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脳から口への回路が断線している模様
文章の中での私はとてもおしゃべりだ。
次から次へと書きたいことが浮かんでくる。
浮かんできた言葉は反芻するより先に指先に伝わって、文字列になっていく。
時々指が思考に追いつかずに、浮かんだ言葉が消えてしまう時がある。あー、今いいこと思いついてたはずなのに。残念。
あの話も途中だし、あの話の続きも書きたい。
「それなら音声入力でしゃべった方が早いんじゃない?」と人に教えてもらった。
なるほど、それは早そうだ!とマイクボタンを押した。ーー途端、何も浮かばなくなった。
言葉が消えた。
えっ、えっ、待って。
今思い浮かんでたあれやこれはどこに行っちゃったの?
マイクボタンを再び押して、文字列を入力する画面にうつる。そしたらまた言葉がうまれてきて、画面にはおしゃべりな私が戻っていた。
日常会話もそうだ。
誰かとしゃべろうと思うと言葉が出てこない。
頭の中にあったはずのものが真っ白になって、何を口にしたらいいか分からなくなって、白いモヤの中で見つけたカケラをひろってようやく口にする。
でも口から出た言葉はだいたい、そんなこと考えてもなかったのになぜか勝手に出たみたいなものだったりする。
なんか変なこと言っちゃったと思うとますます焦って、さらに頭の中は真っ白になる。リカバーしようとして、もっと変なことを重ねて言う。あーもう収拾つかない。
それが嫌で、現実世界での私は口数の少ない人を装っている。
昨日は「大変!雪降ってきた!」と口にして、子どもたちに「こんなに暑いのに!?」と笑われた。
どうしてだろう。
文章ならすらすらと言葉が浮かんでくるのに。
雨と雪なんて、入力間違いならしないのに。
人と会話するのが苦手なんだと思っていたけれど、それだけじゃないらしい。
どうやら脳から口への回路が断線している模様。
いや、混線して手指と繋がってしまったのか。
もしも私が大正生まれの人間だったら、一日中机に向かってペンを走らせていたかもしれない。
もしも私が平安時代の人間だったら、溜まった言葉が溢れて破裂していたかもしれない。
……もしかして100年先の未来には、指を通さなくても考えたことが直接言語化される端末が出来るかもしれない。
私みたいな口下手なおしゃべりな物書きたちが、もっと自由に表現できる。口から出る言葉だけが会話じゃなくて、文章で紡ぐ会話があっても素敵じゃない?
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