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チョコレートを題材に考えるハイブランド性と権威の頑強性

中学生の頃から毎年欠かさずバレンタインフェアに行っているチョコレート好きの私が、高級チョコレートの選び方を提案したい。


高級チョコレートを選ぶのは難しすぎる

近年、バレンタインの時期に行われる高級チョコレート祭は盛り上がり続けている実感がある。しかし、高級チョコレートを選ぶのは難しすぎないだろうか?

  • 大体、食べたこともないのにどうやって自分の好きな味のチョコを選べばいいのか?

  • かといって、一粒が高すぎて気軽に試したり比較したりして好きなブランドを見つけるまでお金がもたない。(田中みなみは金持ちなのでたくさん買ってバクバク食べてお気に入りを見つけられるが残念ながら私たちにはそれができない)

そこで、この記事では、高級チョコレートというものの性質を考えた上で、高級チョコレートを選ぶ際の最初の絞り込みを行う方法を提案したい

チョコレートは一度ハイブランドになると強い

そもそも、上で述べたように好きな商品を探して選ぶことが難しいはずの高級チョコレートの人気がなぜ近年高まり続けているか?それは、高級チョコレートという商品がハイブランド性を帯びているからではないだろうか。

○ハイブランドとは?

「ハイブランド性が強いというのは、その商品の良さを消費者に体験して実感させなくても、権威に基づく信頼性によって消費者に商品に買わせることができるということ」だとここでは定義する。つまり、消費者は、そのチョコブランドの商品が美味しいと自分で食べて知っているからリピートして買うのではなく、信頼できる誰かが美味しいと認めたから食べてみたいと思って買う傾向が強いということだ。

○高いお金を出して食べないと味の評価が出来ない分、権威の頑健性が強い

例えば、ハイブランドというと服飾の世界で私たちはよくその言葉を使う。あるデザイン・素材・値段の服がそこにあったとして、もちろんその服の良さを実際に体験して実感しただけで買うこともできるが、やっぱりCHANELというブランドがついていた方がこの服はCHANEL(の中の人)が認めて売っている服なんだと思うことができ、その服への信頼が高まった状態で買うかどうか決めることになる。この信頼がハイブランド性の鍵である。

しかし、チョコレートは、服飾と比べてももっとハイブランドの性質が強いなぜなら、服は買わなくても見たり試着したりすることができるけれど、チョコレートは買わないと食べられないからだ。

もし仮に、CHANELがクソダサい服を売ったりパリコレで披露したりしていたら、私たちは買わなくてもネットでその新作を見るだけで、もちろんブランド性への信頼が強ければ「もしかしたらこのダサさが新しさなのかも」と思う可能性もあるわけだが、「いや、やっぱりクソダサくね?」と思うこともありうるわけである。でも、高級チョコレートは仮に中身がコンビニで買えるフェレロ・ロシェと同レベルの味でも、買ってみないとそれを評価できないし、頑張って買ったとしても、500円の対価を払って食べる小さな一粒を「意外と普通の味じゃない?」と評価するのは心理的にハードルが高い。

つまり、高級チョコレートの場合、一度獲得した信頼を大衆の口コミの力で崩すことが難しく、そのため高級チョコレートは権威(信頼できる人や組織からの口コミに基づく信頼)の頑健性がかなり強いといえる。従って、チョコレートはハイブランド性が保ちやすいといえる。

○ハイブランド性を強く帯びているということは、自分の五感では選ばないものに挑戦しやすく新しい価値に出会いやすいということ

この話をバレンタインフェアに一緒に行った友達にしたら、「ネガキャンしてるの?」と笑われたが、決して「チョコレートはハイブランドだからみんな騙されているよ」などと言いたいわけではなく、むしろ、「ハイブランド性を強く帯びているからこそ、私たちは、信頼できる口コミから影響を受けることで、自分の五感では選べなかった新しくて素晴らしい可能性のあるものに果敢に挑戦し出会うことができるのだ」と言いたいだけである。

権威とは?

権威とは、特定の個人や組織が持つ、他者に影響を与えたり、従わせたりする力のことだ。権威は、単なる「力」とは異なり、社会的に認められた正当性や信頼に基づいている。つまり、正当性がどこかで保障されていないといけない
(ここの記事限定の用法として、その正当化の方法として、信頼できる人や組織によって保証された信頼性による力のことを権威と呼びたい。すなわち大衆(その分野ですごいと言われていない人たち)による口コミに基づく正当化による信頼は権威と切り離して考えたい。その理由は後述する。)

ここで二つの権威の種類を紹介する。

  1. 賞=様々な流派の信頼できる専門家達が選んだことに基づく正当化

  2. 伝統=同じ流派の信頼できる専門家達が選んだことに基づく正当化、あるいは血統に基づく正当化

※法システムに基づく正当化をはじめとして他にも正当性を保証する方法はあると思うがここではわかりやすくするためチョコレートに関連するものだけに触れる。

○賞による権威:様々な流派の信頼できる専門家達が選んだことに基づく正当化

例えば、専門家でない大衆の私たちは、研究の内容がほとんど理解できなくてもノーベル賞を取った研究者はすごいんだと信じているし、Natureに乗った論文も優れていると信じている。クラシック音楽に詳しくなくても、ショパンコンクールで入賞したらすごいピアニストだと信じられるし、小説を読まなくても芥川賞直木賞を取った小説はいい小説なんだろうなあと思うわけである。賞まで行かなくても、中公新書や岩波新書として出版された新書は基本的には信頼できると思えるし、サロンデュショコラのバイヤーが選んだチョコならまあ結局どれを選んでも全部美味しいだろうと信じられるわけである。

