【ミステリーレビュー】准教授・高槻彰良の推察5 生者は語り死者は踊る/澤村御影(2020)
准教授・高槻彰良の推察5 生者は語り死者は踊る/澤村御影
高槻彰良と深町尚哉のコンビで展開される民俗学ミステリーシリーズ第五弾。
あらすじ
遂に、"嘘が歪んで聞こえる"原因となった死者の祭を探る"旅行"の日が近づいてきた。
そんなある日、怪談イベントにて謎の声が聞こえる怪現象が発生。
それは、とある生徒の死んだ妹だったのか。
夏を印象づけるように開催された百物語にまつわるエピソードを描いた「百物語の夜」。
亡き祖母が住んでいた旧小山に向かう尚哉と高槻。
地元で情報収集しながら、真相を探る一行であったが、尚哉は再び死者の祭へ招かれてしまう。
尚哉が過去と向き合う「死者の祭」に、瑠衣子を視点にエッセイ風にまとめた「【extra】マシュマロココアの王子様」を加えた、全3編を収録。
概要/感想(ネタバレなし)
正直なところ、前作は消化不良気味だった。
個性的なキャラクターを出してお茶を濁しつつ、ストーリーは停滞。
そんな風にも思っていたのだが、もやもやの原因でもあった沙絵が再登場。
きちんと消化しなかったのは、その後の構成上、意味を持つからだったのか、と一応の納得感を与えてくれた。
本作においては、兎にも角にも「死者の祭」。
ずっと引っ張ってきた尚哉の異能の原因に対して、直接調査に乗り出すことになる。
物語の中で1年強かけてようやくといったところだが、シリーズものとしては、長すぎず、短すぎずの絶妙なタイミングだったのでは。
この章については、怪異の存在が前提になっていて、ミステリーというよりもホラー要素が強い。
ただし、単純に怖がらせれば良い、ということではなく、きちんと民俗学的見地に基づいてプロットが構成されているので、ファンタジーだからといって何でもアリにはなっていないのが、このシリーズのポイントだろう。
また、どうしても地味な立ち位置になってしまう「百物語の夜」だが、シリーズの王道路線で侮れない。
オチにもうひとつどんでん返しがあれば、という側面はあるものの、エピソードとしてのクオリティは相応に高く、怪異と人間との関係性を現代版にアップデートしたものと考えると、なかなか興味深い。
ちなみに、ここで出た"嘘ではなかった怪談"は、宙ぶらりんになったまま。
今後の話で回収されると面白いのだが。
総評(ネタバレ注意)
ミステリーとして切り取るには難しい巻ではあるが、伏線に沿って出来事が起こり、どんでん返し的な結末も待っている、という展開は、ミステリー読みにも納得できる構成であろう。
怪異がある、という特殊設定さえ受け入れてしまえば、律儀にルールを守ってくれる怪異たちは、非常に優等生的だ。
もっとも、だからといって怖さが薄れているわけでもなく、ハラハラさせられるホラー要素は、ここまでの展開の中では随一。
衝撃は大きかった。
ただし、高槻の中でこの経験がゼロクリアになってしまうラストについては、ここまで来て、テンポを上げていかないのか、と少しがっかり。
キャラクター小説の側面もあるので、引き伸ばしはやむを得ないのかもしれないが、ちょうど良い着地を目指してほしいところだ。
もっとも、のらりくらりと躱していた沙絵をあそこで使ってくるなど、微妙だと思っていたところが伏線だったという事象を見せつけられたばかりでもあるので、先を見据えた采配になっていると信じておこう。
なお、おまけの短編には、ミステリー要素はなし。
読者に考える余地があるのが「百物語の夜」だけとなるのだが、前作ほどの肩透かしは感じず、寧ろ真相に近付くのでは、というワクワク感が作品を引っ張っている。
次はなんとなく日常会に戻るパターンかな、と推察してしまうが、さてどうなるか。
民俗学という軸さえブレなければ、ミステリーでもホラーでもドンと来い、という心境だ。
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