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サイコロ塾レッスンレポート:宝石の煌き編

こんにちは。6月のサイコロ塾では、「計画を立てること」をテーマに「宝石の煌き」を取り扱ったレッスンを行いました。宝石の煌き自体は、このnoteでもすでに登場していますが、今回は(から)子どもたちに「自分たちでルールを読んで、プレイをしてもらう」という活動にも取り組みましたので、その様子も合わせてレポートできればと思います。

今回は2回にわたって「宝石の煌き」のレッスンをすることになりましたので、その2回分を合わせて報告します。

それでは、レポートスタートです!


1、ルールを読んでプレイしよう!

サイコロ塾のnoteの中でこれまで言ってきたことですが、レッスンの目標の1つとして、「自分たちでルールを読んでプレイする」ということを掲げています。

これまでその前段階として、「ルールを読んでもらう→講師が再度ルール説明を行う→プレイ」というやり方や、「ルールを読んでもらう→「準備」の部分を子どもたちだけでやってもらう→講師がルール説明→プレイ」というやり方でステップを踏んできました。

いよいよ今回から、最初から最後まで子どもたち自身の手で「ボードゲームをプレイする」ということをやってもらいました。ルール読み込みの時間として5分間を設定し、その間しっかりルールを読み込んでもらい、その後に設定した質問タイムで講師に対してわからないところを尋ねてもらう、という形を取りました。前回のレッスンから、この進め方については予告はしていたものの、子どもたちの反応はさまざまでした。

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子どもたちの反応は大別すると次のような2つでした。

1つ目のグループは、真剣にルールを読み込む子どもたちです。これまでも、ルールを読み込む時間は設定していましたが、結局のところゲームを成り立たせるための手助けの多くを講師がしていたため、「読み込んでしっかり理解しよう」「読んでわからないところを探そう!」という意識ではあまりなかったのかなと思います。しかし、今回は鉛筆を片手に自分なりに解釈をして疑問点を見つけ、5分の読み込みの時間の後には質問をして解消するということができていました。概ね、このように主体的に読み込みの時間に取り組んだ子どもたちはこの後のプレイで多少のつまずきはあったものの、試行錯誤でなんとか進められていたように思います。

宝石の煌きnote用1

さて、もう1つのグループはというと、「ルールを読む」ことを諦めてしまっている子どもたちです。自分も小学生の頃そうだったのですが、たくさんの文字列を見ると、一気に「読む」ということに対して億劫になってしまい、読むこと自体を諦めてしまっていました。「どうせ講師が(ルール説明を)やってくれるだろう」「他の子どもがなんとかしてくれるだろう」という甘えがあるので、鼻から自分たちが苦手意識を持っている読むことを拒否してしまいました。

ちょっと横道にそれます。僕は子どもたちそれぞれに、それぞれが得意とする理解の方法があることを理解しています。映像を目で見て理解することが得意な子どももいれば、耳で聞くことで理解できる子ども、やってみて初めて理解できる子ども、そのような個人差があることは承知しています。そのため、先のグループの様子の差はそういった認知スタイルの差から現れているという理由も大いに考えられます。そういう前提を考えた上で、なお僕自身は先のグループの子どもたちには、そもそもの「主体性」(自分ごととして取り組む)が足りないように感じました。

「教えられる」ことが当たり前になりすぎているのかもしれません。学校では確かに「教えられる」ことが多いですし、そういうやり方の良さもあります。ですが、サイコロ塾では子どもたちが自ら「学びを取りに行く」という姿勢を身につけていって欲しいなと思っています。そのための、「自分たちでルールを読んでプレイする」という活動です。据え膳がそこにあるのではなくて、自分たちが必要とするものは自分たちで接近して取りに行く、必要があれば周りの資源を利用する、ことを身につけて欲しいと思っています。

実際、読むことを諦めてしまったグループの子どもは、隣でルールの読み込みをしっかり行ったグループがゲームを準備し、プレイし始めると、「俺も遊びたい!」という言葉を発しました。「ゲームをプレイする」という欲求があるのは素晴らしいことですが、結局のところ自分が損をする(この場合は、ゲームをすぐにプレイできない)経験を今回しました。子ども向けのボードゲーム会では、こんなことは起きないでしょう。なぜなら据え膳が準備されているから、ボードゲームを遊ぶための説明を「誰か」が丁寧にしてくれるからです。けれど、ここ(サイコロ塾)ではそれはしません。代わりにすることは、「自分でルールを読みなさい」ということだけです。

