「隊員エッセイ」登頂して

2024年5月8日 06:00

学習院大学山岳部　３年　ガラムカリ和

　私はこのメンバーでGyalmo Kangriに登れたことをなによりも名誉に思っています。

　今は14時間半に及ぶアタックの末に遂にやりきったんだという気持ちと、掲げてきた夢が失われてしまったことへの虚無感が入り交じっています。

　出発直前に欠員が生じたり、キャラバン中に荷物が川に流されたり、色々なトラブルがありました。私はその度に、夢を諦めない人たちの強さを思い知らされ、一人では何もできない自分の弱さに苦しみました。

　私は卑屈で偏狭な人間です。綺麗事なんて大嫌いです。でも、遠征を通じて、何かを諦めないということは、それだけで高貴なことだと知り、文字通り命を預けるに足りる信頼が本当に存在することを実感しました。

　私にとってこの遠征は多くを犠牲にしたものでした。言葉では到底語り尽くせない数々の体験がその犠牲に値するものなのかは個人の主観でしか語れないけれども、私は微塵の後悔も残さず全精力と青春を山に捧げたこの半年間が誇りです。

　悔しい思いを数えきれないほどしたし、理解されない度に孤独を抱えた日々の中で私は強さが何なのかを悟り、山で生死の境を意識する度に自分が何者なのかを考えました。そして山頂に居たわずかな時間に自分の生が凝縮されているようにも思いました。

　かけがけのないインドでの45日間とその準備に費やされた膨大な時間の中で私は自分の知らないことの多さに戒められ、尊敬に値する人に囲まれている日常への感謝を覚えました。

　好奇心と嘲笑からされる「なんでそこまでして山に登るの」という質問に未だ答えることはできません。

　山に登ったからって劣等感に苛まれなくなる訳ではないし、幸せになれるわけでもない。飢えが満たされる訳でもないし、社会に評価される訳でもない。初登頂がなんだ、ヒマラヤがなんだ、金持ちか親不孝者かナルシストの道楽。そういう指摘はある側面においては確かに的を射ています。

　フィクションで語られる山男の不屈さや強靭な意志が私にあっただろうか。捨てきれない何かを山で昇華しようとしていただけではないか。そういう自己批判はつきないけれども、なぜ？どうして？と幾度自問してみても、私は「山が好きです」以上の答えを出すことはできませんでした。未だ答えのでない山にまた登りたい。

　空の下に広がる氷と岩の世界に挑みたい。絶壁にかじりついて全身で生を意識したい。
　そして私は更なる高みを目指したい。

「「隊長エッセイ」ゆとり世代のヒマラヤン・ドリーム」から

「「隊員エッセイ」楽しむ力は、困難を乗り越える力」へ

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