【読書感想文】まいまいつぶろ〜清廉潔白な主従の姿に涙〜
この本を手に取ったきっかけ
「まいまいつぶろ」は直木賞にノミネートされたほか、第12回日本歴史時代作家協会賞の「作品賞」、第13回本屋が選ぶ時代小説大賞を受賞するなど、とても話題になった作品です。
読書メーターでの読友さんたちの評価がとても良かったことも、この本を手に取るきっかけとなりました。
著者紹介
作者の村木嵐さんは京都大学法学部卒業後、会社勤務を経て司馬遼太郎家の家事手伝い、その後、司馬夫人福田みどり氏の個人秘書を務めるという、非常にユニークな経歴を持つ方です。
京都大学法学部出身というだけでも秀才ですが、どうして司馬遼太郎家の家事手伝いになったのか気になり調べてみたところ、長年の司馬ファンだった村木さんが直接電話をかけて頼み込み、受け入れてもらったそうです。
突然「家事手伝いに!」と頼まれ、それを受け入れるなんて、めったにないことですよね。これもご縁のなせる技なのでしょうか。
あらすじ
長福丸こと徳川家重は、8代将軍吉宗の嫡子として生まれながら、重い障害を抱えており、言葉がうまく話せず誰にも聞き取れませんでした。彼が歩いた後には尿の跡が残るため、家臣たちは彼を「まいまいつぶろ」と呼び、蔑んできました。
しかし、長福丸の言葉がわかるという大岡忠光との出会いをきっかけに、二人の絆が始まります。
「もう一度生まれても、私はこの身体で良い。忠光に会えるのならば」
このセリフが一番心に刺さりました。江戸城内では誰を信じれば良いのか分からない状況が常にありますし、将軍職は孤独なものです。父の吉宗も「将軍職は友がおらねば務まらぬ」と言っているように、自分の思いを伝えられないことは、想像を絶する苦しみだったでしょう。その「思い」を理解し、忠実に口として支えた忠光に、家重は心から信頼を寄せ、主従の関係を超えて絆を深めていきます。
江戸時代において「将軍の言葉」の重みは言うまでもありません。悪意を持った者であれば、自分の意志を将軍のお言葉として広めることもできたでしょう。しかし重用される自身への城内の嫉妬や嫌がらせにも耐え、ただ「口」に徹した忠光の姿は見事でした。また、家重も重い障害を抱えながらも世のため人のために将軍職を全うします。実際、徳川家重は郡上騒動を収めるなど「隠れた名君」として評価されています。
たとえ普通に話すことができる間柄でも(夫婦間であっても)、本当の意味で意思疎通ができていないことは意外と多いものです。そんな中で、家重と忠光がお互いを尊重し、困難に立ち向かう姿には胸を打たれました。
「清廉潔白」に心打たれる爽やかな読後感
家重は重い障害を抱え苦しんでいるからこそ、家臣や民に向ける目はとても優しく、自分の欲にとらわれることなく国や民のことを最優先に考えていました。こうした姿勢が、今の政治家に見られるでしょうか。主従・親子・家族などの人間関係が美しく描かれており、爽やかな読後感を味わうことができました。