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投稿作品やショートショート

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お題や参加型の企画に 投稿した作品をまとまています。 たまにショートショート。
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#ショートショート

BLACK MOON

BLACK MOON

夢を見た。

ずっとずっと、
景色の変わらない世界を何も考えずに歩き続けた。
風が心地よく、浮いているような時間。
疲れることはなくループ再生されるレコードのように。

眠りが覚めるとそこにはいつもの天井。
そして一日が始まる。

朝食の支度をし、
旦那に二人の子供を起こしてもらう。
テレビの音が雑音のように聴こえ、
早くしてという私の声はメガホンのように嫌われる。

朝食は卵がけご飯とジャガイモ

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白湯のある暮らし

白湯のある暮らし

一日の仕事を終え、
ビニール傘に雨音を感じながら
家路につく

玄関を開けると
静けさが体を包む

冷たい
誰もいなかった部屋の
空虚さが小さな声で
おかえりと言っているようだ

コンビニで買ってきたスープと
小分けにして冷凍しておいたごはんを
電子レンジで温める

その間にお風呂に湯をためる
一瞬見つめる
蛇口からあふれ出る水量を

チン

テレビをつけるが
BGMのようにしか聞こえない

スプ

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俺だけの匂いがあった

俺だけの匂いがあった

川辺を歩く。

それは5年前からの日課だ。
きっかけは内臓脂肪。
溜まっていたんだよね。

運動は嫌いじゃないけどやる気がない。
食べるものも適当。
ラーメン、牛丼、コンビニ弁当、
カップラーメンだけのことも多かった。

仕事は町の電気屋。
電話があれば電球一個でも替えに行くんだ。
最近は老人からの頼まれ仕事がほとんど。

暑くなるとエアコン。
寒くなるとエアコン。

電源を入れたら壊れていた。

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香りの向こう側にいる人。

香りの向こう側にいる人。

先輩に言われた。

「春からは一人で頑張れよ」

私はどんなときも永井先輩を頼っていた。

同僚の真弓が有給で沖縄に行く前日、
山積みの書類を渡された。
ごめんねって言われたけど尋常じゃない量の
エクセル入力に辟易したんだよね。
しかも途中から計算式がずれてしまって、
大変なことになった。
就業時間もとっくに過ぎ、
ネオンの光が寒々しく感じる23時45分。

「よお、これ食べな」

と、ケバブとビ

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幸器~しあわせのうつわ~

幸器~しあわせのうつわ~

ある日ぼくは公園で小さな白い器をみつけた
それはぼくが両手で包みこめる大きさ

そうだ、この器いっぱいにお水をためられたら
幸せになれるかも

そして小さな旅がはじまる

公園にある水道
蛇口をひねるとたくさんのお水があふれてくる
ぼくは器にお水をそそいでみた

すぐに器いっぱいのお水がたまったけど
全然うれしくなかった

そこへ友達がやってきた
一緒に遊ぼうよ
じゃんけんをして鬼ごっこのはじまり

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猫の私と犬の僕。

猫の私と犬の僕。

私は猫。

猫っ毛
猫なで声
猫足

特徴はそれくらいかな。

僕は犬。

番犬
介助犬
警察犬

人助けは結構してるけど、

犬も歩けば棒に当たる
って馬鹿にされることもあるよ。

ところで猫は女性なの?

まぁ、そうね。
女だと思われることは多いわ。

犬は男性なの?

僕はよく吠えてうるさいし、
外でオシッコするから
男と思われることが多いよ。

人間ってすぐにイメージを
押し付けてくるのよ

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目に見えない不思議な迷路。

目に見えない不思議な迷路。

その日、
私は不妊治療をやめる決意をした。

子供が欲しいという思いを
捨てた訳ではない。
ただ、不妊治療をすることが
私の幸せではないと思ったから。

ぽつ、ぽつ、
季節外れの雨が降りだす。

頬にあたる冷たい雫は
心を鎮めてくれる母の手のようだった。

雨足が強くなるほど、
歩くのが遅くなる。

遠くで響く雷の音。

まだ大丈夫。
誰かにたよらなくても、
まだ歩ける。

次の瞬間、
耳をつんざ

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