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ビエネッタと、おばあちゃん
私が小学生の頃の話だ。
車で20分ほどの距離のおばあちゃんの家の隣には、お惣菜も売ってるしお菓子とか日用品も売ってる、萬屋とでもいうのだろうか、そういう店があった。
私はその店でおばあちゃんにアイスを買ってもらうのが楽しみだった。
といっても、買ってもらえるのはせいぜい100円、まあ、高くても200円くらいまで。元教師の祖母は、子どもに贅沢をさせてはいけないという意識が強かった。ダメ元で高そうなやつを「これ買って!」なんて言うのも、私の引っ込み思案な性格では難しかった。
そんな私が珍しく、どうしても、どうしても買ってくれとお願いしたアイスが「ビエネッタ」だった。
大きな箱、ケーキみたいな見た目。他のアイスとは明らかに違う。そもそも、ビエネッタという名前からして高級感が溢れている。実際、いつも買ってもらうスイカバーやガリガリ君に比べたらいい値段だ。
祖母は最初ちょっと怪訝な顔をした。
「これ、切らないと食べれないんだよ。すごく大きいんだよ。」
要は、こんなに大きなアイスは子供には贅沢だし、切るのも面倒だと云いたかったのだろう。
でも、祖母は買ってくれた。その辺りのやりとりは記憶してないけれど、なんだかんだ言って孫には甘かったのかもしれない。
さっそくおばあちゃんに包丁で切ってもらう。切るたびにチョコのパリパリという音がして、お皿にのせて食べるというのも新鮮だ。口に入れると何層にも重なったチョコの食感と濃厚なバニラアイスのハーモニーが絵も言われぬ美味しさ。こんな素敵なアイス、確かに子供には贅沢だったかもしれない。
その後。
私も大きくなって、しょっちゅうおばあちゃんの家に行かなくなった。そして、ビエネッタをスーパーで見かけることもなかった。おそらく普通に売っていたはずだが、なぜか私の周りでは見かけなかった。
ビエネッタはどこに行ってしまったのだろう?見かけなくなるとその存在も忘れていってしまうもので、私の人生に長らくビエネッタは現れなかった。
が、最近になって、ふとその存在を思い出すことがあり、食べたいなあと夫に言ったら「そこのスーパーに売ってるよ」とあっさり目撃情報が得られた。行ってみると、さも当然のように並んでいるビエネッタ。
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さっそく買って食べてみると、子供の頃と変わらない味。美味しい。
ただ一つ違うのは、私にはもうビエネッタを切ってくれるおばあちゃんがいないということだ。
食べる時はその都度、包丁で切り分ける。
皿に載せる。皿を洗う。
おお、確かに。これは結構面倒かも。
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おばあちゃん、今ならあなたの気持ちがわかります。そうですよね、アイスを切るなんて面倒ですよね。天国のおばあちゃんに語りかけてみた。
そして、残りのビエネッタは箱からスプーンで直接食べるようになった。笑
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ズボラですみません。
でも、どんな食べ方でもビエネッタは美味さは変わらないのだった。