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中学校の教科書から見る食の安全性
はじめに
中学校家庭科の教科書に、食品添加物と遺伝子組み換え食品がどのように掲載されているかという点を通して、食の安全に関する教育の一端を観察し、延いては教育の根底にあるべき科学リテラシーについて幾許かの考察を試みる。
以前書いた「中学校の教科書から見る性の多様性」は、扱う内容が文部科学省の学習指導要領には載っていなかった。従って教科書出版各社は、それぞれの考えを基にある程度自由に内容を記述できた。結果、比較した四社の記載はそれぞれに個性があることがわかり、それはそれで面白い結果であった。
それに対して今回扱う題材のうち、食品添加物については学習指導要領に記載がある。遺伝子組み換え食品については記載がないが各社が自主性に掲載しているという状況だ。指導要領及びその解説から、該当箇所を引用する。
B 衣食住の生活
⑶ 日常食の調理と地域の食文化
ア 次のような知識及び技能を身に付けること。
(ア) 日常生活と関連付け,用途に応じた食品の選択について理解し,適切 にできること。
(該当箇所のみ抜粋)
加工食品については,身近なものを取り上げ,その原材料や食品添加物,栄養 成分,アレルギー物質,期限,保存方法などの表示を理解して用途に応じた選択 ができるようにする。
(中略)
なお,食品添加物や残留農薬,放射性物質などについては,基準値を設けて, 食品の安全を確保する仕組みがあることにも触れるようにする。
本稿では、中学家庭科の教科書を出版している3社の記述を比較していく。各社とも概ね記載スタイルは似ている。「食品添加物の概要」、原材料表示に書かれる「食品添加物の表示」「図表」「遺伝子組み換え食品に関する表示」、そして「その他」の5点に関して引用し検討していく。
なお、本稿は便宜上、教科書は出版社の責任の下で書かれ、内容は出版社の意志に依るという立場で書いている。
なお、食品添加物に関して、国が公式に出している教育用資料として消費者庁(2011)がweb上に公開されている。
教育図書 『新 技術・家庭 家庭分野 暮らしを創造する』
教科書に「新」とか付けるのは本当に無意味ではなかろうか。以前に比べ新しくなったと判断できるのは基本的に教師だけである。教科書に「新」と付いている段階で、この教科書は誰に向けて作られたものなのか考えてしまう。
食品添加物の概要
・教科書の記述
" 加工食品の製造・加工の過程では、製造上の必要性や、保存性を高める、味や香りをよくする、栄養を強化するなどの目的で添加物(食品添加物)が使用される場合があります。"(p.97)(太字は出典に準拠)
・特徴と考察
添加物(食品添加物)という書き方をしているのは本書だけであった。単に食品添加物と書くだけで何ら不都合はないはずだ。必要性の無い不自然な表現を敢えて行うには、それ相応の意図があると考えるべきである。
このような書き方をされた場合、読み手はどのような印象を受けるだろうか。また、書き手はどのような印象を与えようとしているのだろうか。私には、食品添加物を危険なものだと印象付けようとしているように感じられる。
また、この記述以降、食品添加物という語は用いず単に添加物という表現に終始している。この点も他社には無い特徴であり、出版社の意図の表れと言える。
食品添加物の表示
・教科書の記述
" 添加物の表示
原則として物質名を表示することになっているが、わかりやすいように用途名を併記する場合などもある。
(図表省略、後述)
添加物は、安全性の確保のために、使用量や使用目的などの制限(使用基準)が設けられている。"(p.99)
・特徴と考察
後半の記述に、日本語としての不自然さを覚える。内容は間違っていない。ただ、これを普通に表現するなら「添加物は、安全性の確保のために、量や目的などを定めた使用基準に従って用いられている。」であろう。 通常使われる「使用基準」という表現を()内に押しやり、あえて「制限」という表現をメインに据えることで、食品添加物の危険性を強調しようという意図が見え隠れする。
