【ミステリーレビュー】模倣の殺意/中町信(2004)
模倣の殺意/中町信
「新人賞殺人事件」として1973年に発表された中町信のデビュー作。
あらすじ
7月7日午後7時、服毒死を遂げた推理作家の坂井正夫。
デビュー以降、燻り続けていた背景や、青酸カリを飲んだのが内側から鍵のかかった密室だったことを踏まえて、警察は自殺と断定した。
正夫の死に疑念を抱いた中田秋子は、独自に調査を開始。
一方、ルポライターの津久見伸助も、同人誌仲間だった坂井の死を記事にするため調べを進めるが、彼の書いた小説が盗作であるという疑惑が持ち上がる。
概要/感想(ネタバレなし)
2度目の文庫化として、2004年に創元推理文庫から出版されるにあたり、「模倣の殺意」と改題。
以降、創元推理文庫から出版される中町作品は、「~の殺意」で統一されている。
物語は、正夫と交際していた編集者の中田秋子と、事件を追うルポライターの津久見伸助の目線で、それぞれが真相に迫るべく独自に調査を進めていく過程が描かれていく。
秋子は、正夫と接点があった謎の女性・律子を、津久見は、妹が正夫に振られたことをきっかけに自殺したとされる編集者・柳沢を、それぞれ真犯人だと推理。
最後まで全体像が絞られないだけに、最終章で明かされる真相の衝撃が大きくなるという寸法だ。
発表されて、もうすぐ半世紀。
その後、類似のトリックを流用したミステリーがいくつも登場しているだけに、当時に比べれば衝撃度は抑えられてしまう部分はあるのかもしれないが、さすが、礎を作っただけある筆運びだ。
文庫化の際に改稿され、ネタバレポイントは極力わかりにくくする等の配慮を施した決定版に。
普遍的で癖のない書きぶりは、古典特有の読みにくさはあまり感じさせず、一気読みできるテンポの良さも魅力であろう。
総評(ネタバレ注意)
ふたりの主人公が、それぞれの視点で事件を調査する。
中町信が、叙述トリックのパイオニア的な存在であると認識していれば、そこに何か仕掛けられていると判断するのは難しくない。
ネタバレに配慮した煽りも、裏を返せば叙述トリックが使われているということ。
無粋な読み方だとはわかっていても、メタ視点は捨てきれないものである。
とはいえ、それは評価が固まった後だからこそ可能となる思考。
「模倣の殺意」と改題されたことで、正夫が盗作をした意図が重要だ、というメッセージ性が増したこともあり、その先にまで推察を巡らすのは、予備知識がなければ難しいのかもしれない。
ある種、タイトルの重要性を再実感することになった1冊である。
フィルム写真を使ってのアリバイトリックは、さすがに時代性を感じずにはいられないが、それはあくまで小ネタの位置づけ。
メインのトリックの衝撃を高めるために、あえて暴かれやすいトリックを散りばめておいたと言えるだろう。
密室の謎について、さらっと流されてしまうのだけが惜しいところか。
構成上、探偵役vs真犯人の対峙がないだけに、物語上は重要視されていないが、そもそも自殺と断定された直接的な要因。
"どうにかして殺した"というふわっとした状態のまま両名の推理が進んでいくのは、どうにも落ち着かない気持ちになるのは僕だけか。
もっとも、だからこそ、真犯人に気付いた津久見がどう動くのか、想像する余地が生まれて面白いという見方も出来るのだが。