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【ミステリーレビュー】風ヶ丘五十円玉祭りの謎/青崎有吾(2014)
風ヶ丘五十円玉祭りの謎/青崎有吾
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"裏染天馬"シリーズの第三弾にして、初となる短編集。
あらすじ
天才的な頭脳を持ちながら、相変わらず学校内に住んでいる駄目人間・裏染天馬のもとに持ち込まれる謎は、殺人事件だけに限らない。
裏染と柚乃に加え、従来の作品では脇を固める位置づけで登場した針宮、早苗、鏡華といった面々もスピンオフ的に活躍の場を増やして送る、青春の1ページを色濃く押し出した全5編+おまけを収録。
概要/感想(ネタバレなし)
「体育館の殺人」、「水族館の殺人」と、"館モノ"を踏襲してきたシリーズだが、ここにきて、"日常の謎"をテーマに路線変更。
確かに、高校生を主人公に据えている手前、殺人事件ばかりが身近に起きるというのも、不自然な話。
不可思議な謎に対して、ロジックを積み上げて真相へ導くという基本線は変えずに、キャラクターを深掘りしていくスタンスであろう。
もっとも、2016年に発表されたシリーズ第4弾「図書館の殺人」にて、長編においては殺人事件+"館モノ"というお約束が継続されたため、長編と短編では切り口を変えて、というのは、当初から想定されていたのかもしれないのだが。
学食において、食器を返却せずに放置した犯人と、その意外な動機を探る「もう一色選べる丼」は、「体育館の殺人」と「水族館の殺人」の間にあたる時系列。
「競作 五十円玉二十枚の謎」を元ネタに、お祭りの屋台で出されるおつりが、何故かすべて50円玉であることの理由を調査する「風ヶ丘五十円玉祭りの謎」と、「体育館の殺人」に登場した針宮を視点人物として、派手な見た目とは裏腹、彼女のナイーヴな一面にスポットを当てた「針宮理恵子のサードインパクト」は、「水族館の殺人」のあと、夏休み中の出来事。
そして、夏休み明け直後のエピソードとして、演劇部OBが残した手記をもとに、2人の少女が密室から消失した事件の真偽を検証する「天使たちの残暑見舞い」が展開される。
最後の「その花瓶にご注意を」は、風ヶ丘高校ではなく、緋天学園中等部が舞台。
天馬の妹、鏡華が探偵役となり、作風の違いが、両校の雰囲気の違いとして表現されているのが興味深い。
多少の時期の違いはあれど、全体的に夏の気配が漂っており、本格ミステリーの形はとっているものの、10代の少年少女の瑞々しさが描かれていた。
毒々しさが薄く、爽やかな読後感は、この短編集特有のものであると言えよう。
総評(ネタバレ注意)
「読者への挑戦」こそないものの、示されたヒントに対して、丁寧にロジックを紡いでいるのが、いかにも"裏染天馬"シリーズらしい。
日常描写のための一節だと思っていたら、それもヒントだったのか、という伏線がいくつも張られていた。
アプローチ方法も様々で、単に主人公が入れ替わるだけが面白味ではないのも、好感が持てる。
意外にも本作では裏染の自宅(高校の部室)が登場しないので、彼の境遇のくだりに説明不足はあるかもしれないのだが、基本的には過去二作品を読んでいなくても、ネタバレを踏んだり、謎の根幹に影響を与える部分はないかと。
強いて言うなら、天馬が針宮に渡した水族館のチケットに、ニヤリと出来るかどうかだろう。
一方で、本作を読んだことで大きく発展した部分もないのかな、という点では、どうしても薄味に感じてしまうか。
鏡華の周辺を掘り下げたことや、おまけエピソードを踏まえると、今後、裏染家の事情に触れられていくことになると思われるが、どうせだったら、この段階でもう1歩踏み込んで欲しかったかな。
姫毬が黒幕、なんて結末があれば、一気に手のひら返しに傾くところではあるけれど。
家族に警察関係者がいる視点人物と、癖のある探偵役。
柚乃&天馬に似た構図をあえて持って来た鏡華たちのスピンオフ作品にも期待がかかるところだが、今の時点では、人気コミックのノベライズ作品といった趣で、シリーズものの魅力にキャラクター性を重視する読者向け。
早く、「図書館の殺人」を読まなくては。