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「秋はまだですか?」と空に向かって尋ねたくなるほどの残暑。
暑すぎる。あまりに暑い。
神様、これが夕方ですか?
この暑さが、正しい夕方の暑さでしょうか?
私の質問には答えてくれない神様に、嫌味を言いたくなるほどの暑さ。私はぐでっと下を向いた。暑さで脳みそが溶けている気がする。脳汁が鼻の穴から零れそうな勢いで、下を向く。下を向いた瞬間、元気な明るい色が目に飛び込んできた。暑さなんてなんのこれしき、とでも言いたげな、元気な色。
キバナコスモス。
コスモスとは言っても、夏時期に咲くらしいキバナコスモス。色は、夏っぽいビタミンカラー。良質な卵の黄身みたいな黄色。夏に咲くとは言っても、コスモスの漢字には秋が入る。秋桜。目が合ったキバナコスモスから「もう秋だよ」と声をかけられた気がして、私は思わず「もう秋?」と嬉しくなった。
そんなわけはない。どう考えても、まだ夏。
だって、めちゃくちゃ暑い。
その日の福岡の最高気温は、38度。
猛暑日中の猛暑日。9月も半ばを過ぎたというのに、あまりに暑い。
9月のはじめは少しばかり涼しかった、気がする。「もうすぐ秋ですね」と昭和歌謡のパクリみたいなセリフを吐いたのは、幻だったのだろうか。秋が遠くに逃げてしまったのだろうかと思うほどに、ここ最近の太陽は夏真っ盛りの元気を取り戻していた。まったく迷惑な話だ。こちらはお前のせいで元気がなく、ぐったりだよ、とすべてを太陽のせいにしたくなる。
頭の中では、柔らかな羊が群れを成して空を泳いでいく様が浮かんでいるのに、目の前の空を仰げば、どこまでも伸びていきそうな入道雲が、高くそびえていた。
この青空にそびえ立つ白い山を登れるなら、何をしたい?
私はそんなことを考えた。青空いっぱいに広がる白い入道雲を登れるなら、私は神様に会いに行く。そして、あまりに暑すぎる夏を返上する。私はあらぬ妄想をしながら、キッと鋭い目線を空に向けた。
「夏はお返しいたします。ごちそうさまでした」
どうだろう、このセリフは。これで神様は夏を終わらせてくれるだろうか。いや、難しいだろうな、と私は思う。
それと同時に、皮膚に熱風がまとわりつくのを、私はただただ鬱陶しく感じていた。
例えばもし、本当に神様に夏返上を直談判できると仮定したとしよう。私はその時、神様の前で毅然とした態度を取ることができるだろうか。いやそれも、難しいだろうな、と私は思う。
きっと、神様を目の前にしたらテンションがダダ上がりになるに決まっている。
「マジで神様?」
「後光差してね?!」
「サインペンを持ってくるのを忘れた!」
「ツーショットを撮ってもらえるのかな?」
なんてことを考えてしまうに違いない。
胸の高鳴りを抑えることは、できないだろう。
そもそも神様の様相とは、一体どのようなものだろうか。白い髭をたっぷりと蓄えているお爺さんかなぁなんて想像してみる。アルバス・ダンブルドアやサンタ・クロースみたいな。
もしかして、女神様かもしれない。若くて綺麗な、誰もが魅了される女神様。楊端和な長澤まさみか、プラダを着たアン・ハサウェイか。キーラ・ナイトレイとかオードリーヘップバーンもいいなぁ。
白い肢体にしなやかな筋肉を携えた、鋭い眼光の女神様。あまりに美しい女神を前にしたら、サインもツーショットも言い出せず、「あ。お、う」みたいに、語彙力すら失いそうな気がしてきた。ビビリで、かつ美しいもの好きの私は、間違いなくタジタジになってしまうだろう。きっと明日からのあだ名が、タジタジになってしまうほどに。コジコジのように名言を残すことができればいいが、私は迷言すらも残すことはできないだろう。
暑さは思考を奪う。
私はありもしないことを、頭の中にぷかぷかと浮かばせては、ぱちんぱちんと割っていく。
「妄想の熱に溺れる前に、日陰に入りなさい」
キバナコスモスに笑われたような気がした。
熱風が肌を撫ぜた。黄色いコスモスがゆらゆらと頭を揺らしている。
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神様、秋はまだですか?
9月に入ってから、ずっと待ってます。