【ミステリーレビュー】准教授・高槻彰良の推察2 怪異は狭間に宿る/澤村御影(2019)
准教授・高槻彰良の推察2 怪異は狭間に宿る/澤村御影
澤村御影による民俗学ミステリー第二弾。
あらすじ
フィールドワークとして怪異の情報を集める准教授・高槻彰良と、バイトとして助手を務める大学生・深町尚哉コンビで展開されるミステリーシリーズ。
連作短編の形式をとっており、本作には、コックリさんが住み着いたロッカー、撮影スタジオに現れる幽霊、大事故を無傷で生き残った奇跡の少女にまつわる話が収録されている。
概要/感想(ネタバレなし)
異世界の食べ物を口にしたことで嘘を聞き分ける能力を持つことになった尚哉と、同じく不可思議な事件に巻き込まれた結果、絶対記憶能力を得た高槻。
ミステリーとしては特殊な設定を持ち込んでおり、言ってしまえば、この第二弾も、その設定で物語を展開するうえで必要な前提事項を潰し込んでいる印象。
シリーズ全体に横たわる大謎、ふたりの異能の解釈についてはまだ雲を掴むような状態であり、面白くなっていくとしたら、まだまだこれからだろうな。
もっとも、キャラクターで引っ張るタイプの小説としての期待度は、着実に積み上がっているのかと。
視点人物である深町サイドだけでなく、高槻の過去についても語られ出し、発射台から飛び立つための助走は十分といったところ。
ここから、高槻の幼馴染の強面刑事・佐々倉をはじめ、その他のキャラクターの深掘りに進んでいきそうな感もあるが、民俗学的なアプローチで怪異の正体を暴いていく蘊蓄込みのスタイルが崩れなければ、安定感を持って読んでいけそうだ。
総評(ネタバレ注意)
ミステリーとしてのタネは簡単でも、それをどう解決するかに重きを置いた「学校には何かがいる」は、シリーズにおけるベースを固める位置づけ。
高槻の探偵役としてのスタンスを明確にしており、最後に怪異の存在を示唆するようなポイントを残すのも上手い。
民俗学的に、なぜ学校には怪談が生まれやすいのかを解説してくれるのも、知識欲を純粋に刺激してくれる。
「スタジオの幽霊」では、中耳炎の治療のために鼓膜を切開した尚哉が、嘘を見破れなくなる。
彼の異能は、"耳"の影響なのか、というところを掘り下げるエピソードだが、異能を取り除いても元の生活には戻れない、という解釈を強めることとなった。
嘘が見抜けなくなることがある、という設定を設けたことで、今後も、通常のミステリーのように"誰かが嘘つき"という設定が出てくる伏線になるのかもしれない。
そして、「奇跡の少女」は、怪異という枠を飛び越えて、超能力やご利益といったところにも踏み込んでいく。
この手のストーリーもベタ中のベタではあるが、流行神の成り立ちを絡めることで民俗学のフィールドに落とし込んでいるのが、この作品らしい。
結果として、高槻の過去が語られるエピソードにもなっていて、邪道を差し込んだ理由にも納得である。
ミステリーとしては平凡でも、続きを読んでみたいと思わせる絶妙な設定とキャラクター。
このペースでのらりくらりと続いてしまうのであればマンネリ感が出てきそうなので、そろそろアクロバット的な驚きも欲しいところだが、なんとなく、4冊目ぐらいまではベース固めが続いても受け入れよう、とも思ってしまうのである。