500文字の建築試考「煉瓦の記憶とふたつの時間」
時間には「垂直的時間」と「水平的時間」のふたつがある。
これからこのふたつの時間を、私が理解できたレベルで話したいと思う。
これは昨年のコンペで煉瓦を用いたアイデアを提案したときに考えていたことである。
普通の建物、例えばコンクリートで作るような建物はまず、コンクリートを流し込む型枠とコンクリートの骨格となる鉄筋をつくる。
そこにコンクリートを流し込み、建物の形を一気に形成する。様々な工程がそれぞれ別の時間に行われることが特徴だ。
そして、木造、コンクリート造にかかわらず、一度完成した建物の形を変えたり、増築するとなったらそれなりの手間がかかる。
これに対して煉瓦で作る建物は作り方が全く違う。
片手で持ち運び可能なサイズである煉瓦を一つ一つ積み重ねていくことで建築をつくっていくのだ。
手作業で作ったり、形を変えたりすることができるし、何より誰でも簡単にできる。
大工ではない私にもできるし、幼稚園生くらいならたぶんできる。小学生ともなれば喜んでやってくれる気がする。
そして、一個一個煉瓦を積み重ねていくその瞬間に、作った人の気持ちがそこに込められる。
「ここに積んである煉瓦は、ぼくがやったんだよ!」と言うように。
煉瓦の建築ができていくと同時に、作った人の思いが煉瓦に記憶として残っていく。
積み重なっていく記憶は煉瓦の数だけいつまでも形として残り、過去の時間や想いというものを伝えつないでいく。
それくらい煉瓦には可能性がある。
このことこそが「垂直的時間」である。
煉瓦のように時間の記憶が積み重なり、その集まってなされる形が現在なのである。
過去は流れ去ってしまうものではなく、記憶として現在まで残り、そしてさらに積み重なり、未来をつくっていく。
現代のどんどん時間が流れ去っていってしまう今(=「水平的時間」)だからこそ、「垂直的時間」の意識を大切にしたい。