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家に帰るまでが映画でした

映画館、それはわたしにとってささやかな非日常の暗闇、孤独と夢想の小宇宙だ。そしてみた映画の印象は、往きかえりの空の色、街のたたずまい、あるいは一杯の酒の味の記憶とまざりあっている。(p.33)

山田稔『ああ、そうかね』(1996)

フランス文学者・作家によるエッセイ集。

昔、小説『コーマルタン界隈』を読んで感動して、ひさしぶりに著者のこのエッセイ集を見かけて、手にとってみた。

そう、かつて映画とは、単なるコンテンツではなく、ひとつのイベント、おでかけ、デートだったのだ。

またぞろよくあるノスタルジーだが、映画にしても、音楽にしても、本にしても、昔はまず雑誌やテレビや口コミで情報を集め、出かけていって、入手したり体験したりして帰ってくる、というところまでがセットだった。

遠足ではないが、家に帰るまでが映画だった。

それが今では全部デシタル化されて、いつでもどこでも手のひらの上で楽しめるようになってしまった。

便利だけど、いまさら戻れないけど、失われたもののほうが多いんじゃないか、とさえ思えてしまう。

ただのよくあるノスタルジーなのだろうか。

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