11月11日はサムライの日
11月11日が「サムライの日」だと聞いた。
数字が「士(さむらい)」に似ているからだろうか。いつの間にか「11月11日=ポッキーの日」という刷り込みに染まっていた自分に気づかされる。
もっとも私はポッキーよりトッポが好きだし、いやトッポ以上に侍には深い思い入れがある。その理由は、10代後半から20代前半という人生でも貴重な時間を費やした『信長の野望 Online』だろう。当時、私は仮想の戦国時代において武田家の侍として日々を過ごしていた。
その頃、ゲームに「特化技能」という新システムが追加された。
簡単にいえば「上位職の追加」のようなものだが、実際には少し異なる。
私が操る侍も「武芸伝(攻撃役特化)」「武士道(盾役特化)」「上級軍学(支援特化)」の三つの特化から一つを選び、新しい技を習得できるようになった。
同じ侍でも特化によって役割が大きく変わるため、この選択は慎重にしなければならない。そして、その特化を覚えるためには「楮紙目録断片」というアイテムが必要で、特定のモンスターを倒すと稀にドロップする。
このアイテムの奪い合いが、プレイヤー間で激化していた。
ある深夜、私はひとりで甲斐の昇仙峡というダンジョンに赴き、コツコツと「楮紙目録断片」を集めていた。しかし、なかなか手に入らない。
運が悪いのもあるが、何よりも他に同じアイテム目当ての忍者が三人もいて、先を越されてしまうのだ。
忍者はソロ活動に優れており、殲滅速度も速いしフィールド上の移動速度も侍より速い。結果、私がモンスターに触れるよりも先に忍者に倒されてしまう。
仕方なくネズミ狩りを諦め、少し危険な鬼っ子や蜘蛛狙いに切り替えるが、こちらも忍者のグループがすでに乱獲中。気づけば昇仙峡は忍者だらけで、彼らは全く忍んでいない。
こうして効率の悪い状況で粘り続け、ようやく「楮紙目録断片」をいくつか手に入れたとき、窓の外はもう朝だった。さすがに眠くなり、寝ることにした。
数時間後、母に起こされたときにはすでに学校に大遅刻確定の時間だった。
母の職業や装備が気になり、思わずカーソルを合わせようとして反応がない。
それはそうだ。寝ぼけていたのもあるがゲームの世界と現実の区別がついておらず、仮想世界の操作を無意識にしていたのだ。
この時、自分のMMO中毒ぶりに嫌気がさしたが、とりあえず制服に着替えて学校へ行こうとしたその瞬間、あることに気づく。
(今日、就活の面接の日じゃないか…?)
終わった…時間的に完全にアウトだ。
携帯を見ると、知らない番号から着信が入っている。きっと就職先だろう。でも、そんなことを考えながら私はPS2の電源を入れ、確かな自分の意志で『信長の野望 Online』を起動する。
今日はもう学校に行く必要もないし、面接も(いろんな意味で)終わった。なので、気を取り直して楮紙目録断片集めを再開。目録断片は5種類も必要だ。人の少ない昼間に、今度は相模の地獄谷で狩りに挑むことにする。
就職先は確実に一つ減ったが、武芸伝にするか、武士道か、それとも上級軍学か…考えるだけでワクワクして仕方がない。
侍の未来は明るい。
各方面への謝罪は、明日だ。
完