#62 ふたつの「おはよう」
朝、「おはよう」と言うと気持ちが明るくなります。僕も自分のオフィスに入る時は日本語で、「おはようございます」と言うことにしています。今は同僚が夏休み中なので独り言ですが、戻ってきた後も「朝のあいさつだけは日本語でさせてほしい」とお願いするつもりです。
ドイツ語はNG?
ドイツ語で「おはよう」は Guten Morgen(グーテン・モルゲン)です。Gutenが英語の Good に、Morgen が morning にそのまま対応しています。しかし実際には Guten Morgen と言うことはほぼなく、Morgen!(モルゲン!)だけが普通です。これは大学でも、街の商店やカフェでも同じです。出張でドイツには何度か来てそのことは知っていました。なので、コンピュータ・サイエンス学科の大学院の建物にはじめて入った日も、教授と思しき人にちゃんとご挨拶しました。
なぜか、明らかにその先生の表情が曇ったのです。ちゃんと挨拶したのに、なぜ?ひょっとして「モルゲン!」は間違っていた?色々考えましたが、分かりません。しかし後日その謎は解けました。
まさに人種のるつぼ
9月から研究員として加わったメンバーのガイダンスの日です。参考までに出身国を教えて欲しいと言われ、自己紹介をします。ドイツ、中国、インドが2人ずつで、トルコ、キルギスタン、シリア、レバノン、ベルギー、イタリア、そして日本とそれぞれ1人ずつでした。13人中ドイツ出身は2人だけ、15%ほどです。
これだけインターナショナルな環境では、ドイツ語で話せというのは無理があり、ほとんどの国で教えられている英語を共通語にするのが自然な流れです。そんな環境では、ドイツ人ではない僕が「モルゲン!」と挨拶することには違和感があったのだと思います。大学院の建物では、朝の挨拶は Good morning! です。
大学と地域の関係
下の写真が僕が毎日通っている大学院の建物ですが、この正面入り口、実は大学の敷地ではなく州立公園の中にあります。そして、3つのアーチがある部分、つまり「建物の一部ではあるが中には入っていない」このエリアを、雨風をしのげることから、数人のホームレスの方々が居場所にしています(荷物もある)。
中央のドアを開けて中に入ると、下の写真の通りのモダンな校舎です。ダルムシュタット工科大学はワインレッドがスクールカラーなので、内装は白・黒・ワインレッドが基調になっています。掃除が行き届いていて、ゴミ一つ落ちていません。この建物のドアは基本的には施錠されていて、我々大学スタッフが持っているトランスポンダで電子解錠するのですが、例外的に正面入り口だけは施錠されていません。おそらく、公園を利用する方々が校舎内のトイレを利用できるようにとの配慮からだと思います。
ホームレスの方々もそのことは分かっているようで、基本的には校舎内には入ってきません。「使っていいのはアーチ内のベンチまで」という暗黙の了解があるようです。
ふたつの「おはよう」
僕は朝だいたい8時〜9時の間に大学に入りますが、その時間には正面向かって左側のベンチに必ずいるホームレスの方がいます。年齢は、60歳手前という感じでしょうか。もちろん名前は知りませんが、僕は必ず毎朝彼に挨拶することにしています。ドアから外は普通にドイツの文化で、インターナショナルな大学院の文化の適用範囲外です。
彼はいつも手を上げて笑顔で挨拶してくれます。そしてドアを開け、校舎の中に入ると、朝の挨拶は、
に変わります。ふたつの「おはよう」が、言葉だけではなく文化や社会のあり方と共に混じる瞬間です。それ以外にも、大学食堂やカフェの従業員の方とは「モルゲン!」、図書館スタッフとは「Good morning!」と、職業やその専門性と連動するように言葉が変わり、面白いというよりは少し複雑な気持ちになります。
今日はそんな、「ふたつのおはよう」の話でした。
今日もお読みくださって、ありがとうございました☕️☕️
(2023年9月27日)