図表
・教科書の記述
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・特徴と考察
食品添加物の役割を「色」「味」「舌触り」「変質防止」「その他」で分類している点がおもしろい。特に、増粘剤を単独で「舌触り」という分類に入れているのは教育図書だけの特徴だ。増粘剤や舌触りに何かこだわりがあるのかもしれないが、意図を推測する事は叶わなかった。
防かび剤を取り上げているのも本書だけの特徴である。発がん性やポストハーベストといった言葉とともに一時期話題になった物質で、過剰に摂取すれば危険な物質ではある。ただし例えば水も塩も炭水化物も、どんな物質も過剰に摂取すれば人体に有害であり、それと同列の文脈で過剰摂取が危険な物質である。その点を理解せず、安全か危険か、の2択で物事を見てしまう層には、非常に印象が悪い物質であろう。
(補足:防かび剤の実態については多数研究があるが、福井ほか(2017)によると、2007~2016年度の期間で140検体を調査した結果、使用基準を満たさないものが1件あったが、表示違反は発見されなかった、との事だ。また、消費者団体のwebサイトに掲載された斎藤(2020)で、残留農薬を「正しく恐れる」という事について解説されている。残留農薬に限らず、食の安全に関して極めて重要な視点を提示してくれる記事なので、一読を強く勧めたい。)
また、表の一番上に着色料をもってきて、かつ物質名の例に食用赤色2号というタール色素を単体で載せている点も特徴と言える。他2社の表は保存料が一番上にきており、また、着色料の例としては食品由来色素単体かタール色素との併記を行っている。
現在の日本で主流となっている食品由来色素ではなく、タール色素を単体で載せている意図もまた、これまでのものと同様であると推測される。
(補足:タール色素自体、基準値内の摂取であれば健康的に問題ないとされている。また、厚労省の調査などで実際のタール色素の摂取量は基準値を大きく下回っている事が示されている(厚生労働省 2024、多田 2023)。
動物実験の結果安全だと推定される体重当たり摂取量の1/100を人間への基準としているのだが、これらの調査ではその基準値の1/100以下しか摂取していない事が明らかになっている。
しかし、かつてタール色素の発がん性が取り沙汰された時代があり、その時代を生きた人間にはタール色素は明確に印象が悪い。あえてタール色素を単体で載せることで、情報のアップデートができていない教員が、不要な危険性周知を行う事を狙っているのではないかと勘繰りたくなってしまう。穿った考え方だという自覚はある。だが、そのような考え方をさせてしまうほどに、この教科書からは食品添加物への悪感情があふれ出て見える。)
遺伝子組換え食品の表示
・教科書の記述
” 植物の遺伝子を人工的に組み換え、病気や害虫に強い作物や、特定の栄養素を強化させた作物が開発されている。安全性が確認された農作物とその加工品には表示が義務づけられている(表示免除の場合もある)。”(p.99)
・特徴と考察
”植物の遺伝子を人工的に組み換え”と、わざわざ「人工的に」という表現を入れているの点は着目すべきポイントだろう。 遺伝子組み換えはいわずもがな人の手によって行われた改良である。同様に、植物の品種改良や味噌醤油の発酵も人の手によって行われる。品種改良や発酵にわざわざ「人工的に」という形容詞を付けるだろうか。 書き手が、自然や天然といったものへの根拠なき信仰とその裏返しとしての人工物への嫌悪感を抱き、それを元に遺伝子組み換え食品を貶めようという意図があったのならば問題だ。
余談であるが、食品表示基準の一部改正により、2022年4月1日から、加工食品の添加物表示に「人工」「合成」という表現は用いないこととなった。改正理由をしっかり説明するには、1989年の食品添加物表示制度改正あるいはそれ以前にまで遡る必要があるため、ここでは詳しく触れない。食品添加物表示制度に関する検討会報告書に経緯が記されており、森田(2020)でわかりやすく纏められているので、興味がある方は参照されたい。
