【毎週ショートショートnote】カフェ4分33秒
たらはかにさんの毎週ショートショートnoteに参加します。
【カフェ4分33秒】
クリスマスが嫌いだ。
浮わついている街も、クリスマスソングも何もかもが大嫌いだ。
そんなことを思いながら、まばゆい街を彷徨っていると、ふと一軒のカフェが目に留まった。この時期には珍しく、何の装飾もない外観が気に入り、俺はふらりとそのカフェに入った。
カラン
扉を開けると、珈琲のいい香りがした。
迷わずそれを注文し、穏やかな時間を堪能する。
このカフェには音楽が流れていない。しかし、コポコポと沸くお湯の音、マスターの衣擦れ、すべてが心地いい音楽といってもいい。
『まるでジョン・ケージの沈黙の音楽、4分33秒だな』
ふっと笑みがこぼれたそのとき――
カラン
女がカフェに入ってきた。
「……ああ、やっとクリスマスから逃げられた。ここは素敵ね」とマスターに声をかけている。
「無音なのね。まるで4分33秒」
注文を終えた女がぽつりと呟いた。
同じ感想をもつ女を、思わず見つめてしまう。
視線に気づいたのか、女もこちらを見つめる。
――視線が絡みあう。
心臓がトクンと波打った。
それすらも沈黙の音楽に混じり、カフェには二人だけのメロディが流れはじめていた。【了】