第1夜―メロスに心底腹が立つが・・・(太宰治「走れメロス」 文鳥文庫全部読む)
文鳥文庫全部読むシリーズ、記念すべき最初の作品は太宰治「走れメロス」です。
あらすじは説明するまでもないでしょう。有名な太宰治作品は数多くあれど、作品を全部読んだ人多さでいえば走れメロスが一番ではないでしょうか。
私は中学二年のとき、国語の授業で走れメロスを勉強した記憶があります。私がメロス役、先生が王様役で朗読を行い、演技力を褒められたことは僕の数少ない自慢話の1つです。
さて、無駄話もこれくらいに走れメロスを読んだのですが・・・。
何だメロス、ろくでもない奴だな・・・。
というわけで今回は「メロスのろくでなしポイント」を紹介していきます。
ろくでなしポイント① 余裕で寝坊する
目が覚めたのは翌る日の薄明の頃である。メロスは跳ね起き、南無三、寝過したか、いや、まだまだ大丈夫、これからすぐに出発すれば、約束の刻限までには十分間に合う。きょうは是非とも、あの王に、人の信実の存するところを見せてやろう。(太宰治,「走れメロス」,文鳥文庫 より引用)
いやいやいやいや。親友死にそうなときに何寝坊してるんですか。
なんか大学生の「やべっ、寝坊した。朝の授業間に合わねえ」みたいなノリが腹に立ちます。
そもそも、「人の信実の存するところを見せてやろう」以前に社会人としてのルールを守るべきです。大切な用事には時間に余裕をもって行動する。大学生でもわかることです。
さらに、「人の信実の存するところ」に関してメロスは自分に事を心配している妹に「なんでもない」と自分が死ぬことを隠します。
なんか正義ぶっていますが、計画性0で王を襲おうとして捕まり、死刑宣告されているのですからメロスにもそこそこの非があります。暴君相手でもテロはテロです。
その上、妹に自分が死ぬという重要事項を隠すのは優しさゆえの行為だとしても信実の存する人の行為とは思えません。
ろくでなしポイント② 言い訳
私は友を欺いた。中途で倒れるのは、はじめから何もしないのと同じ事だ。ああ、もう、どうでもいい。これが、私の定った運命なのかも知れない。セリヌンティウスよ、ゆるしてくれ。君は、いつでも私を信じた。私も君を、欺かなかった。(太宰治,「走れメロス」,文鳥文庫 より引用)
ああ、もう、どうでもいいわけありません。走ってください。
あなたの妹の結婚とは何の関係もない親友が処刑されようとしているのに「ゆるしてくれ」は通らないでしょう。「私も君を、欺かなかった。」に関しては意味が分かりません。
そもそも、このメロスが倒れる場面。灼熱の太陽にめまいがして倒れこんだと書いているのですが、ろくたら準備もせず家を飛び出るのは計画性がないのにもほどがあります。
最低でも飲み水、帽子も用意すべきではないでしょうか。
調べてみたところ、走れメロスの舞台となった古代ギリシャの時代には帽子の原型「ぺタソス」が存在していたそうです。それなのに水も持たずにマラソンを始めたあげく「これが、私の定った運命なのかも知れない」とか言われたら、読んでる方としては「なんだこいつ」と思ってしまいます。
メロスはみんなの心にいるのかもしれない
ここまで散々メロスを罵っていたのですが、ふと考えました。
「僕はメロスなのかもしれない」
いままでディスってきたメロスの行動を僕もしていたかもしれません。
高校生のとき、友人に数学を教えていました。最初は「いつでも教えるよ」なんて景気のいいことを言っていましたが、受験期にさしかかり遠回しに友人のお願いを断るようになりました。別に2,3問教えるくらい大した時間もかからないのに、です。
要するに自分の発言に責任をもてなかったわけです。
それなのに僕は「受験が近いんだ、許せ」なんて思っていました。メロスと同じじゃないですか。
そんなことを考えると太宰治のにやけた顔が浮かんできます。
「おまえが散々ろくでなしだと叩いていたのはお前の過去だ」
中学校では、やたらとメロスと親友セリヌンティウスの友情が授業のテーマになります。ですがその陰には人間の弱さに対する抜群の皮肉が隠されていたのかもしれません。
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