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夢を叶えるすじこ

すじこに再会するとは、想像だにしていなかった。

一度目の出会いがいつだったかは、あまりよく覚えていない。確か10〜15年ぐらい前だと思う。出会いは近所のスーパーだった。初対面のすじこは、味のついていない「生筋子」だった。

福岡ではあまりお目にかかれないすじこを見て、私と夫が鼻息荒く興奮したのを覚えている。なぜ興奮したかと言えば、「すじこ」をほぐせば「いくら」になるらしいという情報を仕入れていたからだ。いくら好きな私たちは、いくらより安価なすじこを手に入れて、腹いっぱい、いくらを食べられると喜んだ。想像するだけでヨダレが溢れてくる夢のようなシチュエーションである。

帰宅後、インターネットですじこのほぐし方を調べたことを、昨日のことのように覚えている。

私は調べた情報をさらっと頭に入れると、すじこをざるにいれてほぐし始めた。


──これが難儀だった。全然、うまくいかない。


次々に潰れていくすじこ。もしかしたら、鱒か鮭になっていただろう命を、ぶちゅぶちゅと潰していく感覚。命を粗末にしているつもりはないのに、込み上げてくる罪悪感。しかも、すじこはなぜだか白くなっていく。もしかしたら、水の温度で茹だっているのだろうか。私は心配になった。鼓動が速くなる。大きくなれたかもしれない命の粒を、潰し、茹であげる。命を食べ物を、弄ぶ私。人として最低ではないか。それに、これを食べることができなければ、金をドブに捨てたのと同じこと。


その後のことは、覚えていない。


結局、私たちが、すじこを口にしたかどうか。
それすらも、私の記憶には残っていない。すじこが私に残したものと言えば、命を、食べ物を粗末にしたという罪悪感だけである。


ちなみに、いくらとすじこの違いを調べてみたら、「いくら」より未成熟の卵が「すじこ」であり、すじこの方が一般的に柔らかいらしい。「生のすじこ」をほぐして醤油漬けにすると、「いくら」の醤油漬けにもなるらしく、いくつも作り方が出てきた。

「筋子」は、いくらと同じ鮭や鱒の卵ですが、いくらより前に採卵されたもので、卵巣膜に覆われたままの状態で販売されます。

いくらに比べてまだ卵が未熟なため、卵のサイズが小ぶりで、皮が柔らかくつぶれやすいのが特徴です。

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そして、○○年後。


十数年の時を経て、私はすじこと再会した。
(再会の場所は、ラブラブロピア)

再会したとて、すじこリベンジをする気など、私には毛頭なかった。けれど、その数日前、札幌といえばのイトーダーキさんが、Xですじこを推してらっしゃったのを見かけたのだ。これは、と思い買ってみた。そして、次は失敗せずに美味しく頂くことを決意し、イトーさんに美味しい食べ方を聞いてみた。

切って白米の上に置いて食べるだけでいいらしい。
なんと!そんな簡単でいいとは!

私はハサミですじこをカットし、白米の上に載せた。
おそるおそる白米と一緒にすじこを口に入れてみる。
う、



うまい!



何というか、味が濃い!
いくらのプチッと弾ける食感とは違い、ねっとりとした食感。すじこエキスが、米とよく絡んで、めちゃくちゃご飯がススムくん。

向かいに座る夫も、「すじこ、いいねぇ」とご満悦そうだ。
それにしても、すじこって思ったより安い。同じ値段でいくらを買おうと思ったら、ちょこっとしか買えない気がする。いくらをお腹いっぱい食べるなんて贅沢は、庶民の私には夢のような話だ。でも、すじこならその夢を叶えられる。お腹いっぱい食べられる。

次からはすじこだな、ということで夫とも見解が一致した。再会したすじこは、私のささやかな夢を叶えてくれた。


あの時は、ごめんなさい!
今後はよろしくお願いします!





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