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500文字の建築試考

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永本の建築に対する興味、考え、学びを毎日500文字で書きます。
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2020年4月の記事一覧

500文字の建築試考「現象 in 豊田」

自分が建築に興味を持ち、現象のことを考えるきっかけになった体験がある。2012年12月の豊田スタジアムでの体験だ。 その日はFIFAクラブW杯という大会の準決勝で、ブラジルのコリンチャンスと中東のアル・アハリが対戦した。 その日のコリンチャンスサポーターは凄まじかった。 1万人を超える熱狂的サポーターが地球の裏側であるブラジルから押し寄せ、スタジアム全体を埋め尽くした。 全員が本気で応援し、歌い、飛び跳ねて、一緒に戦っていた。 本当に全員が本気なのである。 黒川紀章さん

500文字の建築試考「煉瓦の記憶とふたつの時間」

時間には「垂直的時間」と「水平的時間」のふたつがある。 これからこのふたつの時間を、私が理解できたレベルで話したいと思う。 これは昨年のコンペで煉瓦を用いたアイデアを提案したときに考えていたことである。 普通の建物、例えばコンクリートで作るような建物はまず、コンクリートを流し込む型枠とコンクリートの骨格となる鉄筋をつくる。 そこにコンクリートを流し込み、建物の形を一気に形成する。様々な工程がそれぞれ別の時間に行われることが特徴だ。 そして、木造、コンクリート造にかかわらず

500文字の建築試考「子どもと探検」

子供の頃、非常に怖いなと思っていた建物がある。 現在のモリコロパーク、昔であれば青少年公園と呼んでいた、愛知県長久手市にある「愛知県児童総合センター」だ。 (写真:環境デザイン研究所HPより) 私は名古屋市出身であるため、この施設によく遊びに連れて行ってもらっていた記憶がある。中身はすごく面白くて、様々な遊具やおもちゃで一日中楽しめるようになっていた。 怖いと思ったのは施設の中央にあるチャレンジタワーというものだ。 チューブが二重らせん状に巻きついたような動線によって上へ

500文字の建築試考「見ることと感じること」

人間には五感が存在している。 見る・聞く・触れる・臭う・味わう。 その中でも人間の中で最も支配的な感覚は「見る=視覚」であることはよく言われている。 情報の8割を視覚から得ているとも言われており、様々なものを「見る」ことによって生活を成り立たせていると言ってもよい。 そんな「見る」重視の世の中では、人は外出をするときに見た目を気にするし、何か商品を売るときはパッケージにこだわる。 建築についても同じだ。 建築の見た目を気にして、形を作り、プロポーションに注意して、色、素

500文字の建築試考「現象はintertwinから」

建築の現象を語る建築家の1人としてスティーブン・ホールがいる。 現在の私が研究対象としている人物だ。 もっともホールが現象、つまりphenomenonという単語を用いるときに必ずイメージしているのが、メルロ=ポンティの現象学である。 メルロ=ポンティの客体的身体と現象的身体に対する概念が、ホールが建築の思想を書き記したりスケッチに起こしたりする際に必ず元となっている。 もっともメルロ=ポンティはフッサールの現象学概念を元としながら発展させ、現象学をほぼ完成させたと言っても

2500文字の建築試考「絹を織るまち」

今回は少し長めとなるが、2018年に訪れた「絹を織るまち」山梨県富士吉田市のことについて話す。卒業設計のリサーチのために訪れたまちだ。 ここでは今もなお、絹を染め、紡ぎ、織り、服や傘などを作っている。 「絹を織るまち」富士吉田のこと富士吉田市といえば、 ・富士山 ・富士急ハイランド ・吉田のうどん(日本一固いうどんらしい) などなど、特徴はいろいろあるが、その中でも歴史ある特産物として、 ・絹織物「甲斐絹」 というものがある。 江戸時代には、江戸で一大ムーブメントを起こし

500文字の建築試考「不確定が生むもの」

建築は不確定の中に生まれる。 建築には必ず、使ってくれる利用者が存在する。 住宅には、その家に住む住人が。 コンサートホールには、音楽を聴きに来た観客が。 駅舎には、毎日のようにそこを使う通勤者が。 建築設計者は常にこの利用者のことを考え、この空間の中でどのような行動をするのか、この空間からどのような気持ちを受け取ってもらえるのかということを想像して設計している。 建築がどんな効果をもたらすのかということに思いを巡らせる。 しかし、この利用者という存在は、建築から効果を