これらは全部、その分野の専門家たちが集まって決めたから信頼できるというシステムになっている。

○伝統による権威:同じ流派の信頼できる専門家達が選んだことに基づく正当化、あるいは血統に基づく正当化

例えば、老舗の寿司屋さんで2万円の寿司を食べるときに食べる前からその寿司に2万円の価値があると期待できるのはなぜかというとそこに優れた寿司職人がいるからである。ではその寿司職人が優れていることを誰が保証したかというとその寿司職人の師匠にあたる優れた寿司職人である。さらに、その師匠が優れていると誰が保証したかというとその師匠の師匠が(以下同文)。伝統工芸品の職人もそうだろうし、大学教授も師弟制度的なものが少しは残っているだろうし、あるいは、フランスのパティシエやショコラティエやブーランジェは世襲性によってその正当性が保証されている傾向が強い。

これらは全部、誰かすごい人が認めたから(の血を引き継いだから)すごい人だといえるという信頼醸造システムになっている。

○大衆人気は民評として権威と区別して考える

大衆(その分野ですごいと言われていない人たち)による口コミに基づく正当化によって信頼が醸造されることもあるかもしれない。しかしここでは、信頼できる人や組織からの口コミに基づく信頼の力のみを「権威」と考えて、大衆(その分野ですごいと言われていない人たち)による口コミによって信頼が醸造されたものは「民評」と呼ぶことにする。

なぜなら権威(信頼できる人や組織からの口コミに基づく信頼)と民評(大衆の人気投票による信頼)とは全く異なる性質を持つからだ。それぞれのメリットとデメリットを考えるとわかりやすい。

権威のメリット:先ほどの説明したように、自分の五感で選ぶものを超えたすごいものに触れられる可能性を秘めている
権威のデメリット:透明性がない。最初のすごいと言われている人がすごくない可能性を排除できずその場合全てが破綻する。また、個人の恣意的な操作で歪んでしまう可能性がある。
民評のメリット:透明性がある。良さがわかりやすい。
民評のデメリット:高等なものを分かる範囲でしか評価できない。(その結果ヒヤッシーなどが持ち上げられたりする。)

実際に、チョコレートはどのように選べばいいのか?

これまでずっとチョコレートという商品はハイブランド性が強い、つまり権威に基づく信頼性によって消費者に商品に買わせることができるという話をしてきた。そのことを意識して、高級チョコレートを選ぶためのファーストステップを提案したい。

○最初の絞り込み方

高級チョコレートは以下の三つの分類ができると考えられる。それぞれ順番に、上の章で説明した、「賞による権威」「伝統による権威」「民評」に対応する。

  1. 【芸術系】:賞による信頼に基づくブランディング
    具体例)フランス人以外

  2. 【職人系】:伝統による信頼に基づくブランディング
    具体例)フランス人

  3. 【マーケティング系】:大衆にも良さがわかりやすいようにブランディング
    具体例)GODIVA、Mary's、(ピエールマルコリーニ)

※もちろんざっくりとした傾向による分け方で必ずしもこの通りというわけではない。世襲でないフランス人ショコラティエもいるし、アートよりも伝統的なスキルを重視する賞もある。

チョコレートを買って食べる喜びは、あなたにとって、

  • 見たことのない新しいものに出会う喜び?→1:賞系

  • 昔から受け継がれる文化を享受する喜び?→2:伝統系

  • 消費する喜び?→3:マーケティング系

自分がどれに当てはまるか考えれば有象無象の高級チョコレートの中からどれを選べばいいのかという最初の絞り込みはできる。(ちなみに私は芸術系を選ぶ。)

○その後は、直感で選ぶしかない

その後は、権威によらない感覚で選べる点(見た目、素材、製法)について直感で選ぶしかない。(ちなみに自分なら見た目はいかにツヤツヤしていてカラフルか、また素材にヘーゼルやゆずやキャラメルやイチゴなどの一般的なものだけではなく個性的な素材を使っているかという基準で選ぶ。)


結論としては当たり前のことを書いてしまったが、最近は権威について一人でぐるぐる考えていて、せっかくちょうどバレンタインの時期なのでチョコレートを題材に権威について思考を整理してみたら面白いかと思って書いてみた。


※この記事で書いていることはあくまでも私の印象をもとにした考え方で、統計的な事実を入念に調べたりはしていないので間違っている部分もあるかもしれません。間違っていたり改善点があったりしたら優しく教えてください。

※アイキャッチ画像は、昔お菓子作りにハマっていたときに自分で作ったキャラメルガナッシュ入りのボンボンショコラ。


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時田桜
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