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神へ捧げるソネット

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仏文学に憧れた昭和の文学青年の詩です。 詩を書くこととは宇宙との対峙であること。 直向きに言葉を紡いだ渾身の詩群です。
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#父と娘

神へ捧げるソネット 抄 #13

神へ捧げるソネット 抄 #13

佐佐木 政治       1989年9月 かおす 63 より

究極の過去で 一冊となる書物は すでに永遠の未来の舌のさきを染めている
まず言語の林の奥から ぼくらはほとんど手ぶらで抜け出てきた
文法はおそらくもっとも 繁茂した森であったろう 蒼穹の炎のように
むしろ虚無の芝生であったろう すがすがしさでいっぱいの

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神へ捧げるソネット  #63

神へ捧げるソネット  #63

佐佐木 政治

思考にくれなずむときは庭の樹木に触れてみることだ
さし交わすあの複雑きわまりない枝枝から差引いたとんでもないものを見せてくれる
つまらぬものよと思わせて とんでもない! とただちにひるがえさせる何かを
静寂そのものが身ぶるうこの世の極地へつながる何かを

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神へ捧げるソネット  #65

神へ捧げるソネット  #65

佐佐木 政治

満天の星空では神よ 太古からずっと既に常にあなたのシンタックスが成就している
そこはまさにこの世との隔壁の割れ目からのぞきみる 手つかずの庭だ
縦糸と横糸で織りなす漆黒の辻々には あなたの言葉が万遍なく掬いとられ
燎原にひろがる燠となって 神話の海を渡るのだ

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神へ捧げるソネット  #69

神へ捧げるソネット  #69

佐佐木 政治

あの丘の柵に不気味なほどやさしい顔をもたせかけて こちらを見ているクローンの羊よ
まだ朝焼けのほんの一瞬の間の彩にも充たない 人類の文明の狭間では 
すでにこよない憂愁の徴候がはじまっている
神よ その昔幾山河を越え去り来たったあなたの奥深い或る時代の荒野には
群れ集う同類がいたであろう事実は想像に難くないのだが

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