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彩美 saimi
2020年10月8日 20:19
佐佐木 政治詩は単に 言葉の組合せであるというよりもより断絶の空間に 身を焼きつくす炎であった詩はひとを 希望に誘うというよりもより孤独をかけのぼる 破滅の深渕であった
2020年10月9日 22:52
佐佐木 政治 1989年9月 かおす 63 より究極の過去で 一冊となる書物は すでに永遠の未来の舌のさきを染めているまず言語の林の奥から ぼくらはほとんど手ぶらで抜け出てきた文法はおそらくもっとも 繁茂した森であったろう 蒼穹の炎のようにむしろ虚無の芝生であったろう すがすがしさでいっぱいの
2020年10月10日 23:06
佐佐木政治朝霧の荒野でびしょ濡れになっている 一輪の白百合そのたおやかな 一本の塔を生むためにあなたの掌は 岩のようにざらざらしている臨界角をついばむ塔は やがて時間のフィルムの中に朽ちてゆく
2020年10月11日 22:23
佐佐木 政治 1989年9月 かおす 63 より 神よ あなたの高みだけが紫に暮れなずむ眩暉となる吊るされるものとしての あの荒蓼たる羽ばたきあなたの高みからだけくる ひかりのシャワーあなたの高みの中でだけ 燃えている孤独の血の河
2020年10月11日 22:44
佐佐木 政治 1989年9月 かおす 63 よりあなたが決してあの高みにだけいるとは限らないひょっとして今宵ぼくの掌の上にあるこのオレンジの栄光かもしれない
2020年10月12日 20:56
佐佐木 政治 1990年3月 かおす64 より神よ あなたの言葉が いたるところで国境を浮かべるかけひきでゆれ動く あの小さな渦しかも哀しみさえにじませながらそれは S字形にたわむそこではたえずなぎさが用意され 実存がしぶきとなって舞いあがる
2020年10月15日 21:23
佐佐木 政治 1990年3月 かおす 64より詩集が ぼろぼろになったふやけて 量が倍になったはては外壁がはずされ 扉も けし飛んだなかの星たちが 流れ出した
2020年10月16日 21:00
佐佐木 政治 1990年3月 かおす64 より神よ あなたの掌の上で リスはついぞ怪我をしないあのふくざつな時間の小枝にそって わき目もふらない日だまりのなかでは 果実を手にしたリスの 全時間が燃えるリスは幸福に疎外された 過去も未来ももたない
2020年10月16日 21:40
佐佐木 政治 1990年3月 かおす 64 より夜明けの天がいもそこそこ 貧しいわが家にやってきた小娘 セットランド種のナーナよそのふさふさした毛なみと共に 犬という名のしきたりを背負ってはいるがおまえはいづれ名のあるものの 化身であるらしい初対面の向こうに置いてきた出生の秘密だけが 一片の血統書以上の価値をもつ
2020年10月17日 21:32
佐佐木 政治 1990年3月 かおす 64よりこの永遠の庭内でも あなたの全イメージが一本の樹に かけ昇ることはないだろうひとつであれと願われながら 無限の数で割られているあなたはむりやり辺境の森の くちかけた小さな祠に垂迹するばかりだ
2020年10月17日 22:14
佐佐木 政治 1990年12月 かおす 65より神よ あなたはぼくらの 誰にも話しかけたりはしない誰もが 夙に あなたを識っている というのにあなたは 誰の頭上にも 無差別な 乾いた時間の雨を降らせる誰の手や脚もが 誰とも語らない あなたの時間の雨で濡れそぼつ
2020年10月19日 20:47
佐佐木 政治 1990年12月 かおす 65よりあなたが繁茂させる 言葉の叢林よ線と色彩 そして匂いから立ち昇る言葉の音楽よ枝と枝のからみ合い 葉と葉がすべての世界を 埋めているしかもあなたは 煙る総体の中で みごとに個を 描き切ってもいるのだ
2020年10月19日 22:09
佐佐木 政治 1990年12月 かおす 65よりあなたの掌がふれるところで 日常性の繭は砕かれてしまうあなたの領土のふちがふれるところで ぼくらの言葉がふっ騰するあなたの湾が そのまま ぼくらの岬を突出させあなたとの国境がそのまま 忘れかけていたぼくらの主題に火をかける
2020年10月21日 23:08
佐佐木 政治 1990年12月 かおす65 より女郎花という花を あなたは秋の図柄として着るとりわけ華美な花ではないが 季節の終章を飾るにはふさわしいのだヒスイ深まる空に 幾筋かの小柄に支えられてあの黄いろいつぶつぶの小棚がひたる 秋の荒野よ