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【ミステリーレビュー】ロシア紅茶の謎/有栖川有栖(1994)

ロシア紅茶の謎/有栖川有栖

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有栖川有栖版・国名シリーズのスタートとなる短編集。


あらすじ


パーティーの最中、作詞家が毒物を飲んで中毒死。
彼の紅茶からは青酸カリが検出されたが、どうやって毒物を混入させたのかはまったくの不明。
犯罪臨床学者・火村英生と推理作家・有栖川有栖のコンビが不可解な状況を解きほぐす表題作「ロシア紅茶の謎」を含む、エラリー・クイーンのひそみに倣った"国名シリーズ"第1作品集。



概要/感想(ネタバレなし)


エラリー・クイーンにならって、デビュー時から"読者への挑戦"を用いるフェアな本格ミステリーを展開してきた有栖川有栖。
火村英生の方向性が定まったところで繰り出したのは、クイーンへの意識をさらに強める"国名シリーズ"の踏襲であった。
なお、"作家有栖"シリーズとしては3作目。
シリーズの最初から読んで雰囲気を知ろう、と考えている読者は、国名シリーズの1冊目であることをもって誤解しないよう留意が必要である。

表題を含めて、全6編を収録。
夜の動物園で起きた殺人事件。被害者が握っていた紙には、犯人を示すと思われる暗号が書かれていた。意外な解法と、それにより導き出される犯人に驚かされる「動物園の暗号」。
江戸川乱歩にならって、屋根裏から住人の生活を覗き見していたアパートの管理人が殺された。日記に記された犯人と思われる人物を特定する「屋根裏の散歩者」。
ほぼ同時に訪れたふたりの女性の死。目撃者の証言と事件現場の状況の食い違いから真相を推理していく「赤い稲妻」。
全員が異なる国籍というアカデミックな会合で、中国系アメリカ人が死体で発見される。ダイイングメッセージとして残された古代文字の意味を探る「ルーンの導き」。
ロシア紅茶に混入された毒を飲み死亡した被害者。しかし、他のカップや食器からは毒物は検出できず。誰が、どうやって被害者にだけ毒を飲ませたのか、という古典的なアプローチにあえて挑む「ロシア紅茶の謎」。
そして、"読者への挑戦"が登場するのは、誰も外に出ていないのに現場から凶器が消失する不可解な状況の謎に挑む参加型ミステリー「八角形の罠」。
いずれもテーマはシンプルで、癖のない文体で綴られる正統派のミステリーに仕上がっている。

著者初の短編集ということになるが、さすがに読みやすい。
舞台設定の作り方や、切り口を変えて飽きさせない工夫、トリックの納得感など、総合的に見て外さない短編集となるだろう。
構成面については、前半に暗号モノが偏ってしまった感があり、このシリーズに求めているゾクゾク感が出てくるのは、終盤の「ロシア紅茶の謎」、「八角形の罠」になってからようやくといったところ。
スロースターター気味であるので、最初の数編で合う、合わないを判断するのはもったいないかと。



総評(ネタバレ強め)


暗号モノについては、ちょっとノーチャンスすぎたな。
「動物園の暗号」は、二重、三重と解法が展開されるナゾトキ的な面白さがあって楽しめたのだが、ひらめきでどうにかなるような問題ではなかった。
更には、それを越えて問題児となった「屋根裏の散歩者」。
珍しく"フェアじゃない"作風であり、日記に記されたコードネームがそれぞれ誰を示すか、火村の口から語られる真相のバカバカしさを楽しむ風情である。
こういうのも、短編集だからこそ登場してくる構成だろう。

やはり、「ロシア紅茶の謎」がもっとも彼らに似合う事件な気がする。
短編として仕上げているため、動機の掘り下げや結論に至る過程がすっ飛ばされている感はあるものの、この胆力を要するトリックには、相当強い覚悟があったに違いない。
シンプル イズ ベストを地で行く作品で、長編に組み込んでも、魅力的な謎になったのではなかろうか。

パーティー時の会話を覚えていたり、砂糖をわざとこぼしたり。
当時の状況を再現するとはいえ、妙に細かいところまで演じてくれる関係者一同は、冷静に考えると面白いのだが。


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