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#88 Student, Interrupted 〜 就活はメカニカルにいこう!⚙️

後輩の学部生たちが就職活動真っ只中だ。昨今の大学生の就活のあり方についてはいろいろと意見があるが、今日は就活の方法論ではなく、「何を仕事にするか」について、大学4つ、転職5回を経験した立場から述べてみたい。あちこちの大学で学び、仕事もいろいろやったおかげで、いろいろな経験をさせてもらった。



難しいことは、メカニカルに

考えてもなかなか結論の出ないことは、「メカニカルに」やってみてはどうかと思う。最近の僕のちょっとした口癖になっている。「メカニカルに」とは、内容をあまり「考え」過ぎず、一定のルールに従って「作業」することを意味する。
 数学的に物事を考える時に、いちいち数字で作業せずに文字を使った一般式を立て、抽象的に考えるのに似ている。将来の仕事も、そうやって考えた方が風通しがよく、心が折れないと思う。もし学部生がこの記事を読んでくれていたら、ぜひ以下に説明する方法を一度試してほしい。

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作業A: 「好きなこと」 と 「できること」

ここからは、僕が自分の場合を当てはめて、実演しながら進めてみる。まず、「好きなこと」と「できること」を書き出す。「好きなこと」は今できなくてもいいし、逆に「できること」は好きでなくてもいい。後から参照しやすいように、番号をつけてやってみる。そしてこの作業は「考える」作業だ。

1)英語を話したり、書いたりする(好き・できる)
2)管楽器をいじる、演奏する(好き・苦手)
3)自動車技術の開発(好き・できない)
4)AI システムの開発、運用(好き・少しできる)
5)新時代の教育を考える(好き・少しできる)

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作業B: 世の中の流れを調べる

次のステップは、考えるのではなく「調べる」作業になる。できる限り主観を排して、今の世の中がどうなっているかをネット検索して調べてみよう。上の1〜5については、次のように言える。

1)英語運用能力の必要性は、国やエリアによって大きく異なる。欧州では必須技能であるのに対して、日本では企業レベルで機械翻訳を取り入れる動きもあり、「英語が得意=就職に有利」とも言えない時代が来る可能性がある。ただし、トップレベルに入れるなら今後も有利だろう。

2)アコースティック楽器の IT 化、AI 化は世界的にあまり進んでおらず、今後もあまり進まないだろう。ロボットに楽器を演奏させる試みは何度もあったが、結局人間がそれを喜んで聴くことはなかった。一般的に、趣味性・娯楽性が高いものほど時代の影響を受けにくい。しかし、「演奏する」側の音楽家は、生計が立っていない人の比率が他職種より高い。

3)独ポルシェがエンジン車の優位性を主張しているが、それでも内燃機関を用いた車はどんどん減り、電気自動車メインの時代になるだろう。ポルシェの主張通り、合成燃料エンジンが注目される時代は来るだろうが、それは富裕層向けの高価格車が主なフィールドになるだろう。

4)大規模言語モデルをはじめとした AI 技術は、紆余曲折を経ながらも、今後ますます注目されるだろう。過去に数度あった「AI の冬」が再度来る可能性もなくはないが、同じく5〜10年すれば冬は明けるだろう。同時に、発展しすぎた AI をどううまく使うかという文系寄りの内容も注目されることになり、AI の統制とコントロールを商材とするスタートアップ企業も出始めるだろう。

5)AI の発展との関連で、人間が「学ぶ」とは何か、人間の「幸せ」とは何かという根源的な問題を、哲学的にではなく、社会構造・労働市場の中で具体的に考え直す必要が出てきている。文部科学省・厚生労働省の手だけには負えないので、民間から強力にサポートする必要が生じるだろう。

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作業C: 自分の指向を書き出す

世の中の流れを把握したら、次は自分の好みを書いてみて、上と合致するかを見てみよう。このステップも、「考える」というより「作業」だ。

1)「機械翻訳にシフトする」流れには賛成できない【半一致】
2)自分の好みと、世の中の流れは同じ【一致】
3)僕はガソリンエンジン車が好き、電気自動車には興味なし【不一致】
4)AI の統制&コントロールに興味あり、ドイツでの研究テーマもこれ【一致】
5)教師経験からも、このテーマに深く興味あり【一致】

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作業D:最終判断

1)【半一致】なので、今後何十年と英語の仕事をしていると、仕事が面白くなくなる可能性がある。こう考えて、英語を教えたり翻訳したりする仕事は卒業した。

2)【一致】だが、年齢的に50歳の今から「生計が立たない可能性が他職種より高い」選択肢は取れないので、仕事にはしない。20歳の時にこの選択肢を取るべきだった、と実は思っている。AI の仕事が大当たりしたら、このルートに戻る可能性を残しておきたい。

