フルコースを君に。 #毎週ショートショートnote
「いらっしゃいませ」
重厚な木の扉を開けると、黒のスーツをピッチリと着た長身の男性が私を出迎えてくれた。席に案内された後、コース料理を注文する。
「前菜は『逢いたい菜』でございます」
青々としたサラダを口に含むと懐かしい光景が蘇ってくる。
「続きまして『私は元気でスープ』でございます」
温かいスープを飲めば微笑む彼の笑顔が思い出される。
「『離れていなけれバ、ゲット気づかなかった』でございます。」
彼が大好きだったフランスパンの小麦の香り。
「メインは『黄身を愛してい鯛の無二L』です」
エル……!私がかつて愛した唯一無二の彼の名前を、どうして。彼は料理の道を選ぶと言ってフランスへと飛んで行ってしまったのに。
「デザートでございます。『ただいマンゴー結婚しヨーグルトシャーベット』です」
シャーベットの中からキラリと光る指輪が。
「シェフを呼んでくださる?」
目元と口元を拭いていると、彼が歩いてくるのが見えた──。
(420文字)
逢いたい菜を、書きたい菜。
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