートのセンスの良さを感じました。  

青森屋:廊下の金魚ねぶた1
青森屋:金魚ねぶた2

蛇口から出るリンゴジュース
温泉の入口近くに、青森産のリンゴジュースが出てくる蛇口があります。子供にもおとなにも大人気!特にお風呂上がりはとても美味しく感じました。外資系高級ホテルではマネのできない、日本の温泉旅館にぴったりマッチした星野リゾートらしいサービスです。

子供たち向けのりんご飴とラジオ体操
金魚のかたちをしたりんご飴津軽弁ラジオ体操など、子供たちにとっては良い夏休みの思い出になること間違いなしですね。

青森屋:りんご飴
青森屋:ラジオ体操告知

従業員のサービス
星野社長がメディアで説明されているとおり、従業員の方々は専業ではなく、マルチタスクです。空港に迎えにきてくれたバスの運転手の方が、午後にはアクティビティの予約受付にいました。また、フロントの受付にいた若者がまつりやのイベントで歌って踊ったりもします。

人事異動で色々な職種を数年の間に経験するのではなく、文字通り同時並行で行う。米系企業で専門性の高い仕事をすることが良しとされてきた自分にとっては、真逆の仕事のやり方で驚きました。

同時に、誰もがマルチで多様な業務に対応できるということは、閑散期は小さな組織で業務を回すこともできるため、効率は良さそうです。ジョブ型の雇用や職種ごとに労働組合に所属する欧米企業ではマネのできない、不況や不測の自体に対応しやすい柔軟性のある人事制度と思いました。米国の大学院で経営学を勉強された星野社長がこのような独自の日本型経営をホテルマネジメントに取り入れたことに改めて感心しました。

価格について
気になる滞在費用ですが、朝夕の食事をビュッフェで済ませるか、それとも追加費用のかかる古民家レストランを選ぶかによって変わってきます。今回、大人二人で3泊4日の宿泊、朝夕食は到着日に夕食でビュッフェを利用した以外は古民家レストランを選択し、また四日前までキャンセル可能なオプションありで、およそ20万円でした。

眺めの良いホテルの部屋、森林浴ができる併設された公園、そして素晴らしい食事、行き届いたサービスなど、これらを私と妻の基準に照らし合わせると、一人10万円は妥当と感じます。特に、妻も私も食事に対する評価が高く、欧米やシンガポールで同じような金額でこのレベルの満足度は得られないでしょう。よって、青森屋は安くはないけれども、満足度の高いサービスを提供する日本らしさを感じられる良いホテルと言えると思います。

3. 投資対象になり得るか?

旅行体験からのエモーショナルな評価が長くなってしまいました。ここでは投資に値するか否かについてお話しします。

実は星野 佳路さんが社長を勤める、星野リゾート株式会社は上場しておらず、同族企業です。

では投資対象にならないのか?

いいえ、「星野リゾート リート投資法人」の不動産リートを購入することで、投資ができます。全体像をお話しすると、星野リゾート関連企業は以下のように3つあります。

  • 株式会社星野リゾート(非上場同族会社)
    ホテルオーナー(主に下の星野リゾート リート投資法人)にホテルの賃借料を支払い、ホテルマネジメントのスペシャリストとして、経営のみ担う。資産は所有しない。

  • 星野リゾート リート投資法人 (上場不動産投資信託(J-REIT))
    投資家からの出資や銀行から借入た資金を原資に、ホテルを購入。上の株式会社星野リゾートへホテルを賃貸。賃借料から諸費用を引いて生まれる利益を分配金として投資家に還元。

  • 株式会社星野リゾートアセットマネジメント (非上場企業)
    星野リゾート・リート投資法人の資産を運用することに特化した会社。ホテル資産の購入や売却、投資家や銀行からの資金調達などホテル不動産金融業務を担う。

よって、星野リゾートに投資したい場合、企業の株を購入するのではなく、星野リゾートのホテル不動産リートを購入することになります。今回、星野リゾートのホテルリートへの投資に興味を持った理由は、通常のオフィスやレジデンスを中心とした不動産リートとは差別化された投資になる得るかと考えたからです。

オフィスやレジデンスのリートの価値は主に2つの要素、立地と築年数で決まるのに対し、ホテルリートはホテルマネジメント能力によっては、立地場所が悪かったり、築年数が古い物件でも、それらの短所を長所に変えて、リートの価値を上げられる可能性があります。

では数字をみてましょう。(2024年7月25日時点)

星野リゾート・リート投資法人   
投資価格/口:516,000円
分配金利回り:3.56%

参考
REIT全体平均分配金利回り:4.74%

うーん、リート全体の平均分配金利回りを大きく下回っていますね。他のホテルリートの分配金利回りも確認したところ、5%を超えているところが多いので、直近の利回りだけ見ると、魅力的な投資先には見えません。おそらく、現在の投資価格には将来への多大な期待が反映されているのでしょう。例えば、今後の海外事業展開です。星野社長がアメリカでは温泉が湧き出ている場所がいくつもあり、日本独特の温泉旅館の文化を持ち込んで経営をしたら、かなりの潜在需要を掘り起こせるだろうとYouTubeの番組で話していました。

星野リゾート リート投資法人の財務諸表も確認した限り、営業利益率も高く、格付け機関のレーティングも悪くないため、経営状態に問題はなさそうです。

よって、今後の海外への事業展開について注視し、より将来への確度が高くなってから投資を検討しても遅くはないかなと個人的に思いました。

さいごに
今回、星野リゾートへの投資を検討する過程で、改めて同社の経営スキームがよく練られたものであること理解できました。理由は主に以下の3点です。

  • 株式会社星野リゾートは上場せず、同族経営を続けることにより、経営の独立性を確保。また、自分たちの強みであるホテル経営に特化することでき、不動産投資リスクは回避。

  • 同時に、別法人の星野リゾート・リート投資法人を通じて、投資家や銀行から資金調達をした上で、物件の取得や売却を遂行。リートの投資家は投資リスクを負う分、分配金という形でリターンを得る

  • よって、株式会社星野リゾートの利益の源泉はホテル経営からのフィービジネスのみ。ただし、リート投資を通じて物件は今後も継続的に増加していくため、数をこなすことでホテルマネジメントフィーを積み上げビジネスを拡大していくことが可能になる。

まとめると、不動産投資リスクはリートの投資家が担い、星野リゾートは非上場のまま経営の独立性を担保し、自社の強みであるホテル経営に専念し事業を成長させてしていくということになります。星野さんの経営スキームに感心すると同時に、投資家視点で率直にいうと、リートに投資するのではなく、星野リゾートのホテル経営事業に投資したいところです。(非上場なのでそれは今のところかないませんが。)

今回星野リゾートの企業調査をしたことで、会社の経営について良い勉強になりました。

以上になります。長くなりましが、最後までお読みいただき、ありがとうございました。ご意見、ご質問などございましたら、コメント欄にお気軽にどうぞ!

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当記事は特定の銘柄の投資を奨励するものではありません。また、内容の正確性を保証するものでもありません。投資はご自身の判断で自己責任でお願いします。

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