心の形4話【心を描く】
このハートは今の君の心で、それ以外が君が持ってる可能性だ。
この話は、心の形1話【絵描きと少女】と
https://note.com/sartre_trend/n/n4b198b0ec4af
心の形2話【キリキリマンジュロの深々入りコーヒー】
https://note.com/sartre_trend/n/nc1d19e8e553b
の後日談です。
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物識り爺さんとの会話から数日。
絵描きの青年は『心を描く』という催し物を行いました。
あの日、あの少女にした、
【好きな色を3色、嫌いな色を3色使い、最後にハートを描く】と言う催しです。
絵描きは【自分らしく】が何か、まだわかりません。
わからないからこそ、青年は知る事にしました。色々な人の心の形を。
一番はじめに来たのは、天真爛漫な女性でした。
「あら、絵描きさん。面白いことやってるわねぇ〜。新しい占いかしら?」
「これは、マダム・モーリー。占い・・・では、ありませんが、占より自分の事がわかるかもしれませんよ。」
「それは面白いわね。やっていこうかしら。」
そう言って、マダム・モーリーは水色、黄色、赤、茶色、深緑、白の絵の具を選んだ。
「これ、好きな色から塗ったらいいの?それとも嫌いな色から?」
絵描きの青年は答えた。
「お好きな色からで大丈夫ですよ。ご自由に描いて下さい。」
あらそうなの?と言いながら、マダム・モーリーは一色ずつ丁寧に色を描いていきます。
完成した絵を見て、青年は言った。
「マダム・モーリーは丁寧に色を描かれるんですね。いつも天真爛漫なので、もっと色混ぜたりするのかと想いました。」
あら、そんな風に思ってたの?と笑い
「そうねぇ、私はそれぞれの色をハッキリ魅せたいのだと思うわ。ここが私の好きな色で、ここが私の嫌いな色と言う風に。
その全てが私だから、全部の色が入る様にハートを描いたの。」
マダム・モーリーはそう言いながら、自分が描いた絵をじっくり見ていた。
話を聞いた、絵描きの青年は
「とても、マダムらしいです。」
と、優しく微笑みんだ。
「ありがとう絵描きさん。とても楽しい占いだったわ。」
と言って、マダム・モーリーは満足気に去っていった。
「絵描きさん、やるねー。マダムとてもいい顔してたぜ。」
と絵描きは、背後から声をかけられた。
振り返ると、芸術仲間のギタリストのジャックが立っていた。
「あれ?ジャック。今日はライブじゃなかった?」
「ちょうど、リハが終わってな。休憩がてらブラブラしてたら、面白そうな事してるじゃないの?俺もやっていいかい?」
「構わないけど、時間は大丈夫かい?」
「あぁ、大丈夫さ。で、どうやるんだ?」
絵描きは、普段はギターを弾いてるか、酒でハイになってる姿しか見た事がないジャックがどう言う絵を書くかとても気になった。
「好きな色を3色、嫌いな色を3色選んでキャンパスを自由に描いてくれるかい?そして、出来上がったキャンパスにハートを描いてほしいんだ。」
ジャックはなるほどな。と言いながら、黄色、黄緑、水色、赤、茶色、サーモンピンクを選び、キャンパスの上に、直接絵の具を垂らしはじめた。
「なー、絵描きさんよ。こうやって選んでみたんだが、そんなに、嫌いな色ってないんだよなぁ。昔は嫌いな色の服を着せられそうになったら、ギャーギャー泣いてたのにさ。」
言われて、絵かきも頷いた。
「そうだね。嫌いな色と言ったら、黒や暗い色を選んだりするのに、今となっては、着る服は暗いものばかりな気もするよ。
ジャックは、キャンバスに直接描くんだね。筆はどれを使う?」
キャンパスに色を落とし終えたジャックは、手をパタパタとさせて
「筆はいらねーよ」
と言って指で色を引き伸ばしはじめた。
キャンパスが色で埋まって行くのと一緒に、ジャックの手もどんどん色で染まっていった。
「ふー・・・こりゃ、ジェニーに怒られるな。」
色に染まった手と服を見てジャックは笑った。
絵を見た絵描きは
「これから、ジェニーとライブなんでしょ?
