昭和の文学青年。南信州に生きて仏文学を愛した亡き父が、麻痺の残る手で編んだ最後の詩群を読んで欲しい!
七〇歳で亡くなった父は晩年、脳梗塞から認識障害を患い、一時は娘の私の顔も分からないほどでした。目の前の物体が何かは分かっても、言葉が上手く出てこない、左手の麻痺が残る。そんな中で自分の最後の詩集を編もうと、それまでの作品や手紙、資料を拾い集め、切り貼りして本当に手作りの詩集を作りました。
父は高校を卒業後、仏文学を学びたいと大学進学を希望したものの、長男の責務から東京への進学を断念。地元の印刷屋で働いたのち、自分で小さな印刷屋を始めました。
私が学校から帰ると、印刷工場でもあったわが家は、いつも輪転機の音がしていました。夜中まで写植機が光り、現像液の匂いがしていました。体躯は大きいくせに、父は身体の弱い人でした。入退院を繰り返す父を支えながら、母は五人の子供を育てました。生活がままならない中でも、文学青年だった父は詩を書き続け、松本での同人誌の集まりに行ったり、大学の教授や地元の写真家らが家を訪ねて来たりする家でした。献身的に尽くしていた母でしたが、父が留守のある日、母が泣きながら原稿用紙のようなものを燃やしていたこともありました。
脳梗塞で倒れてから印刷屋は廃業。細い記憶の光を頼りに、父は手探りで慣れ親しんだ道具を使い、使えなければ動かない手でハサミや筆やコピー機を駆使して、30冊ほどの「神に捧げる詩集」を作りました。最後の詩集です。
父の作品は南信州の山深い自然にインスパイアされたものです。星が瞬き、煌々と月が川面を照らす夜の、ひんやりとした風が通り過ぎたようで、人間の弱さを掴まれているような詩群。ぜひ、多くの人に読んで欲しいと思い、改めて出版に漕ぎつけようと、試行錯誤しながら活動しております。
父の詩「神へ捧げるソネット」は、noteでの発表から1年を経過し、有料とさせていただいております。ご購入いただいた売り上げは、全て父の詩集出版費用に充てさせていただきます。ご協力いただければ幸いです。
https://note.com/saimi_m/n/n5fb90ff99b91
父 佐佐木政治
娘 彩美