企業広報バイブル #41 「部長、ミッション失敗です！」

🎵日米のリーディングカンパニーで企業広報を統括して気付けば28年。IT系、インターネット系、不動産、エンターテインメント企業、広告代理店、流通業界トップ企業広報アドバイザーまで色々。かなりの私見も交えて色々書いてみようと思い立ちました、、、🎵

企業広報といっても事業部門の動きも知らないといけないし、そうなると事業部門の広報との連携も大事である。定期的にそれぞれの部門ともミーティングを持っていた。

ある日のある会社、、直営ショップを運営する部門に、昔から売り出している、あるキャラクター商品の販売を強化せよ、と本社から司令が下った。理由は簡単。半年後にそのキャラクターの新作アニメーション映画が公開されるのだ（それはまだ非公開）。日本ではずーーーっと、認知はあれども、人気は低迷しているキャラクターだからだ。

部門広報との一緒に広報アイデアを考えよう、とミーティング。
「日本では、知られてはいるけど、そんなにメジャーかと言われると、そこそこファンはいますが、、新しい商品が出るわけでもないのに無理ですよ、、、」
「関連商品の売り上げは、、ここ数年、下がっているよねえ、、、とても知られている子だけど、わざわざ商品を買うまではいかないのかねえ」
「現時点では話題すらないですよ、話題すら、、」

沈黙。売れる、とか、一気に人気が上がるとかは現状難しくても、ばーーーーん、と話題になるアイデアないかなあ、、、。瞬間風速でもいいから、、ばーーーーんと。。（無茶いっているよね、私）そしたら、そこをきっかけに再度プロモーション展開するか、PRするか、、できるのだが、、フックが、、、欲しいよね、、、無風の中いきなりプロモーション始めるような予算はないよねえ、、、

あ、、、、（私の悪巧み、、、が閃いた時は部下は何か嫌な予感を感じるそうである）

翌日、部門の広報の中でも普段からジム通いが趣味のような筋肉自慢の男性を呼んだ。そして、ある封筒を手渡す。

「何ですか？部長、、、」
「来週、世界フィギャア選手権が東京であるんだよね、、そのチケット。一番安い席だけど１枚確保した（ニヤッ）」
そう、今話題の日本人選手、そのキャラクター好きなのである。

ミッション。お店で一番大きな、そのキャラクターのぬいぐるみを競技が終わってファンがリンクに花束を投げ入れるタイミングで、リンクへ！！！、、、（あくまで一般のファンとして）

いつもその選手はキス＆クライで、リンクに投げ込まれた花やグッズの中で1つ、2つ目立つものを拾い上げて抱えてカメラに笑顔を見せる、、今回も、、そのはず。現在、規定演技はトップ、２位とは大差。彼が優勝するだろう。今回のミッションは、彼に投げ込んだ縫いぐるみを抱えてキス＆クライでカメラにVサイン、してもらうこと。苦労したんだよ〜、このチケット。

その部下は、吹き出した。
任せてください。大きなぬいぐるみがお店にあります。必ずや、投げ込んで見せます！！！

当日、夜なので、私は自宅で家族とのんびりとテレビ観戦していた。競技は素晴らしく感動した。そして、その後、、本当に多くの花束やプレゼントがリンクに投げ込まれた。前列あたりは人で溢れかえっていた。

「よし、今だ！！行け！！！行け！！！」
（家族は訳が分からず、私を不審者扱いで見ていたが、、）
あれ？

選手がリンクから引き上げたタイミングで、携帯が鳴った。部下である。
声は暗めだが興奮していた。
「部長、、、すいません、、、思いのほか縫いぐるみが重くて、、しかも、前列は人が集まっていて近寄れず、、リンクまで距離があるけど最後方から助走つけて前列の人達の頭の上からリンクを狙ったのです、、、メイいっぱい投げ込んだのですが、、、、」

「はい、、、、で？」

「縫いぐるみ、前列手前の客席あたりに落ちて、、まったく関係なさそうなお客様が抱えてもっていってしまいましたーーーー」
「ミッション、失敗しましたーーーーー」
（なまじ力に自信があったため、遠投を選択したそうだ）
彼を庇うわけではないが、ぬいぐるみはバランスが悪く投げづらい。。

私はお腹抱えて笑ってしまった。一生懸命投げてくれた彼、そして、リンクには全く届かなかった状況を想像すると、、もう可笑しくて、、可笑しくて、、、

「無茶なミッションに付き合ってくれて、ありがとう！気をつけて帰宅ください」