今回、たまたま2つ目のグループの子どもたちが集まったテーブルでは、しばらくゲームが始められませんでした。他のグループが既にプレイできている様子を見てそこに割って入ろうとする子どもや、時間をどう過ごしていいか途方に暮れている子どももいました。とはいえ、そんなグループでもなんとかゲームプレイの開始に向けて前向きに進めようという子どももいました。

宝石の煌きnote用2

「ルールを読み込む時間」として設定した5分の直後の質問タイムには、全然質問はしてこなかったのですが、いざ読んでゲームを準備し始めると疑問が都度浮かんできて、たくさん質問が出ました。もちろん、それには答えます。誰か1人の「ゲームをプレイしたい」というエンジン、「自分でなんとかする」という思いがちゃんと伝播して、もう1つのグループに遅れること15分、なんとかゲームプレイを始めることができました。


2、ゲームを成り立たせるもの

ここでちょっとだけ「ゲーム」に関する学術的なお話をさせてください。「ゲーム」の定義として、僕は「Reality is broken」のものが一番しっくりきています。

マクゴニガルはこの本の中で、ゲームの定義として4つの特徴を挙げていますが、その中に「自発的参加」という概念があります。他の3つがゲームそのものに備わっているものとすると、この概念だけプレイヤーとゲームとの関係性を表していて少し異質な感じがします。読んでみると確かに「ゲーム」に必須だと思えますし、「マジックサークル」(ゲームを成立させている範囲、のような意味)の概念にも通じるかなと思います。

今回、子どもたちの様子を見ていて、この「自発的参加」がいかに重要かということが再度確認できました。どんなにボードゲームが優れた「ルール」や「ゴール」を設定していたとしても、プレイヤーの「このゲームで遊ぼう!」、もっというと「このゲームプレイを楽しいものにしよう!」という主体性がない限りゲームは成り立ちません。子どもたちの今回の体験では、誰か1人がマジックサークルを作ろうとする主体性を発揮することによって、なんとかゲームプレイという特別な体験をすることまで行き着くことができました。

デジタルゲームももちろんそうですが、ボードゲームだとプレイヤーが複数人であることが多いので、なおのこと「マジックサークル」を維持するために「自発的参加」が重要になってきます。誰か1人でもその「自発的参加」を欠いてしまっては、途端にゲームは成り立たなくなり、「楽しい」はずの体験がそうではないものになってしまいます。(子どもたちの初めの状態がこれにあたります)

その意味では、単に「ルール」の存在だけでは、ゲームが成り立つわけではないということもよくわかります。「ルール」はルールとしてしか存在していないので、それを成り立たせるにはプレイヤーの主体的なルールへの関わりが必要です。ゲームをプレイし、その先にある「楽しい体験をしたい」という欲求を満たすためには、必然主体的になる(主体的にルールと関わる)必要があるのだということが、上記のような体験をすることで子どもたちに伝わっていったらいいなと思います。


3、計画を立てること

さて、なんとかゲームプレイが成り立ったところで、「宝石の煌き」を使って何を子どもたちに体験してもらいたかったかというと、「計画を立てる」ということでした。

「計画を立てること」について、レッスンでは簡単に「いつ」「何を」するかを事前に決めることと子どもたちに説明をしました。「宝石の煌き」は序盤から中盤、終盤にかけてゲームの中の導線がとてもよくできています。

序盤:宝石トークンを集めて、レベル1のカードを中心に取っていく

中盤:レベル1のカードのボーナスを使って、レベル2・レベル3のカードを集める

終盤:レベル3のカードを取ることを目標にしながら、貴族タイルの獲得を同時に狙うことで15点を目指す

最終的な「ゴール」は15点を取ることですが、そこに向けて、序盤から中盤、終盤にすると良いアクションが上のようにデザインされています。もちろん、ゲームの勝ち方はこの限りではないですし、個々の場面に応じた選択肢には幅がありますが、概ねこのような計画を立てておくとスムーズにゲームを進められます。

