【ミステリーレビュー】名探偵の証明 密室館殺人事件/市川哲也(2014)
名探偵の証明 密室館殺人事件/市川哲也
市川哲也による、"名探偵の証明"三部作の第二弾。
あらすじ
日本を代表するミステリ作家・拝島登美恵に、取材だと騙され"密室館"に監禁された日戸。
同じような境遇の男女は、彼を合わせて全8人。
これから拝島が館内で起こすという殺人事件を論理的に解けば、ここから解放されるという、少し特殊なデスゲームが開始される。
概要/感想(ネタバレなし)
事件の解決だけでは良しとせず、名探偵の宿命について切り込むメタ・ミステリーの要素を持った作品。
前作では、かつての名探偵・屋敷啓次郎を主人公に展開していたが、本作は、現在の名探偵・蜜柑花子の宿命が、名探偵を憎む大学生・日戸の視点で描かれていく。
"密室館"というタイトルのとおり、クローズド・サークルものではあるが、ハウダニットに特化するという設定や、ひとりだけ自由に動くことができる拝島の存在により、ゲームとしての事件の解決と、ゲームが行われた根本の解決、両睨みでの思考が必要となってくるのが面白い点と言えるだろう。
名探偵は事件を引き寄せるもの、という概念が作中では前提になっており、その世界観を受け入れられるかどうかで、味わいが変わってくる。
本作単体でも読める作品にはなっているが、前作に触れて慣れておかないと、日戸の蜜柑に対する逆恨みの熾烈さに面食らうのでは。
また、いかにも本格ミステリー!というタイトルに対して、ひとつひとつの殺人事件がやや小粒な印象はあるか。
その意味で、やや癖の強さが前面に出てしまう節はあるものの、裏の裏の裏まである構成に、なんだかんだで読まされてしまう。
前作同様、ラストシーンは好みじゃないところに落ちてしまった感はあるのだが、ここまで来たら完結編も読むしかないな。
総評(ネタバレ注意)
"名探偵を逆恨みする"という概念が存在する世界線、その役割で物語に参加する日戸が視点人物というところで、好き嫌いがはっきりわかれるのかな。
背景は丁寧に書かれてはいるものの、恨みを持つきっかけについては曖昧にしか書かれないし、納得感もあまりない。
そのくせ、準ヒロイン的な存在・恋との仲を深めて熱血漢に目覚めたり、ラストでは改心して助手を申し出るなど、彼の成長記録といった書きぶりが、かえって自己中心的に映ってしまうか節がある。
キャスティングとして彼が必要だったのは、最後まで読めば理解できるとはいえ、もう少し感情移入のしやすさがあれば良かったのだが。
本筋については、デスゲームの形態が真相をカムフラージュしていたという点で膝を打った。
タイトルのせいで大掛かりなトリックを想像してしまうのも、おそらくブラフ。
小説のようなトリックは、現実には起こり得ない、というメタ視点を小説の中に織り込む中での意図的なものであり、実現可能でさえあれば針と糸のトリックでも良かったのだと思われる。
ミステリーの大家、拝島にこれをやらせるというのが、設定としてとても効いていたな、と。
一方で、現実と小説の違いを説いたあとで、裏で暗躍していた事実上の黒幕の存在を暴く、という流れは、この作中における<現実>の線引きを曖昧にしている気もする。
そもそもフィクション的な設定でありながら、小説の中のトリックや心理誘導は現実的には起こり得ない、というメタ視点を持ち合わせ、そのうえで自由自在に事件が転がるように誘導するジョーカー役が存在しているという、複雑な世界線。
この黒幕に与えられる資質も"名探偵"というのが象徴するように、この作品において、名探偵とは現実を超越する存在なのかもしれないな。