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【ショートショート】なんか良いなの秋の朝
午前八時過ぎ。休日だと言うのにぱちりと目が覚めた。二度寝を試みるが無事失敗。諦めていびきをかいて眠る隣の彼を起こさないように、そっとベッドから抜け出した。
洗面所に向かい顔を洗う。歯磨きで口がさっぱりすると同時に頭も鮮明に覚める。スキンケアまで済ませたらリビングに戻り、ソファーに置きっぱなしのブランケットを肩に羽織ってカーテンを開けた。
そっと開いても、しゃっと音の鳴るカーテンに眉を寄せつつ、窓の外に視線をやる。鳥の鳴き声、青と薄雲の黄金比の空。窓を開ければ網戸から流れ込む風は秋風。
それをふと、なんとなく、「良いな」と思った。
「コーヒー淹れますかぁー」
別に特段理由はない。ベランダに続く窓から見える景色は昨日と同じ。それでもなんとなく、ただただなんとなく、「良いな」と思った。キッチンに向かう足も、お湯を沸かす手も、少し重めのお気に入りのマグカップも、冷凍していた食パンも。どこかほんの少しだけ軽い気がする。
「よいしょっと」
右手にコーヒーの入ったマグカップ、左手にバターたっぷりの食パンが乗った皿。それらを持って窓の側へ。サイドテーブルなんて小洒落た物はない我が家。行儀は悪いが床へと直置きにし、ソファーからクッションを移動させたら朝食の準備は整った。
ブランケットを膝にかけ、ふーっと息を吹きかけてからコーヒーを一口。鼻を抜けていく匂いが秋風と合わさって、朝の匂いを感じさせた。マグカップをことりと床に置き、パンくずを落とさないように皿を持ちながら食パンを齧る。外はさく、中はふわ。パンの甘みと沁み込んだバターの塩味に胃が喜ぶ。
「おいしい~」と感想がぽろっとこぼれた頃、寝室から大きな欠伸をした彼がぽりぽりと頭を掻いて起きてきた。「おはよう」と呟いた眠そうな彼の低い声に挨拶を返しつつ、パンを齧る。程なくしてすっきりと目の覚めた顔をした彼が、マグカップとクッションを持って私の隣に腰を下ろした。
「なんや行儀の悪い朝飯しとんなぁ」
「んー、なんか外の景色がいいなあって思ったから」
「眺めながら食うてんの?」
「眺めながら食べてんの」
「なんやそれ」と笑った彼がコーヒーをごくりと飲む。猫舌な私には真似の出来ない芸当だ。湯気が立っている事が嘘のように、ごくりごくりと飲まれていくコーヒーを横目に、最後の一口のパンを口に放り込む。彼は、「そう言えば」と呟いてマグカップを床に置いた。
「なんかの歌であったな。『世界が綺麗に見える時は自分の心を見てるんや~』みたいなやつ」
「あー、それ聞いた事ある。絶対聞いた事ある。うわー、何だっけそれ」
「なんやっけ。俺も忘れたわ」
「ちょっと朝から、『調べる程じゃないけどなんか気になる疑問』置いていかないでよ」
彼が言った歌詞が何だったのか、思い出せそうで思い出せない感覚をコーヒーと共に流し込む。こう言うのはふとした瞬間に、「あっ」と思い出すものだ、今は諦めよう。
そしてそんな私よりも早くマグカップが空になった彼は、だらりと床に寝転んで笑う。何かを思いついた顔で、子供のように笑った。
「今度の連休、キャンプ行こか」
「悪くない」
窓際で食べたり飲んだりすると、疑似キャンプ気分になれて好き。
煙草もあるとなお良し。
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