今回子どもたちのプレイを見ていて、いくつか気づいたことがあったのでそれを報告します。

宝石の煌きnote用3

1つ目は、「欲しいカードをとにかく確保する」ということが見られました。それも割と序盤に3枚確保するということが見られました。これは、最終的にそのカードを確保したい、という気持ち(長期的な計画)の表れではあると思うのですが、僕から見るとやや無謀なように見えました。ですが、子どもたちからしてみると、「15点を目指すゲーム」というゴールを掲げられた時に「点数が高い」カードの確保は良いことだと感じたのだと思います。それ自体は間違っていません。ところが、この行動が後々自分の首を絞めるということを子どもたちが自分自身で気付きます。確保したカードは軒並みコストが高いので、なかなか確保→取得することができません。また、「ボーナス」(宝石の煌めきではカードを取得することで次の取得時に割引されるボーナスがある)のルールに気がついておらず、いつまでたっても確保したカードを手元に残したままになってしまっていました。

この体験から、子どもたちは自然と「レベル1のカードから集めていく」のが序盤に実行することとして良いことだと気づいていきました。こういう気づきが得られたのはすごいことです。考えてみると、自分は宝石の煌きを何度もプレイしているので、序盤、中盤、終盤に計画し実行することがわかるのですが、それを実際にプレイすることで自分たちで発見できたということが大きなことだったと思います。


2つ目に気が付いたことは、1つ目のこととも関連するのですが、特定のカード(特に確保したカード)を取得することに固執するということです。ある子どもは、自分で確保したカードを取得したいために、特定の色の宝石トークンを集め続けていたのですが、その色のトークンは他の人も集めており、なかなか自分の手元に集まりません。確保したカードの取得のためには、ボーナスをうまく使う必要があるのですが、それはしないで無駄な手を何度も打つことになってしまう、ということが起こっていました。

そこで、講師の方から「確保する」ことのデメリットについて伝えたり、「確保したカードを取得するためのステップ」を伝えました。その後はなんとか、自分が目標とした確保済みのカードの取得のためにボーナスを利用した行動を実施できていました。


3つ目に気が付いたことは、「宝石トークンを集めてからどのカードを取得するか考える」子どもが多いということでした。目標(目的)とするカードありきで宝石トークンを集めていくのではなくて、ひとまず宝石トークンを集めてから「どのカードが取れるかな?」と考えて取っていくということです。自分が想定していたプレイの仕方と真逆だったので、驚いたのですが、これはこれですごくプリミティブな欲求に従ったプレイの仕方だと理解しました。最序盤は自分の好きな色の宝石を集めるだけ集めて、「取りたいカードを取る」ではなく、「取れるカードを取る」というプレイの仕方は、手段と目的が逆転してしまってはいますが、それはそれでゲームとの向き合い方としてはアリかなと思いました。それで、途中で困った事態(取れるカードが何もない)にもなってしまうのですが(笑)

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写真は2回目のレッスンの途中で子どもたちと一緒に、「宝石の煌き」における計画、その実行についてまとめてみたところです。子どもたちのプレイの仕方を見ていると、自分が想定していたことを超えていろいろなことが起こるなと思います。今回のレッスンの目的は「計画を立てること」でしたが、子どもならではのゲームとの関わり方の中で、さまざまな段階での計画、その実行が見られて面白かったです。

宝石の煌きnote用4

とはいえ、2回目のレッスンの最後の方では、しっかりと貴族タイルを取ることも意識して、手元のカードを取っていくことができている子もいました。特定のカードを取得することに固執していた子どももボーナスをうまく利用することを覚えて、自分の本願を遂げることもできていて、2回のレッスンの中で上達が感じられました。

ちなみに、2回目のレッスンの最初に「宝石の煌き」のルールに関するワークシートを作ってみました。子どもたちのルール理解の程度を見るためにやってみたことですが、子どもたちのゲームルールへの関わりを賦活する点で多少は役に立ったかなと思います。今回のように2回続けて同じゲームを取り扱うようなレッスンではまた同じようにクイズを作ったりしてみたいと思います。

宝石の煌きnote用5


次回予告

7月のレッスンでは、ボードゲームで「計算をしてみよう!」ということで、得点計算の部分に四則演算を用いるゲームを取り上げます。

いまのところ、ナンバーナインキングドミノの2つのゲームをプレイする予定です。

いずれも空間にタイルを配置するという要素が入っているので、空間認知的な意味合いでも数学的思考が必要になるゲームでもあります。次のゲームでは子どもたちがどんな様子を見せてくれるか楽しみです。

次回のレポートもどうぞご覧ください!

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