私個人としてその理由を嚙み砕いて述べるなら、自然や天然への信仰と人工や合成といった嫌悪を無くし、科学的に合理性のある表記にしましょう、という事だと解釈している。
その他
・教科書の記述
「資料:食品の安全性を守るための仕組み」として、リスク分析について図を用いて紹介されている。教科書の図とほぼ同一のもので、恐らくは出典元と思しきものがweb上にあったので引用する。
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そしてリスク分析に触れた直後に、教育図書の考えが極めて良く表れた一文が掲載されているので引用したい。 "しかし、国の機関などによる仕組みだけでは、食品の安全性を守る事はできません。消費者一人一人が自ら安全な食品を選び、適切に調理や保存ができるようになることが、安全な食生活を送るためにもっとも大切なことです。"(p.99)
・特徴と考察
そもそも全性を守るための仕組みに関する記載を行っているのは教育図書だけであった。「指導要領解説」での指示を受けて記載したものと思われるが、「指導要領」本体には記載が無い項目のため、強制力は無いのかもしれない。
仕組みの解説は前掲の食品安全委員会の資料に沿うものであったが、添えられた文は出版社の思想を強く感じられるものであった。
"国の機関などによる仕組みだけでは、食品の安全性を守る事はできません"
という一文は、食品添加物の使用を認めている国家という存在への不信感の表れだろうか。食品の安全性続く文と合わせ「消費者が積極的に食の安全に携わっていく事が求められる」という意図だ、と解釈しようとも思ったが、それにしては書き方があまりに非難調だ。
続いて、"消費者一人一人が自ら安全な食品を選び"とあるが、専門家でない一般消費者がどのようにして食品の安全性を判断するのか。日常生活の合間にテレビやネットで流れてくるセンセーショナルな言説に従えとでも言うのだろうか。安全性を判断するには科学的な検証が求められるが、その検証を行える一般消費者はまずいないし、検証の信頼性を判断できる消費者も極めて少ない。また「安全な食品を選び」という記述は、危険な食品が流通している事を前提している。少なくとも、食品添加物を原因とする健康被害事件は殆ど発生していない(畝山 2020 p.11)のに、だ。
消費者一人一人が自ら安全性を判断するのが困難だからこそ、消費者団体がというものが存在するのであり、その消費者団体を巻き込んだ安全性確保のための仕組みが、直前で説明していた国の機関「など」による仕組みと呼ばれるものだ。リスクコミュニケーションの実態について少しでも調べれば、多数の消費者団体が関わっているのがわかるはずだ(消費者庁 2024)。
開隆堂出版『技術・家庭[家庭分野]』
執筆者が合計130人という圧倒的多数。ちなみに教育図書が38人、東京書籍が80人。だからどうだと言いたいわけでは無い、ただ多いなあと素朴に思っただけ。
食品添加物の概要
・教科書の記述
”食品添加物の種類と目的
加工食品の製造過程で、食品に加えられるものを食品添加物といいます。食品添加物には、食品の製造に必要なもの、微生物の増殖を抑制して食品の保存性を高めるもの、品質を保つもの、風味や見栄えを向上させるものなどがあります。使用できる食品添加物の種類や量は、食品衛生法によって定められています。
近年、食品添加物を使用していない加工食品も増えています。”(p154)(太字は出典に準拠)
・特徴と考察
最後の一行以外は極めて普通。最後にあえて”近年、食品添加物を使用していない加工食品も増えています。”と記載した意図は何なのか、いかようにも捉えれるが、食品添加物に対するマイナスイメージを前提に書かれたという事は想像に難くない。
食品添加物の表示
・教科書の記述
図中にて
”用途名と物質名を併記 例:発色剤(亜硝酸Na)”(p.154)
とだけ記載あり。
・特徴と考察
表示例に使われたのが亜硝酸ナトリウムである点に作為を感じる。亜硝酸ナトリウムは、食品添加物の中でも致死量がかなり少ない部類で、ある意味では危険な物質である。韓国では自殺用薬物として流通したとの報道もあった(中央日報日本語版 2023)。
