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きみとネイル、それから。

きみの爪にネイルを塗る。
きみが塗ってと言った色を。
短く切り揃えられた爪はまるく、小さい。
その手を取ってきみの爪に。
ポリッシュの匂いがツンと鼻を突き刺した。

きみは嬉しそうに笑ってる。
一本一本丁寧に、ゆっくりゆっくり時間をかけて、爪に色を乗せていく。
少しずつ色づく爪。艶々と煌めく爪。塗り終えればそのまま離れてしまう、爪。

私よりも一回り大きなその手を、私よりも骨張ったその手を、私の手で握って支える。おでことおでこがぶつかりそうなくらいの距離で、頭をくっつけて、ふたり。きみの吐息が、私のまつ毛をそっと揺らした。

きみは明日のデートの話を。私は明日のバイトの話を。
きみは相手の好きなところを。私は仕事の嫌いなところを。
笑って照れて顔を赤らめ。私はそれをただ見ている。

あのさ、きみが私のこと好きなのは知ってるよ。
きみも私がきみのこと好きなのは知っている。
でも、きみは私の本当のところは知らないし、私もきみのあんな顔は見たことなくて。

去年のクリスマスにあげたデパコスのリップを、きみはまだ大事そうに使ってる。私はもう使い切ったよ、空になった容器は、まだ捨てられないでいるけれど。今年のクリスマスプレゼントは23日に渡しに行くね。きっときみはまた、使いきれない。

右手の親指から塗り始めたポリッシュネイル、今から塗るのは左手の小指。
少しはみ出してしまおうかな。汚く塗ってきみが明日、彼に振られちゃえばいいのに。なんて、思ってることは絶対に言わない。
呼吸を止めて、手が震えないように。手を握りしめて、指が動かないように。長く伸ばした髪がするり、肩口からこぼれ落ちる。
きみが時々、羨ましそうに私の髪の毛を眺めているのを私は知ってる。きみが伸ばせないと分かっているから、私はずっと伸ばしている。本当はきみより、うんとずっと短く切ってしまいたいけれど、きみのその視線が惜しくって、未練がましく伸ばしてる。
きみが見てるのは私じゃないの、分かってるけど。

分かってるけど、分かっていても。

ほんのり色づく淡いピンクベージュ。
乾くまでの間、たわいもない話をしよう。
あわよくば乾き切る前に塗り直すことがないように。
私がそんな呪いをかけ切る前に。

粉々に砕いて飲み込んだ言葉、捨てられたらよかったな。吐き出せたらよかったのに。

あはは、でも今はさ、そんなこと忘れてさ、来週のカラオケの話でもしようか。

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