聴覚障害のあるわたしが、藤原さくらちゃんのライブにひとりで参戦した話。
いま、わたしは、とても夢見心地な気分です。
遡ること、6時間半前。とにかく「暑い」以外の台詞が何ひとつ思い浮かばない。そんな、気温30℃越えの東京は、八重洲ミッドタウン。数日前に、TwitterだかInstagramのお知らせで見つけたFUJI ROCK WEEK へ、藤原さくらちゃんのうたを聴きたくて、この地へ。
正直、会場に行くかどうかは昨夜までずっと悩んでいた。というのも、わたしは聴覚障害者で補聴器を付けていて。思いのほかペラペラ喋るので誤解されやすいけれども、機械音声はほとんど聴き取れない。でも、彼女の歌は、ずっと好き。学生の頃は、中野サンプラザへライブに行くことをご褒美に就職試験に臨んだこともあるくらい、好きで。
「機械音声はほとんど聴き取れない」といってもそれは、初聴のモノが苦手ということを指していて。何度も繰り返し歌詞を見ながら、補聴器とBluetoothを繋いで繰り返し繰り返し聴いた曲は、口ずさめる。音痴だけど。
これは、聴能とかいう聴き取りの訓練を頑張ってきた成果。小さい頃はなんのために訳の分からないことをしているんだと思っていた。でもいま、この世界の音たちをわたしのものにする作業を自然にできるようになったのは、間違いなくあの頃のわたしのおかげで。
だから、何度も何度も繰り返し曲を聴いて覚えていって、SNSでセトリ情報も得て初参戦したLIVEは、とんでもなく楽しかった。ちなみに、MCはもちろん初聴で全く分からないのだけれども、あの日LIVEに誘ってくれた友人は、隣で全部手話通訳してくれた。わたしは、周りにも恵まれすぎている。
それからというものの、友人と予定を合わせてはライブや配信を楽しむ日々を過ごしていた。がしかし、今回は急なお知らせだったこともあり、地元に住む友人は参戦できず。セトリも分からないし、きっとMCも分からないし、人が多くて顔も見れないかもしれない……と思うと「行っても楽しめないだろうなぁ」とちょっぴりどんよりしていたし、多分行かないんだろうなぁと思っていた。
という話を昨夜一緒に過ごしていた人に溢したら「せっかくなんだし、行ってみなよ。楽しいか楽しくないかなんて、行ってみなきゃ分からないでしょう。」とごもっともな助言をいただいたので、意を決して灼熱の東京駅に降り立ったというわけ。
行ってみるとすでに長蛇の列で、ステージなんて見えやしない。やっぱりわたしには無理だったんだと諦めようとしたときに、運良く本当に運良く顔が見える位置にたどり着くことができて、ライブが始まった。
一曲目は「Walking on the coluds」。いつもお料理をしながらよく聴いている一曲。補聴器で聴き取れたギターの音色で、なんの曲かすぐ分かっちゃう。
二曲目の「生活」はお家でのんびりするときによく聴いていて。気分があがるから口ずさんじゃうことも。これも、ギターの音色で分かっちゃった。
最初の二曲は、何年も日々繰り返し聴いている曲だったので、この間に補聴器のイコライザ機能を調整しながら、彼女のうたが聴き取れるマックスの音量を調整する。ちなみに、全音域を上げると雑音の方が大きくなってしまうので、中音と高音をギリギリまで上げて、低音は少し抑えめ。目的に合わせて補聴器のボリュームを調整できるようになったのも、日々自分の聴き取りと向き合ってきた成果なのかもしれない。本当にえらい。わたし。
と、ここまで補聴環境と口の読み取りに全力を注いだので、三曲目にニューアルバムの「Feel the funk」がやってきたときも、最後はちゃんとノレマシタ。生で聴くのは初めてのメロディだったので、補聴器では全く聴き取れなかったのだけれども。口を読み取って歌詞が浮かんだのを切り口に。記憶の中にある「Feel the funk」のメロディと彼女の口の形を必死に繋ぎ合わせたら、最後の方ちょっぴりだけ音が聴こえたのです。
これで分かるように、わたしの「聴こえた!」は本当に訓練の賜物。何度も繰り返し練習してやっと「分かった!」になる。久しぶりにそんな体験をしたなぁと思ってちょっと疲れたところに、「わたしのLife」「Super good」とおなじみの曲が続いてMC。
どうやら、次の曲が最後らしい……というのを周りの反応から察知して始まったのは「君は天然色」!
知ってます!!
聴いてます!!!
何度も聴いてます!!!!
ライブって、最後の最後に新曲を歌ってくれるみたいなのも多いんだけれども、それだと最後の最後に「ちょっとなんだかよく分からなかった……」と不完全燃焼になりがちなので。この、最後に向かって聴き取れる曲が流れてくるセトリ、神だった。あんまりにも感動して、涙が溢れそうだった。
もう、完全に余韻に浸りながらボーッと。今にも泣きそうになりながらボーッと。とりあえずこれは、人の少ないところに行ってクールダウンしようと5階のテラスに行こうとエレベーターに。
5階のボタンを押して、ドアが閉まるぞ……という次の瞬間、信じられないことが起こった。
あの鮮やかな若草色のワンピースを着た女の子が小走りに乗ってきたのだ。
知ってる。わたしはこの子を知ってる。今、余韻に浸ろうと、冷静になろうとしているのは、この子のライブがあんまりにも楽しかったからで。
まさか、本人が目の前にやってくるだなんて、思いもしなくって。息が止まってしまうかと思った。何度も何度もチラ見していたらついに目があってしまったので、どこからどう絞り出したのか分からない小さな声で
「めっちゃよかったです……」
と呟いてしまった。すると、ニコッと笑った彼女は
「暑かったですよね。ありがとう!」
と、答えてくれたのです。
自分からアクションしたくせに、一瞬何が起こったのか分からなかった。というのも、MCは全部口の読み取りで乗り切ってきたので、生の彼女の声を聴いたのは文字通り生まれて初めてで。
うわーーーーー。今、この言葉、わたしのために紡いでくれた言葉だよね?てか、この声ホントにさくらさん⁈
と、さらに混乱して今にも涙が溢れそうになったタイミングで、ドアがもう一度開いた。
スタッフさんに囲まれた彼女は、軽い足取りで明るい外へ向かって歩き始める。そして、降りる直前に振り向いて
「ホント、ありがとうございました!」
ともう一度、微笑んでくれた。かわいい。かわいすぎる。すき。
エレベーターに残っていたのは、わたしだけ。そう。あれはもう絶対に、わたしのために紡がれた一言だった。目、合ったもん。
クールダウンなんてできるはずなくて、ドクンドクンと胸が高鳴るなか眺めた風鈴たち。「涼をとる」方法なんて、もう分からない。
「どうせ分からないだろうし」と諦めなくてよかった。
「行ってきなよ」と背中を押してくれる人がいてよかった。
初参戦ライブのMCを手話通訳してくれるような心優しい彼女に「一緒にご褒美LIVE行こう」連れ出してもらった経験があってよかった。
繰り返し繰り返しさくらちゃんの曲を聴いてきてよかった。
藤原さくらちゃんのファンでよかった。
好き!を口にし続けて、ちゃんと行動したわたし、えらすぎる。息もできないくらい幸せな気持ちになるまでに、たくさんの人たちに支えてきてもらって本当に本当に感謝。感謝してもしきれない。
はぁぁぁぁ。良い一日だった。