ほろ酔いの 夜道のライトは あったかい。
ほろ酔いの帰り道、隣の人がライトで足元を照らしてくれた。
その横で、わたしはライトを相手の口元のちょいと先へと向けた。
隣の人が、数m進んだところで、ふふふと笑う。【なに?】と人差し指を揺らして尋ねると
「ねぇ、さんまりちゃん酔っ払っているでしょう」
とさらに大きく、ケラケラ笑い始めた。
「えええー。そんなことないですよ。あれくらいじゃ酔いませんって」
とおどけて返事をしたものの、隣の人はずっと笑ったまま。
おかしいなぁ。
今日はワインをグラスで3杯飲んだくらい。
確かに体はちょっぴりポカポカしているかもしれないけれど、正直まだまだ飲めちゃうぞ!な気持ち。
すると隣の人は、こう続けた。
「ライトを向ける方向だって分からなくなっているじゃない」
・・・・・・!
だから、隣のひとはライトで足元を照らしてくれていたらしい。だって、暗いと転んだりして怪我をしてしまうかもしれないから。
じゃあわたしはというと
だから、隣の人の口元を照らしていた。だって、おしゃべりを続けたかったから。
つまり、ライトを向ける方向があべこべになってしまうくらい酔っ払っていたわけではないのだ。(わたしの名誉のために)
それで
「いや、わたしはあえて口元にライトを向けていたんですよ。だって口読めないとお話しできないじゃないですか!」
と答えたら、隣の人はハッとした顔をして
「あーーーー!そういうことか!もっと早く教えてよーー」
と言って、酔っ払いとからかったことを謝ってくれた。その謝る姿があんまりにも小さかったから、思わずこっちが笑ってしまった。
音の世界と音のない世界では、夜道のライトの使い方まで変わってきちゃう。
でも、もしあの場でお互いが足元を照らしていたらおしゃべりできなかったし、お互いが口元にライトを当てていたら転んで怪我をしてしまっていたかもしれない。
隣の人が足元をそっと照らしてくれたそのおかげで、わたしたちは夜道で安全に楽しくおしゃべりができたんだと思う。
お互いのライトの向く方向はバラバラだったけれども、お互いを思う気持ちは同じところにあって。言葉にすることをつい忘れてしまうだけで、この世界はきっと、そういうことで溢れているから。
見つけられた小さなかけらを大事に大事に言葉に紡いで、それらを抱いて今夜も眠りにつきたい。
やっぱりわたしは、音の世界と音のない世界の【狭間】に流れる温かい時間が、とんでもなく好きなんだろうな。この世界に生きててよかった。