ジェニーは大人しいんだから、あまり、怒らせないでよ。
でも、流石はジャックだね。ハート以外にも、心に火が灯っていて、鳥が飛んでるようにも見えるし、自由な感じた。」
「はははっ!全部偶然だけどな。
でも・・・あぁ、そうか。手や服をガキみたいに汚して、たまたま手に入る。
自由なんてもんは、そんなものなのかもしれねぇな。」
ジャックは絵を見て、つぶやいた。
「ありがとう。絵描きさんよ。
こいつはギターケースにでも貼らせてもらうぜ。」
そう言ってジャックほ汚れたまま、笑って行った。
「たまたま・・・自由か。私達はいつから不自由と感じるようになったんだろう。」
ジャックの背中を見送りながら、そんな事を思っていた。
「だ〜れだ。」
絵描きの視界が突然真っ暗になった。
「おいこら、マリィ。絵描きを困らせるな。」
絵描きが答える前に視界に光が戻り、振り返ると、白と黒のパンクな服に身を包んだ2人が立っていた。
「あれ?マリアにトーマス、今日もマダム・モーリーのお店で仕事じゃないの?」
トーマスと呼ばれた青年が答えた。
「マダムが2丁目で絵描きが面白い事やってるから、マリィと一緒に行ってこいだとよ。で、何やってんだ?」
マリィとトーマスはカップルで、二人でマダム・モーリーが経営している服屋を任されていた。
「あぁ、心を描く催しをしていたんだ。」
説明を聞いたマリィは
「私、接客専門だから絵なんて描けないよ。トーマスやってみてよ。」
「俺だって専門じゃねぇよ。まぁ、いいや。」
と言って、トーマスは白・灰色・黒のそれぞれ、色の濃さが違う6色を選んだ。
ど・・・どれが好きな色でどれが嫌いな色なんだろう。
絵描きが見えていると、トーマスは迷いなく『真っ直ぐ』筆を走らせる。
「ちょっと、トーマス。真っ直ぐな線ばっかり引いてどうするの?」
「これでいいんだよ。これならマリィにも出来るだろ。」
ただの真っ直ぐな線が、数を増やすほどに『絵』になってゆく。
「あー、それでもいいの?それなら、私にもできそう。絵描きさん、やっていい?」
と、マリアが聞いてきたので、絵描きは頷き、絵の具を渡した。
マリアは黄色、赤、青、緑、オレンジ、群青を選び、真っ直ぐに線を引く。
トーマスは既に描き終えて、マリィの絵を眺めていた。
「あれ?トーマス、ハート!ハート描かなきゃいけないんだよ?」
横目でトーマスの絵を見たマリアが言った。
「良いんだよこれで。ハートなんて恥ずかしくて描けるか。」
とトーマスはそっぽを向いてしまった。
トーマスの絵を見た絵描きは、ハートがキチンと描かれている事に気付いたのだが、あえて口にしないことにした。
この絵こそが、真っ直ぐで、シャイなトーマスと言う人を表現しているのだと感じたからだ。
「なんでよー。ハート可愛いのに。あ!わかった!ハート描けないんでしょ。
こうやって書くんだよ。」
とマリアもハートを描き、絵を完成させた。
「ハートくらい描けるわ。と言うか、全然真っ直ぐだけじゃないじゃないか。」
トーマスは怒りはせずにマリアに突っかかりながら、これが二人のいつもの在り方なんだと絵描きは微笑みながら見ていた。
「真っ直ぐ描いてたら他のも描きたくなっちゃったの。かわいいでしょ。」
と言って、マリアは絵描きとトーマスに自信満々に絵を魅せた。
ずっと二人のやり取りを見ていたい気持ちにかられたが、絵描きは口を開いた。
「うん。とても素敵な絵だね。真っ直ぐなトーマスに、素直なマリア。二人が一緒に居る理由が分かった気がするよ。」
トーマスは赤面し、何かを言いたげに口をパクパクさせていたが、深く呼吸をして、
「絵描きさん、ありがとよ。この絵は大事にする。」
「私が描いたのではないのだけどね。」
と絵描きが言うと、マリアがすかさず
「きっかけをくれたわ。だから、絵描きさんありがとう。」
と言って、マリアはトーマスの腕を引っ張って去っていった。
「きっかけ・・・」
思わぬ言葉に絵描きは、物識り爺さんの顔が横切り、ゆっくりと手を振って二人を見送るしかできなかった。
「私も、誰かのきっかけになっていたのか。」
と、ポツリとつぶやいた。
トーマスとマリアが去ってから、少し経ち、日も傾いてきた頃。
ハートの紙が張っているギターケースを持ったジャックが、小柄な女性と歩いてきた。
「ジャック!ジェニー!お疲れ様!ライブは終わったの?」
「あぁ、おかげさまでな。この絵の具まみれの服はどこで買えるのか聞かれて困ったぜ。」
「はははっ。それは災難だったね。ジェニーごめんね。ジャックの服と手が汚れたのは私の責任なんだ。」
「別にいいよ。ジャックから話は聞いたし。それよりもこれ。」
と小さな声でジェニーは紙を絵描きに渡した。
「これは?」
とジェニーから紙を受け取った絵描きは、それがパステルクレヨンで描かれた、絵である事に気付いた。
優しい歌声のジェニーのそんな人柄を象徴するような絵だと感じた。
「ジェニーもやってくれたんだね。パステル好きだもんね。嫌いな色はパステル以外だと思ってた。」
「うん。私もはじめはそうするつもりだったの。だけどジャックの話を聞いて、パステルの中でも避けてる色がある事に気付いた。
だから、それも使って描いてみた。」
「好きな色の中に避けてる色・・・?」
その考え方に絵描きは素直に驚いた。
「そう。ジャックの絵を見たときに、この絵はジャックだってすぐにわかったの。
だから、私もやってみたくなって、ライブが終わってからやってみて、ジャックに見せたんだけど、「俺に絵の事なんてわかるか」って。だから、絵描きさんに見せに来た。」
話の事情はわかったが、ジェニーがなぜ、今日、私にわざわざ見せに来たのかはわからなかった。
「ねぇ、絵描きさん。この絵の中に私はいる?」
その言葉で絵描きは気付いた。
彼女はシンガー。表現者だ。
絵の中に自分が居るのかが気になって、ライブが終わって、すぐに私の所に来てくれたのだ。
絵描きはもう一度絵に目を落とす。
この街に、この絵を描ける人は居るだろうか?
