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映画『aftersun/アフターサン』をみる。

スコットランドの新星、シャーロット・ウェルズ初の長編作品。

父親カルム(ポール・メスカル)は離れて暮らす11歳の娘ソフィ(フランキー・コリオ)と共にトルコ旅行へ出掛けた。20年後、父と同じ年齢になった娘は当時の様子をビデオカメラ映像で回想する。その時には気付けなかった彼の知られざる苦難や葛藤が、静かに浮かび上がってきます。説明的描写を極限まで排した101分間に散りばめられた記号の数々、独断と偏見で読み解く。

カルムの生い立ちについて。ソフィに「11歳の時、どんな将来を思い描いていた?」と問われても彼の表情は浮かない。護身術を教えたり、おもちゃの電話を買ってもらった思い出を話すシークエンスから察するにカルムもまた母の手一つで育てられ、父親とは電話でしか言葉を交わせなかったのかも。あるいは幼少期に虐待を受けていたのでは、と解釈できる余地すらあった。

彼が時折見せる神秘的な動きは、マインドフルネスヨガの一種でしょうか。

カルムと同じ境遇に、ソフィもまた立っている。娘が寝静まった後でタバコを蒸すシーン、あるいはトルコ絨毯屋で見せた切なく物悲しげな表情こそが本来のカルムの姿で。それでもなんとか気丈に振る舞おうとする姿にひどく胸を打たれます。思春期盛りの我が子の前で、そんな格好は見せられない。しかしソフィもまた父の異変に少しずつ気付き始める、ここの対比も見事。

カルムの心の歪みを描きつつ、他方ソフィの成長記録として映し出しているという部分がミソですよね。水中のカットが多用されていたのはつまり彼女が見たことのない世界=「大人への階段」のメタファーだったと推察する。同世代の男の子に芽生えた恋心、あるいは年上の女性からドリンクリフィルフリーのリストバンドを受け取るシーンにもそれが滲んでいました。

「縞模様のシャツ」、皆さんにはどう映りますか。

排斥者、愚か者あるいは隷属的な存在の象徴として。パトカーのサイレンで締め括られるエンディングには、囚人服のメタファーすらチラつく。なぜ20年前の夏休みを最後に父娘の交流は断たれてしまったのか。愛する父の誕生日を一緒に祝ったはずの娘がなぜ、伏目がちにハンディ映像と対峙しているのか。何か重要な記号を見落としてしまったがために生まれた疑問点かも。

印象的なロングカット含め、正直語り足りない部分は沢山あります。しかし些か野暮ったい気もしていて。言葉にするほど嘘くさく感じ説明し切らないからこそ説明がついている、そんな映画だったなと心から感じたためです。シャーロット・ウェルズの実体験が投影されている、とのインタビュー記事もありますから気になった方は是非補完をよろしくお願いします。


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