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平安時代のさくらももこ「更級日記」サラちゃんの魅力

割腹自殺を自衛隊駐屯地で決行する直前、三島由紀夫は遺作となる大長編「豊穣の海」を描き上げた。輪廻転生を繰り返す壮大な物語は死を決意したであろう三島由紀夫の渾身の作品で、その物語は「浜松中納言物語」の夢と転生の物語に典拠している、とある。いまから千年も前の平安時代、この浜松中納言物語を描いたのが菅原孝標女(すがわらたかすえのむすめ)一般には更級日記の作者として知られている。
私は勝手にさらしなのサラちゃんと呼んでる。

輪廻転生とは、何か現代では現実離れしたもののようであるけれど、死を前にしたり死の喪失を目の当たりにすると想いを馳せずにいられないものなのかもしれない。私の遠く及ばない天才が達した境地を支えた古典が気になって浜松中納言物語を探したけれど、本屋にもアマゾンにすら見当たらなくて総合図書館にあるのも研究書ばかり。ようやく二階の専門書コーナーにて現代語訳を見つけた。
ついでに同じ作者菅原孝標女の代表作、高校の時に読んで共感した更科日記をもう一度読み直したくて一階の文庫本コーナーに足を運んだ。

この更級日記、有名な古典のくせにめちゃめちゃ笑える。作者が天然なのか狙っていないおかしみがある。13歳の女の子の文学愛が必死でいじらしくて親しみやすい。
これを始めて手に取った高校生の頃も、私は同志を見つけた気持ちで、さらしなのサラちゃんと名付けて親しんでいたけれど、あのころから倍ほど(´;ω;`)ウッ…歳を重ねてしまった今もサラちゃんの感性の瑞々しさと可愛らしさは遥か千年の時を越えて伝わってくる。

サラちゃんの魅力はなんなのだろう。菅原道真公の直系の孫で、皇女姫宮さまへ宮仕えするほどのキャリアウーマンで、自宅も一品も宮さまの邸宅のお隣、父も夫も出世したエリートであるのに、そんなてらいを感じさせない。
堂々たる大長編「源氏物語」の作者の紫式部、機微に満ちたセンスの光る「枕草子」の清少納言、歌の才気で男性たちを魅了し、帝候補でもあった皇子二人に愛され先立たれた和泉式部、平安時代に次々に登場した女流作家たちのなかでひとり、なんとも平凡で素朴で親しみやすい。物語への愛にひたむきで、つい共感してしまう。
こんな少女の日記が、藤原定家らの写本をと通して、千年後も私たちの間で読み継がれるとはどういうことだろう。
そして異形の天才、三島由紀夫の最後の超大作に、どうしてこんな平凡な少女が影響を与えたのだろう。少女のなにげない日記がこんなにも愛され続けるのは何故だろう。

そゆわけで、そんな更科日記のあちこちにある、可愛らしいツッコミどころをご紹介させてください。前置きだけで長くなってしまった(;´Д`)最近書きたいことが全然追いつかない₋!

まずは冒頭にて、サラちゃんはお父さまの転勤で、千葉の房総に住んでいます。受領、いわゆる県知事、一国一城の主なので税金取り放題のセレブですが、当然、京の都からは遠く離れた田舎なので、物語とか手に入らない。お姉さんや継母さんが見聞きした物語を口頭できくだけの日々に身悶えしています。
そこでどうしたかというと、、、、、

…………いみじく心もとなきままに、等身に薬師仏をつくりて、手あらひなどして、人まにみそかに入りつつ、
「京にとくにあげ給いて、物語の多く候ふなる、あるかぎり見せ給へ」
と身をすてて額をつき祈り申すほどに………

なんと、サラちゃん、自分と同じくらいの等身大の薬師如来像を作らせちゃいました。
え??等身大??普通は手の中に入るサイズとか、袂に忍ばせるサイズとかじゃない?等身大作らせちゃうの?なんだかんだで、上流以上に実入りの良い受領の娘、セレブなんだろうなあ。。。

そしてその薬師如来さまに身を清めたあとに、床にひれ伏して額づいてまで「物語、世の中にあるだけ全部読みたい!」と必死でお願いするのだ。薬師如来って病気とか治すための仏様じゃなかったっけ?自分の煩悩のために何お願いしちゃってるのよ・・・とあきれちゃうのだけれど、その必死な物語愛がなんとも可愛くて愛おしい。
願いは無事に叶って、任期のあけたお父さまと京にの上ることになるのだけれどいざ、住み慣れた家を離れるとき、

………車にのるとて、うち見やりたれば、人まには参りつつぬかをつきし薬師仏のたち給えるを、見すてたてまつる悲しくて、人しれずうち泣かれぬ………

え、薬師如来さまあんなにお世話になっといて効力もあったのに、置いていくの??まー、長旅にはやっぱそんな等身大の薬師如来さまとか持っていけないよね。だから手のひらサイズとかにしとけばよかったのに、、、そしてその薬師如来さまを見ながら車の中でさめざめ泣いてる。
なんかもう、傍からみててめちゃくちゃおかしいw本人は心から嘆き悲しんでいるんだろうけれど、行動のひとつひとつが必死すぎておマヌケすぎて可愛い。
日記の冒頭からこれだから、期待できますよね。

晴れて都に着き、紆余曲折を経て源氏物語54巻全部ゲットできてしまうのだけれど、これでオオヨロコビしたサラちゃん、ゴロゴロと物語三昧な日々を過ごします。

………人もまじらず几帳のうちに打臥して、引出つつ見る心地、后の位も何にかはせむ………

めっちゃ引きこもって、ゴロゴロと源氏物語やらを読み放題読んで、もう、これ女の一番の幸せと言われる女御や中宮レベルにも及ばない幸せでしょ!と言い切っちゃってる。ああ、わかるよサラちゃん、その気持ち・・・

そゆわけで、私の心をつかんで離さない、更科日記のサラちゃんですが、もちろん、その共感は物語への愛だけでは決してないのです!
次回、おそらく天才の文豪三島由紀夫にも響いたサラちゃんの情愛の深さや人生・命への想い、さくらももこのような親しみやすさやドライで現代的なニュートラルな感覚についても書いていこうと思います。


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