模倣なら出来るかもしれない。
ただ、好きな色と、嫌いな色6色を使ってこの絵を描ける人は、この街、この国、この世界に、ジェニーしかいないだろう。
ならば・・・
「あぁ、居るよ。この絵を描けるのは、ジェニーだけだ。この絵の中にジェニーは居る。」
絵描きは、ゆっくりとジェニーの目を見て答えた。
「あぁ、そうか。【私】はまだ居るんだね。」
力が抜けたようにジェニーは言った。
その様子を見たジャックは少しバツが悪そうに口を開いた。
「そういうことか・・・気づけなくてすまねぇ。」
絵描きには、ジェニーの言っている事も、ジャックが言っている事も良くわからなかった。
「二人とも、どう言う意味だい?」
ジャックが答える。
「表現なんてものは、誰かに届き出すと矛盾が生じるんだ。
自分の為にやっていた事が、いつの間にか、誰かに届ける為にやりだしちまう。
それが生き甲斐に感じる反面、時々、自分ってのはどこに行っちまったんだって感じる事があるんだ。」
絵描きは、背中から刺された様な気分になった。
「ジャックやジョニーも、そう感じる事があるの?」
「まぁな。だから今日、自分の事を知らない絵の世界を手で描いた時、久しぶりに初心に帰れた気がしたんだ。」
ジャックの話を聞き終え、ジョニーも口を開く。
「私の強み。私達の強み。常に意識はしているんだけど、需要と供給を考えだすと、行き着く先はどうしても似てきてしまう。
そうすると、ふと【私らしさ】がわからなくなるの。
だけど、この絵も描いてるときは、とても楽しかった。
でも、描き終えたとき。多くの人が好きなパステルなんて色の中に、私が居るのかわからなくて、絵描きさんに聞きにきたの。」
「私らしさ・・・。」
絵描きは、言葉に詰まった。
そもそも、私らしさがわからなくて開催した催し物だ。
「でも、絵描きさんは、絵の中に私を見つけてくれた。」
絵描には、ジェニーの悩みや葛藤が、自分と被って見えた。
絵描きは、自分自身に確認するように、ジェニーに問いかけた。
「ジェニーは歌が好きかい?」
「好きよ。」
「ジェニーはこのパステルの様なバラードが好きかい?」
「好きよ。」
「ジェニーの詩の中には過去の自分はいないかい?」
「居るわ。私の過去と同じ境遇の人に届いて欲しいと思うわ。」
「ジェニー、私はジェニーの歌が好きだよ。」
ジャックも口を開く
「そうだぜ、ジェニー。
単純なトニック、サブドミナント、ドミナントなんてコード進行でも、ジェニーが歌えば俺達の歌になるんだ。」
「大丈夫だよ、ジェニー。ジェニーの歌の中にもちゃんとジェニーは居るよ。」
ジェニーは小さく「うん・・・うん。」と頷いた。
「ねぇ、ジャック、ジェニー。
僕も、ジェニーと同じ悩みを抱えた。
僕の絵の中に僕は居るのかなって。」
「は?絵描きさんの絵の中には絵描きさんが居るだろう?」
ジャックは当たり前のように言い、ジェニーもそれに頷いた。
その言葉に絵描きは、笑った。
「ははははっ。あぁ・・・・ちゃんと居たんだ。知らなかったなぁ。」
「絵描きさんも私と同じ悩みを抱えてたんだね。」
とジェニーも笑った。
「それにしても、お前ら面倒な事考えてるなぁ。絵も歌もやり始めた頃が一番何もなかったじゃないか。」
ジャックの言葉に、頷いて
「そうなんだけどね。あの頃はなぜか、全部が自分らしさだなんて思ってたよ。なんでだろうね。」
「そりゃあ、最初は何も見えてなくて、今は、自分を磨いて遠くまで見えるようになったからだろ。」
ジェニーはため息をついて、
「自分を磨いたら、自分が見えなくなるなんて皮肉ね。」
まったく、その通りだと、私たちは笑った。
私の私らしさは、まだ見えない。
しかし、今、キャンパスには、私達の心の形が描かれている。
・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・
昨日開催した、お絵かき会で制作された絵を元に物語を制作しました。
書きながら、みんな色についての価値観や、ハートの位置について話ををして、僕自身、見直すきっかけになりました。
ご参加いただきありがとうございます。
皆の好きな色は何色ですか?皆のキライな色は何色ですか?
そして、今はそのキャンパスのどこに、ハートを描いてますか?
良ければコメントいただけると嬉しいです。
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