500文字の建築試考「子どもと探検」
子供の頃、非常に怖いなと思っていた建物がある。
現在のモリコロパーク、昔であれば青少年公園と呼んでいた、愛知県長久手市にある「愛知県児童総合センター」だ。
(写真:環境デザイン研究所HPより)
私は名古屋市出身であるため、この施設によく遊びに連れて行ってもらっていた記憶がある。中身はすごく面白くて、様々な遊具やおもちゃで一日中楽しめるようになっていた。
怖いと思ったのは施設の中央にあるチャレンジタワーというものだ。
チューブが二重らせん状に巻きついたような動線によって上へとのぼっていく遊具型の建築空間なのだが、少し斜めに傾いている。これが怖い。
チューブの中を進んでいくので、すごく狭いところに閉じ込められた感覚となる。
このチューブの中には鏡張りの空間があったり、真っ暗な空間があったり、障害物があったり、様々な体験ができるようになっていた。
また、二重らせん状に進むので、先を見透せない中でどこまでもどこまでも不思議な空間が続いていく探検のようだった。
こんな不思議な体験を「床が斜めに傾いている」というただ一点の理由により、全く楽しめなかった。ただただ自分がどこにいるかわからない、生きた心地のしない恐怖体験だった。
だが、
今思うと、すごくすごく豊かな体験だったように思える。
全体を俯瞰するという能力が発達していない子供の頃だったからこそ、あの空間から得られる感覚に対して純粋の心を動かすことができた。
建築にあれほど視線を操られ、身体感覚の揺動を許し、20年近くたった今でも鮮明に記憶に残っているのは、子供の感覚と建築の可能性が深く共鳴しているからだと、今は考えている。