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トリプル役満【読書感想文】永井路子『この世をば(下)』
『光る君へ』の副読本として最良の読書だった。
原作か?というくらいシンクロしている。
似たような名前の人物が多いが(驚くべことにかぶってはいない)、ドラマに出演した俳優さん達を思い浮かべながら読むことができて、普段手に取らないジャンルだけど、とても楽しめた。
歴史小説でありながら、家族小説のようでもあり、夫婦小説のようでもあり、政治小説のようでもある。
愛と権力――。 一見異質なものが結びついたとき、その相乗作用は人間を変える。愛が権力の正当性の裏付けになったとき、人間は強くも冷酷にもなれるのだ。(p.320)
登場人物たちの心性や会話は現代的なのに、描かれているのは母系社会というのもおもしろい。
そして詮子や彰子のような、しっかりした母后が軸をなしているとき、政治は安定を保つ。後一条の時代は、道長の時代であるとともに彰子の時代でもあった。(p.416)
そして「この世をば…」と道長に言わしめた一家立三后。
「望月の虧けたることもなしと思へば」 彼に言わせれば、それは娘の彰子、姸子、威子が、それぞれ太皇太后、皇太后、中宮となって三宮を独占したことを望月に譬えただけのことなのだ。(p.439)
きっと大三元四暗刻天和をアガった時ような気分だったのだろうなあ。イキりまくっている。その興奮が、千年の時を超えていまに伝わっているのだ。和歌ってすごい。
うまいこと娘をもうけて、その娘をうまいこと入内させて、その娘がうまいこと息子を産んでくれて、その子をうまいこと東宮にして、そこにまたうまいこと娘を入内させて…の繰り返し。
それ以外の政治的な駆け引きなど、はほとんど付け足しのようなものにすら思える。
それにしても火事が多いなあ。娘の入内より、もうちょっと防災を気にしたほうがいいと思う。