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現実を少しだけ美しく描く|おすすめの映画『50/50』
最近、既存の大手メディアへの信頼が揺らいできている様子がうかがえる。
僕もしばらくはテレビを観なくなってしまったので、現代の20代の人がそもそもテレビを持ってないと聞いても「そりゃそうだよな」と思うようになってきた。
テレビで放映されるものは、基本的に美しくて華やかなものが多い。(もちろん醜いものもあるが)
ひと昔前の日本は簡単に言うと「努力は報われる」といった価値観がナチュラルだったのだと思う。景気も人口も右肩上がりであって、本当に誰もが「今日より明日は豊かになる」と思える時代だったらしい。
そういう時代に努力をした人は本当に報われたわけだから、「努力は報われる」「試練は乗り越えられる人にしか与えられない」「愛は地球を救う」の様なコピーもしっくりきてたんじゃないか。
僕はちょうどバブルが弾けたくらいに生まれたので、根っからの右肩下がりな世代だ。デフレと人口減少のダブルパンチを経験しているので、バブルを経験した大人から「努力は報われる」と教訓を問われても「いや、全然うまくいかないんだけど」と思ったことが多かった気がする。
もちろん、努力をしたり試練に立ち向かう必要性は理解できるけれど、やっぱり現実は非常にシビアであり、様々な不条理を受け入れなければならないのが人生だと思う。
だから美しくて華やかな世界であるテレビ番組は、だんだんと観なくなってしまった。
しかし、だからこそ僕はノンフィクション作品や事実にもとづいた作品を観ると共感して感動できることが多い。自分と相性の良いメディアが現代のテレビじゃないというだけで、映画や本から学ぶことはまだまだたくさんある。
ここでは、そんな観点でおすすめできる映画を紹介させていただきたい。
「50/50」という映画がある。若くしてがんになってしまった青年の恋と友情を描いた作品で、原作者の実体験がもとになっているという。
ジョゼフ・ゴードン=レヴィットが演じる27歳のアダムはラジオ局に勤めているが、ある日腰の痛みがきっかけで検査をしたところ、5年生存率50%の脊髄癌と診断されてしまう。
こうしてがんと向き合わなければいけなくなったアダムは、ガールフレンドのレイチェルや親友のカイル、カウンセラーのキャサリンらと相談しつつ闘病に向かっていく。死を意識した困難を前に、アダムに対しての周囲の反応に違いが見られるようになり、人間関係にも徐々に変化が見られるようになる。
この映画では「余命○○年」といったドラスティックな表現はなく、生存率50%という現実的な困難を前にしたリアルな人間ドラマが描かれている。
映画のサムネイルにもなっている画像では、バリカンで丸刈りにするシーンが使われているが、これは抗がん剤治療で脱毛が生じる前に先んじて自ら頭を丸めてしまおうというコミカルなシーンだ。がん患者の間では抗がん剤治療による脱毛への向き合い方は「あるある」な出来事である。
もちろん、死が目の前にある状態でがんの治療に苦しむアダムの困難は特筆すべきものだが、極端な誇張もなく極めてリアルに若者が病気に向き合うシーンが描かれている。繊細なテーマを取り扱いながら、ユーモアとドラマの間を絶妙に行き来しながら物語は進んでいくのだ。
これは自身もがんを克服した経験を持つウィル・ライザー氏が脚本を担当したことが大きく影響しているのだと思う。ノンフィクションとまでは行かなくとも、自身の体験に基づいたフィクションであるからこそのリアルなストーリーが視聴者の心を掴んでくれる。
病気の様に普遍的なテーマは話題性があることから、過剰にセンセーショナルな描き方をされることが多いが、そういった作品が溢れすぎるとどんどん陳腐化してしまっていく。テレビではその陳腐さが定着してしまい、若い世代はそれを感じ取っているんじゃないか。
『50/50』のような等身大の物語がもっと世間に拡がることを強く期待したい。こういったリアルな作品を観ることで、視聴者は日々を生きていくことの大切さを知ることができるからだ。