「映画感想」レナードの朝
人生を変えたと言うよりも私を支え続けてくれた映画「レナードの朝」について、今日は語りたいと思う。
キャスト レナード ロバート・デ・ニーロ
セイヤー医師 ロビン・ウィリアムズ
監督 ペニー・マーシャル
脚本 オリバー·サックス
ハリウッドの二大名優を主演にした不朽の名作だから、ご存知の方も多いと思う。
私は主人が「くも膜下出血ステージ4」で遷延性意識障害の入院生活を送っていた時にこの映画に出会った。
出会ったと言うよりも、「実話に基づく」意識障害で眠ったままの患者が「起きた」奇跡のヒューマンドラマを検索して、探しあてたと言った方が正しいかもしれない。
実話を元にした医療関係の映画は沢山ある。例えば、筋ジストロフィーにかかった我が子を救う家族愛の映画「ロレンツォのオイル」も泣ける名作だが、これは民間療法を描いているし、意識障害からの回復の話しではなかったので、一度観たきりだった。
当時の私に正しくヒットしたのが「レナードの朝」だった。
嗜眠性脳炎という難病にかかり、手足が徐々に動かなくなっていったレナード少年は30年間という歳月を眠ったままの状態で病院に居た。
そこへ1969年ブロンクスの慢性神経科病院へセイヤー医師が赴任するところから、この物語は動き出していく。
私の興味や最大の関心事と一縷の望みが合致した。
セイヤー医師はレナードをなんとかして起こしてあげたいと真摯に治療法を模索する。そんな時、出会ったのがパーキンソン病の新薬「Lドーバ」だった。彼はレナードの眠りは「痙攣」からくるものではないのかと思い立ち、その新薬の投与を医院長と年老いたレナードの母に懇願するのだ。
私だったら「新薬の危険性」よりも、目覚めて欲しい方が絶対的に先に立つ(主人は脳は病で傷んでしまったが、身体は健康そのものだった)が、やはり母親は違う。Lドーバに依る副作用等が、まだ発表されていない事に難色を示す。その時のセイヤー医師の説得の言葉が実にいい。人生とは何かを母親に説くのだ。
生きると言う事は何だろう…
生きている意味、生きることの有意義…
セイヤー医師の熱意に促されて母親は新薬の投与を了解する。そして、そこからセイヤー医師の闘いが始まった。実例がない新薬の「投与量」が分からない。
オレンジュースに混ぜたりミルクに混入させたり、投与量を増やしたり…
そして、ある夜
レナードは遂に目覚める。
病室を抜け出して病院内の食堂に居たレナードをセイヤー医師が探しあてた時の彼の台詞がいい。
「静かだね」
「ああ、夜中だからね。みんな眠っている」
「僕だけ起きてる」
30年間眠っていたレナードが、自然に言う言葉
「僕だけ起きてる」
脚本がオリバー·サックスと言う実際の脳神経外科医なだけにニクイほど巧みだ。もちろん、この映画自体が彼の実体験から描かれている。
静かな感動を呼ぶシーンだ。
次の日の朝、病院中はお祭り騒ぎのように皆が喜び合う。
レナードが起きた!
セイヤー医師の奮闘が実った!
今までただ「生かす」ことだけをしていた慢性神経科病院で初めて「治療」が実ったのだ。この成功により、嗜眠性脳炎で寝たきりの病人達は次々と目覚めていくのだ。
レナードは30年間の遅れを取り戻そうと積極的に行動を開始する。
始めての恋も経験する。お見舞いに来ていたポーラと言う女性に一目惚れをするのだ。
その恋の行方とレナード自身の結末は、ご自分の目で確かめて頂きたい。
私がこの映画を大好きな理由は、たった一つだ。自分自身のあの時に置かれた状況とこの古い映画とを重ねて「希望」を持てたからに他ならない。
植物人間となった主人も、もしかしたら新しい治療法の発見によって目覚めるかもしれない。
挫けそうになった時、何度も何度もこの映画が頭に浮かんだ。
生きてさえいれば、今に新薬が開発されるかもしれない!
一日でも長く主人をその日まで生かしてあげたい!
だって死んでしまった次の日に新しい治療法が発見されたら損じゃないか!!
諦めそうになる度に、私はセイヤー医師の登場を祈った。
私のこのnoteに訪れる皆さんがご存知のように結果として主人は亡くなってしまったが、医学は日々進化している。いつか、きっと…
一本の映画が私を七年半、支え続けてくれた。この映画が無かったら、私はとっくに諦めていたか、もっと暗い介護の日々を送っていただろう。
最後にレナード役のロバート・デ・ニーロ、セイヤー医師役のロビン・ウィリアムズの演技が、圧巻である。