そば屋のカツカレーそばの美味さを、私は伝えたい。
「ここは、カツカレーうどんが美味しいんだよ」
「蕎麦屋でカツカレーうどん?わざわざ?しかも昼から?重たくないですか?」
私は、昼間からカツカレーうどんを勧めてくる上司の一言に、眉根を寄せた。
蕎麦屋でうどん?
昼からカツカレー?
食べ盛りの中高生じゃないしなぁ。
胃も、もたれそうだし。
私は普通のそばでいいかなぁ。
ぴゅうと冷たい冬の風が吹く中、私は店のドアを開けた。昭和感溢れる造り。初めて訪れた店なのに、なぜか懐かしい感じがする。
足を踏み入れた瞬間、私の胃袋を刺激したのは、カレーのスパイスの香りだった。店いっぱいにカレーの匂いが漂っている。厨房からも、先客がすする丼からも。私は白いエプロンのおばちゃんに促されて、席に着いた。注文を尋ねられたが、メニューを確認する必要はない。
「カツカレーそば、ひとつ!」
おばちゃんのついでくれた温かい緑茶をすすりながら、蕎麦を待った。客の席の合間をおばちゃんが丼を持って歩くのを、私は目で追いかける。
あれは、私の分だろうか。
いや、違う。
あ、おばちゃんが近づいてくる。
もしや、あれか?
おばちゃんが、どんっ!と、目の前に丼を置いた。
ふわんとカレー風味の湯気が顔の周りにまとわりついた。私はすんっと鼻をすする。美味そうな匂いに胸が踊った。そそくさとスープに浸かったレンゲを手に取り、スープをすくう。とろりととろみのついたカレーの出汁。ずずっとすすると、ほんのり甘い出汁の効いた柔らかなカレーが口の中に広がった。鼻から抜けるスパイスの香りで食欲が増す。昼からカツカレーそば?と頭に疑問符を浮かべた私の頭上を殴りたい。これは、うまい!
行儀悪く音を立てて、蕎麦をすする。
やっぱり日本の麺は、音を立ててすするべきだよねぇ。しかし、汁が跳ねては、服が危険。音を立てつつも、少しだけ上品にゆっくりすすった。
少し柔らかめのそばに、とろみのついたカレーが絡んでうまいこと!
次は、カツだ。
薄めの柔らかいカツ。衣はさくさくで、前歯が軽快な音を立てる。表面はさくさく、底は汁がヒタヒタに染みていて、これまた美味しい。重たすぎない厚さがちょうどいい。
「うまいですね!ここのカツカレーそば!」
「でしょ?くせになるのよ」
感想を簡潔に伝え、私は再び丼と向き合った。
テーブルの上の一味を振りかけると、辛味がプラスされてさらにうまい。
カツを食べ、そばをすすり、汁を飲む。気がつけば夢中になって食べていて、額にはじっとりと汗が滲む。冷え切っていた体が熱る。
全てを食べきって、グラスに入った水を飲んだ。
あゝ、美味いと舌を鳴らして気づく。上顎の皮が、ペロリと剥けていた。
おすすめされて、福岡市中央区天神(福岡市役所前)のみすゞ庵さんで、カツカレーそばを食べました!うまかった!
老舗のようで、実家の親にみすゞ庵の話をしたら、懐かしんでいました。昭和27年創業!