【読書レビュー】プリズン・ドクター おおたわ史絵著/罪人は生まれながら悪人なのか
TVのコメンテータとして活躍されているおおたわ史絵氏は、医師として刑務所でも仕事をされている。日ごろ私達が垣間見ることができない塀の中の世界を、矯正医官の視点から描いた作品。
私は凶悪な事件をニュースで見るたびに、
「どんな人生を送ったらこんな悪いことができるようになるのだ?」「こんなことする奴は一生刑務所に入っとけ」「死刑になっちゃえ」と憤慨してしまう。
しかし著者の「罪人は生まれながら悪人なのか?」の問いは心に刺さった。
身体障害、知的障害。こうした者たちが刑務所や少年院には数多く収容されている。
生まれつき知能精神的能力が乏しく学校で習う内容も理解できないため、学校にも行かなくなり職にもつけず、残念ながら親にもその傾向が高いケースが多いため、生活保護など社会支援の求め方も分からないまま、幸福感や成功体験がなく社会での居場所もなく、やがて誤った価値観に囚われ犯罪を犯してしまうケースが多いそうだ。
普通以上の能力のある人にとっては「法律」を守って暮らすのは難しいことではない。けれどもそのレベルに満たない人とっては、その「普通」がものすごく難しい。
以前に読んだ「ケーキの切れない非行少年たち」を思い出す。
少年院には認知力が弱く「ケーキを等分に切る」ことすら出来ない者が多いそうで、こういった「境界知能」の人は人口の十数%いるとされている。
根深い「貧困問題」
刑務所に収容される人たちは、そもそも親の顔を知らなかったり、貧困やネグレクトで十分な食事を与えられなかったり、学校に行かせてもらえないなど生育環境に問題があった人間も多いそうだ。
どんな親のもとに生まれるか?どんな疾患を抱えているか?これは本人の責任ではないし、誰のもとにどんな状況で生まれ落ちるかを私たちは選ぶこともできない。
刑務所の1日はヘルシーライフ
刑務所の食生活は塩分も控えめで、カロリー計算も完璧に行われているため、高血圧や糖尿病を持つ受刑者も刑期中に随分よくなるそうだ。
その上早寝早起きの規則的な生活、アルコールも飲めない。タバコも吸えない。もちろん覚醒剤もできない。体に悪いことは何一つできないヘルシーライフが送れる。
しかし残念なことに、大概出所するとすぐにこの「規則正しい生活の大切さ」を忘れてしまう。
せっかく刑期を終えで出所しても、身元を引き受けてくれる人がいない人、昔の悪い仲間とつるんでしまったり、薬物を摂取してしまったり、そもそも「どうしてそれが悪いことなのか?」を理解できない人たちは、残念ながらまたすぐ刑務所に舞い戻ってしまう。
中には「また刑務所に入りたいから」と出所してすぐに罪を犯してしまう人もいる。
家族に愛されながら育ち、教育を受け、規則正しい健康的な生活を送り、仕事をしながら社会で誰かの役に立てる実感を持つという、当たり前の生活を送ることの大切さと、矯正処遇の難しさについて改めて考えさせられる一冊だった。