登頂に何倍もの熱意を燃やしながら背広で軽快に登った先人たちに③

学習院大学山岳部昭和63年卒　棚橋靖

　頂上からはアサバスカ河や、遠くジャスパー方面も望まれる。 １９２５年、槇有恒氏を隊長とする日本山岳会隊がアルバータを初登頂した時は、はるばるジャスパーからアサバスカ河をたどって来たのだ。 今から７０年も前に、装備もたいしたことのない時代に、落石をかいくぐり、Ⅴ級の岩登り、氷壁登攀をこなしてよくぞ登ったものだ。 トリコニーの鋲靴を履き、ニッカボッカに背広を着た登山家たちは、我々の何倍もの熱意を持っていたことだろう。

　槇有恒さんらは初登頂した際、頂上にケルンを積み、ピッケルを立ててきたと言う。 その後ピッケルは、１９４８年に第二登をしたアメリカパーティーによって持ち帰られたが、その石づきの部分は折れて山頂に残ったままだと言う。

　今回、我々はスコップを持って登り、その石突きを回収しようと目論んだ。 しかし、山頂付近は多量の雪に覆われてスノードームとなっており、場所がわからず、残念ながら掘り出すことはできなかった。

　それにしても７０年前に、当時「ロッキー中に於いてもっとも困難なる岩峰のひとつ」と言われたアルバータに挑み、見事初登攀を成し遂げた日本人たちがいたことを思うと、僕はなんだか誇らしい気持ちになった。

　本の中でしか、話の中でしか知らなかった先人に少しばかり近づくことができたような気になった。 そして一言「参りました」とつぶやいていた。

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