3)【不一致】なので仕事にはしない。趣味で昔のエンジン車に乗り続ける。

4)【一致】AI は産業分野として確立されており、また AI 分野の博士号取得者が日本では非常に少ないという背景も考慮して、今後のキャリアをここに決めた。

5)【一致】だが、この分野は産業分野としてまだ確立しておらず、日本では NPO などが担っていることが多い。どうしても興味があるので、これは仕事にはせず、まずは趣味の活動として始める。

こう「メカニカルに」考えて、僕は4を生業にし、5をサイドワークにすることに決めた。上のプロセスの中で、「考える」のがメインなのは、「作業A」だけだ。そして、このA〜Dの作業が済んだら、自分がエントリーシートを出すべき企業や団体、あるいは公務員試験などは自ずと決まってくるはずだ。
 就活セミナーに何度も参加したりお金を払って講座を受けたりする時間があれば、上のBにかける時間を増やす方が賢明だと思う。就職情報を提供する会社はそれがビジネスであり、この一連の作業が、「簡単であっては困る」という前提があるような気がする。その前提には、そういった企業の社員も気づいていないことが多いのではないだろうか。

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不一致を選んでもかまわない

上であえて、【不一致】を生業として選ぶ選択肢ももちろんあると思う。そして実はそういった人たちがいなければ、世の中はとてもつまらなくなってしまう。【不一致】を選んだ時のその先については回を改めるが、一番避けたい事態は、就活情報の海に溺れてしまって、結局何をどうすればいいのかわからなくなり、「どうでもいいや」となってしまう状態だ。

先の投稿「#77 仕事につまった時の万能薬 〜伊雑宮のご利益〜」でも書いた通り、どうしようもなくなったら、手元の就職情報は一旦全部捨ててみよう。自分の頭だけで上のA〜Dを何度か回せば、きっと答えが見つかると思う。

社名と肩書きを外しても、何かが残る仕事を

50歳になって思うのは、学生の皆さんには、30歳前後に、社名と肩書きを外しても、自分にちゃんと何かが残る仕事をしてほしいということだ。例えば海外に出て、勤めている会社の名前を誰も知らない環境に行っても、スキルや知識、教養や話し方、その話題などで、あなたという人格の魅力がにじみ出るような仕事をして欲しい。


Student, Interrupted

このフレーズを見てピンとくる人がいるだろうか?ウィノナ・ライダー主演の1999年の映画、Girl, Interrupted(邦題:『17歳のカルテ』)からとった。この映画では、精神病の診断を受け、思春期の女性としての人生が一旦「中断された = interrupted」主人公の人生が描かれている。原作者スザンナ・ケイスンの自叙伝でもあり、映画中でも「スザンナ・ケイスン」と実名が使われている。色々なことを考えさせられるいい映画なので、とてもオススメ。

この映画に描かれた少女たちが、僕の感覚では「大学での学びを中断させられて、就活に向かわされている」今の学部生たちと重なる。世の中、そんなに複雑ではないと思う。複雑に見せかけて、それを紐解くことをビジネスにしている人たちがたくさんいる感じだ。情報ビジネスは大切だが、もう少し裏方的な役回りでいいと思う。主役は情報ではなく、働く人たちだ。

上の映画にはもう一つ見どころがある。それほど有名ではなかった時代のアンジェリーナ・ジョリーが出演して、アカデミー助演女優賞を受賞した。

蛇足と知りながら付け足すと、ロックバンド、グリーン・デイの大ヒット曲『バスケット・ケース』(1994年)のミュージック・ビデオも、『17歳のカルテ』と同様、1960年代の精神病院を舞台としている痕跡があり、社会システムに「中断」を余儀なくされた彼らの気持ちが今の学部生と重なる。タイトルの「バスケット・ケース」は世の中で手足を拘束されて動けないイメージを表現したそうだ。
 音楽面では、破壊力抜群のドラムスが特にいい。使っているドラム・セットはビートルズのリンゴ・スターと同じ「ラディック・ブルーノート」だ。車椅子に乗ったドラマーが登場して、すごいパワーで叩き始める瞬間、いつも勇気をもらう。

貴重な学生時代が「中断 = interrupted」されないことを祈りたい。

今日もお読みくださって、ありがとうございました⚙️
(2023年11月19日)

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ささきとおる🇳🇱50歳からの海外博士挑戦
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