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名状しがたいものを記述するということ【形容詞】inconceivable, indescribable, unmentionable, unclean, uncanny, unwelcome, abnormal, and detestable(H. P. ラヴクラフト『アウトサイダー』)
I beheld in full, frightful vividness the inconceivable, indescribable, and unmentionable monstrosity which had by its simple appearance changed a merry company to a herd of delirious fugitives.
I cannot even hint what it was like, for it was a compound of all that is unclean, uncanny, unwelcome, abnormal, and detestable.(p.1083)
私がこの上なく激しい恐怖にかられてそこに見出したのは、思い描くことも、説明することも、言葉にすることもできない化け物で、それがその姿を現しただけで、笑いさざめく一団は錯乱状態に陥り、蜘蛛の子を散らすように逃げ出してしまった。
その化け物がどんな姿をしていたのかは、私にはほのめかすことすらできそうにない。なぜならそれは不浄で、不気味で、歓迎されざる、異常で、嫌悪感をもよおす、という、それらすべての性質を持ち合わせていたからだ。
物心ついたころからひとり城に幽閉されていた「私」が、ある時城の塔を登り、初めて外の世界に出てきた時に見出した恐怖についての描写である。
この、まるで類語辞典を調べながら書いたかのような形容詞の羅列、これは明らかに、著者の頭の中にあるイメージを言語化しようとしているのではない。
語彙力を駆使して、名状しがたいものを読者それぞれの心のなかに現出せしめようとしているのだ。
ここに文芸だけの持つ力と技があり、そのエキスパートの作品がいまだに読まれ続ける理由があるのだろう。