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【短編物語】みかん君といっしょ 第1話 ~ 愛と友情のストーリー ~

 みかん君は自分の事が大嫌いでした。名前もない、年も分からない、自分はどうやってこの世に誕生したのか、何一つ分からないからです。すっぱくておいしくないと嫌われて、箱に詰められてから、どのくらいの月日が経つだろうか。色んな、種類のみかんがここにはいます。
 みかん君はずっと一人ぼっちで隅っこで暮らしていました。どうしたら、この箱から出られるんだろう。箱から出る事、それは幸せなことだと思っているみかん君は、出る方法をひたすら考えていました。
 ある日、甘くておいしそうな香りがする人に話しかけることにしました。
「おまえ、何者だ」
みかん君はぶっきらぼうに言いました。すると、一人のみかんが振り返りました。
「はじめまして。僕は、ポンカンっていいます。君は、何て名前なの?」
 艶のあるオレンジ色の衣装をまとい、甘い香りを放つポンカンは笑顔で答えました。明るくてみんなの人気者なのです。
「おれは……みかん君だ。なんか文句あるか? おまえちょっと人気があるからって調子に乗るなよ。おれはお前みたいな奴が大嫌いなんだ」
 ポンカンは悲しい顔をして、俯いてしまいました。みかん君は我に返り、すぐに謝りました。
「悪かった……。実はな……、おれも、おまえみたいになりたいんだ。どうしたらいいんだ? 教えてくれないか?」
「君は、名前がないの?」
「名前なんてない。どうせ、おれはすっぱくておいしくない嫌われ者なんだ。このまま、箱から出られずに、一生を終えてしまうかもしれない……」
「名前がないなら付ければいいのさ。そんなの簡単なことだよ。たしかにおいしい人から順番に、箱から出されていく。だけどこうして、僕もまだここにいるじゃないか。君と一緒だよ。でも、僕はここでの生活も大好きなんだ。たくさんの仲間に囲まれて、本当に幸せ。今日から、君も僕らの仲間にならない?」
 ポンカンは、満面の笑みでみかん君の肩を軽くたたきました。
みかん君は初めて人の温もりを感じました。嬉しさのあまり、みかん君の目から大粒の涙が溢れ出てきました。その涙は頬を辿り、口元に流れ着きました。
 甘い香りが鼻をつき、みかん君は思わず、自分の涙をぺろりと舐めてしまいました。
 すると、みかん君は驚きました。それは、今までのすっぱい自分とは対照的に、甘い優しい味なのです。
「あ、甘い……。どうしてなんだ。すっぱくておいしくないはずのおれがどうして……。」
 みかん君の目から、大粒の甘い涙が止まりません。嬉しくてみかん君は、声を上げて泣きました。
 ポンカンが、みかん君の頭を優しく撫でて言いました。
「君は、一人じゃないんだよ。みんなと同じ。何も、恥じることはないさ。名前を僕が付けてあげるよ。君は今日から、デコポンだ。どうだい? 可愛い名前だろ? これで君もすぐに人気者になれるさ! これから、よろしく!」
「ありがとう、ポンカン……。お前が、みんなの人気者になった訳が少し分かったような気がするよ。どうして甘いのかもな。今日からお前はポンすけだ」
 それから、デコポンと名づけられたみかん君とポンすけは、一緒に楽しく暮らしました。あっという間に人気者になったみかん君は、箱からの脱出も忘れ、このまま仲間と楽しく暮らしていけると思い、本当の幸せを見つけられた気がしました。
 ある日、みかん君は、遊び疲れてお昼寝をしていました。しばらくして目が覚めて、ぼーっとしていました。すると、箱の中に一本の人間の手が伸びてくるのが見えました。
「また、この中から、一人だけ選ばれて外に出されるんだろうな。今まで、おれも出ることしか考えてなかったけど、今はそんなことどうでもいいや。どうせおれなんか選ばれるわけがないしな……」
 そんなことを考えながら、みかん君はもう一眠りしようと目を閉じました。
 すると、突然向こうの方で悲鳴が聞こえました。その声に驚いたみかん君は飛び起きました。声の方に目を向けると、人間の手に捕まった少女のみかんが必死でもがいているのです。
「嫌よ! 私なんかおいしくないから! お願い、離して! 誰か助けて~」
 みかん君は急いで駆け寄り、彼女を助けるために必死に手を伸ばし、何とか彼女の手を掴みました。そして、人間の手から、するりと彼女は抜け落ちました。人間の手は何事もなかったように箱から出て行きました。大きな目と、優しくて甘い香りを身にまとい、頭には大きなピンク色のリボンを付けています。
「大丈夫か……? ケガはないか?」
 息をきらしながらみかん君は訊きました。
「おかげで助かりました。私は、イヨカンっていいます。あなたは?」
 ヒクヒクと泣きながらイヨカンは答えました。
「おれは……デコポンと言う者だ。でも……みかん君でいいや。よろしく」
「デコポンさんとはあなただったのね! 噂で聞いておりました。とても心の優しい方だと」
「おれは優しいわけではない。お前を助けたのは、たまたま暇だったからだ。誤解するなよ」
 みかん君はイヨカンから目を逸らして素っ気無く言いました。そして、「じゃあな」と片手を上げてみかん君が去ろうとした瞬間、イヨカンが小声で呟きました。
「あ、あの~……よ、よかったら……」
「ん? おまえ今、何か言ったか?」
 みかん君は振り返りました。
「えっと、あの、よかったら私とお友達になってくれませんか?」
「友達? おう。いいぞ」
「ほんとに? やったぁ! じゃあこれからよろしく! これからは、お友達だからイヨちゃんでいいよ」
 イヨカンは目を輝かせて喜びました。
「イ、イヨちゃんか。わかった。イ、イヨ、イヨちゃんは、他に友達はいないのか?」
 ぎこちなくみかん君は訊きました。
「私のお友達は、みんな病気で死んじゃったの……。だから、今は一人ぼっち」
「そうだったのか……。嫌なこと思い出させてしまったな……」
 みかん君の心の中にふと仲間意識が芽生えました。
「全然平気だよ! それに、今日みかん君とお友達になれたし」
 イヨちゃんは明るい笑顔で言いました。その笑顔を見た瞬間、みかん君は今まで一度も味わったことのない気持ちになりました。胸の中がむずむずと痒くて、まともに顔も見れなくなってしまったみかん君は、どう接したらいいのか分からなくなりました。その時、ポンすけが駆け寄ってきました。
「みかん君、何があったんだい? 大丈夫? あれ? イヨちゃんじゃないか! 久しぶり! 元気だった?」
「久しぶりだね! 元気だよ。ポンすけは?」
 イヨちゃんが答えました。
「ぼくも元気だよ。え? イヨちゃん、みかん君と友達だったの?」
「今、人間の手に捕まりそうになったわたしを助けてくれたの」
 みかん君は、何も言わずに黙ってその場から去っていきました。
 その日から、イヨちゃんは、みかん君とポンすけの仲間に加わりました。

#第2話に続く 

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