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新譜レビュー/Valtteri Laurell Nonet, Frederico Heliodoro, Phil Woods

当方泡沫DJイベント広報用アカウントは2023年「みる」「きく」「よむ」の3本柱であれこれ発信していきます。とはいえ肝心の「きく」部分に致命的なカブりが生じてまして、それつまりライブレポートと新譜レビューです。どちらかを書こうとするとどちらかが疎かになってしまう、そんなジレンマを払拭すべく待望の祝祭日に大放出!!新譜レビュー3連発です、胸焼け必至。

Valtteri Laurell Nonet『Tigers Are Better Looking』

古き良きクール・ジャズの風格を漂わせつつ、NuJazzブームを経由したからこその新しさも兼ね備えている。「At the Villa d'Or」を初めて耳にした時の探しとったんコレや感。『クールの誕生』でいえばオープニングの「Move」ヘレン・メリルでいえば「'S Wonderful」を彷彿とさせるサウンド、そこに本来鳴ってないはずの4つ打ちが確かに聞こえてくる不思議な感触。

ヨーロッパジャズの魅力について語る時、ついクラシック音楽の土壌ばかりにフォーカスが行きがちですが。実は非常に「ダンサブルである」という点は外してはならないと考えていて、しかもそれが限りなくフロア志向でありクラブ音楽的な側面が強いことも本作を聞いていてはっきりとわかります。問題は、トラって良いルックスだよね、なる謎のアルバムタイトルの正体。

正確には「トラの方が見た目はマシ」と訳す方が適当なのだそう。ドミニカの作家ジーン・リースの短編集に着想を得て制作されたのが今回のアルバムで、時代や社会との隔絶が生々しく綴られており最近日本でもようやく刊行された1冊。旧植民地、現在は連邦の一部として属するイギリスでのリリース盤というところにも何やら底しれぬメッセージ性が見え隠れする。

Frederico Heliodoro『The Weight of the News』

もう1曲目の「Interstelar」からブッ飛びました。仏・ミナス音楽の最前線へ赴いた結果、待ち構えていたのはジャズを超越したシンセ・ポップの領域。驚くほど爽快でキャッチー、でいて自身参加作である『Caipi』の世界観を更に増幅させている。メジャー/マイナーコードという概念をグラデーションあるいは並列するというお作法は、古くボサノヴァから伝承するスタイル。

調性すら心の贅肉だったということなのか、フィジカルで刹那的な音楽性がますます研ぎ澄まされた印象。雲一つない快晴のはずなのになぜか気持ちは優れない、乾燥地に涼やかな風が吹き込んできたのも束の間それは嵐を運ぶ風だった。些かポエムが過ぎますが、例えばミナス音楽の醍醐味はそうした明暗や陰陽だけで説明がつかない部分にあったりすると思うのですよね。

客演陣も豪華、でいてしかもガチガチに両脇を固めた窮屈感の無さも凄い。Seamus Blake、Louis Cole、Kurt Rosenwinkel、Aaron Parks、Antonio Loureiro、David Binney。クレジットを見ただけで各人どんなパフォーマンスを求められているかつぶさに読み取れる、これってありそうでないことで。Pietro Pancellaに続き、こちらも年間ベスト候補の予感。

Phil Woods『Bird with Strings…and More!』

図らずもチェンバージャズ重ね打ち。本作リリースの前後、3日未明にWayne Shorterの訃報が届き界隈は大きな悲しみに包まれました。ジャズ研在籍時代には同期3人で『Speak No Evil』『Night Dreamer』『Juju』を個別買いし、お互いに貸し合って聞くなどして楽しんだもので。思い入れある作品が兎角多いものですから、正直気持ちの整理がつかぬまま何から手に取るべきか。

そんな矢先、不意にRelease Laderから「Just Friends」が流れてきたんですね。僥倖とはまさにこのことで。耳にタコができるほど聞いたはずなのに、Phil Woodsの手癖まで全部お見通しなはずなのにこんな幸せな気持ちになるものですか。豪華2枚組、名手Reggie Johnson晩年のワークスでも屈指の好テイクばかりが並んでます。動画サイトでは当時の映像も視聴可能。

何か折に触れてwith Stringsを披露してきた感のあるPhilですが、スタジオ盤は意外にもVenus在籍時の『The Thrill Is Gone』(2002)1作に留まっていた。非常に資料的価値も高い逸品と言えそうでそれこそ映画「BLUE GIANT」が日本を感動の渦に巻き込んでいる最中、コンテンポラリーのみならず室内楽のアプローチにも是非注目していただけますと幸いです。

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