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【ミステリーレビュー】赤緑黒白/森博嗣(2002)

赤緑黒白/森博嗣

Vシリーズの完結編となる森博嗣の長編ミステリィ。



内容紹介


色鮮やかな塗装死体
美しく悽愴な連続殺人

鮮やかな赤に塗装された死体が、深夜マンションの駐車場で発見された。
死んでいた男は、赤井。
彼の恋人だったという女性が「犯人が誰かは、わかっている。それを証明して欲しい」と保呂草に依頼する。
そして発生した第2の事件では、死者は緑色に塗られていた。
シリーズ完結編にして、新たなる始動を告げる傑作。

講談社



解説/感想(ネタバレなし)


遂に、Vシリーズが完結。
読み始めたときは、S&Mシリーズとはまったく経路の異なる群像劇風の構成だったこともあり、天才の資質を持っている紅子だけが森ミステリィを繋いでいると思っていたのだが、裏主人公として暗躍する保呂草のダークヒーローっぷりや、練無と紫子の凸凹コンビが活躍することでの視点切り替えなど、このスタイルだからこその魅力に触れていくうちに、名残惜しさが沸き上がってきた。

とはいえ、間をあけると読むのを躊躇いそうだったので、「捩れ屋敷の利鈍」以降はテンションが上がって一気読み。
結果、重要なネタバレを踏むことなく、最後まで堪能できた。
これを読んでいる時点でもう手遅れなのだろうが、「捩れ屋敷の利鈍」から先は、インターネットで読者レビューを漁る前に最後まで一気読みしてしまうことを推奨する。

そんなわけで、ラスト3冊は情報を遮断して読んだのだが、7冊目までのキャラクター小説としての再構築と、8冊目以降の理系ミステリィへの回帰のバランスが絶妙。
本作「赤緑黒白」については、理系というよりも哲学、あるいは宗教の領域にまで達している印象ではあるが、本来相反する要素である科学と宗教が隣り合わせに描かれているのも面白いのでは。
なぜ被害者が持つ名前に従って、死体が着色されていくのか。
トリックに繋がるのか、儀式的な意味合いなのかさえ掴めない連続殺人に、何やら各務も動いていて、第一弾の犯人・秋野まで絡んできた。
最終巻らしいオールスターっぷりで、それならこの分厚さも許容せざるをえまい。



総評(ネタバレ注意)


さて、どこから書こうか。
終わってしまうと、あんなに魅力的だった事件の印象が薄いから不思議なもので。
秋野の介入があったことでフーダニットの考察が終わってしまい、だからこそ、最後のどんでん返しに引っかかるという構図なのだけれど、最終バトルは銃撃戦。
遠隔殺人のトリックが、なんだかふわっとしていて不完全燃焼感があったのも手伝って、バタバタと畳まれてしまった感じ。

ただし、犯人が残した「赤緑黒白」の色の理由については、ドキっとさせられる。
それぞれの色が春夏秋冬を差しているとのことで、要するに、四季。
彼女が黒幕であることが暗示されていて、ラストシーンでは紅子とも対峙。
ここで、四季シリーズに繋がっていくのか、と。
脇道に逸れるが、彼女はまだ子供として登場するので、やはり「捩れ屋敷の利鈍」は時系列としては未来の話。
20年~25年後の話として描かれていたということだろう。
保呂草は、作中ではじめて本業に失敗。
紅子に見抜かれ、阿漕層を出る決心をするのだが、未来の話でも相変わらずエンジェル・マヌーヴァを狙っていたので、泥棒家業は辞めてはいないらしい。

明示はされぬも、へっ君問題もおそらく解決。
林の名字が、〇川であると明かされたことで、「朽ちる散る落ちる」で開示されたイニシャルS.Sと結び付ければ、犀川創平であると推察ができる。
へっ君=犀川は、事前に推測できていたので驚きはしなかったのだが、"林"がまさかのファーストネームだったことに驚かない読者はいなかったのでは。
見るからに複雑な家庭だし、名字が違うことについては特に関心を示していなかったのだが、瀬在丸紅子のイニシャルはV.Cを自称していることを踏まえると、S.Sは瀬在丸創平ではなく、当然林創平でもなく、既に犀川創平なのであった。
へっ君同様に、彼のフルネームが出てこなかったことにそんな仕掛けが仕込まれていたなんて。
10冊(前シリーズから含めると20冊)で最大のインパクトが、「林警部が珍名だった」になろうとは、どんな聡明な読者でも予想できなかったはずだ。

どうしても、Vシリーズの舞台設定の衝撃に印象が集中しがちで、本冊単体でのミステリィ評が難しい作品。
記憶が色褪せないうちに「四季」シリーズに臨みたいところだが、短編を読み残しているので、まずは短編集を漁っていきたい。

#読書感想文







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