また、主たる使用先である加工肉それ自体は、発がん性がある事が認められた食品である(国立がん研究センター 2015)。なお、IARCのグループAに分類されたという事は、発がん性の有無という点での証拠の強さであり、発がん性の強さというでは無い点に注意されたい(農林水産省 2023)。
悪し様に捉えるなら食品添加物=危険という認識を与えるためと見れなくもない。ただ、例として亜硝酸ナトリウムを出す事で、本文では触れられない危険性について触れる切っ掛けをつくり、教師によるフォローを求めようとした、あるいは生徒の自主的な学習に期待したとも考えられる。
図表
・教科書の記述
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・特徴と考察
第1に、使用されている食品を載せている点が挙げられる。他社には無い特徴であり、理解を助ける良い工夫だと考える。ただし、ハムの登場頻度が明らかにおかしい。発色剤は加工肉や魚肉加工製品が主たる使用先なので、ハムが挙げられるのは理解できる。だが、保存料や酸化防止剤は、ハムに限らず非常に多くの食品に使用されている。酸化防止剤に至ってはスペースに余裕があるのにハムの単独登場だ。不自然なまでにハムを登場させることで、加工肉の危険性をアピールしたいのであろうか。
2点目に、挙げられている食品添加物が他社に比べて少ないという点も特徴的だ。他2社が用途名で11種掲載しているところ、本書は6種となっている。食品添加物の表示に関する記述を表に押し込めた点と併せて、紙幅の制限が大きかったものと推測される。
3点目に、記述の不十分さが挙げられる。酸化防止剤の機能として、「脂質の酸化を防ぐ」と書いてあるが不正確だ。脂質への酸化防止は主たる効能の1つではあるが、決してそれだけではない。素直に「食品の」としたほうが正確性は高いし、脂質にこだわるならせめて「など」を付け加えるべきだ。また、「赤キャベツ」は食品名でそこから抽出した色素は通常「アカキャベツ色素」と表記される。
遺伝子組換え食品の表示
・教科書の記述
”参考:遺伝子組換え食品
ある生物の遺伝子を別の遺伝子に入れてつくった作物(遺伝子組換え作物)と、それを使った加工食品を遺伝子組換え食品と言います。
この作物については、増産や農薬の減量が可能な一方、その安全性や環境への影響など心配する声もあります(原文ママ)”(p.154)
・特徴と考察
非常に短い記述だが触れるべき点が3つほどある。1点目に、”安全性や環境への影響など心配する声”とあるが、助詞の「を」があったほうが日本語として自然ではなかろうか。
2点目に、食品の原材料表示での扱いについて触れられていない点だ。原則として表示が義務付けられている、といった点くらいは書くべきではなかろうか。
3点目に、安全性や環境への影響などを心配する声があるという書き方が、極めて非科学的で教科書には不適切な書き方だと言わざるを得ない。「作物」としての環境への影響と「食品」としての安全性を同列で語っている点がそもそもおかしい。前者は明確に想定される危険であり、実際に予防対策が取られている(詳細は次項)。それに対して食品としての安全性は、それを否定する明確な科学的根拠も、しかるべき機関の具体的な予防的取り組みも無い。それらを同列にして、「声がある」と、さも客観的な態度であるかのような書き方で結ぶなど、極めて姑息であると言える。
「声がある」だけで教科書に載せる価値があるのか。記載時点で主流となっている科学的知見を載せるのが教科書の役目であろう。
その他
・教科書の記述
開隆堂の教科書は、ページ下部枠外にて豆知識という名の短いコラムが掲載されている。食品添加物や遺伝子組み換え食品などについて書かれた154頁下部のコラムを引用する。
”豆知識
国連は、遺伝子組換え生物など国境を越えて移動するものに対して多様な生物及び自然環境の保全の観点から、移動に関する枠組みを決めています。これを生物多様性条約カルタヘナ議定書といいます。”(p.154)
・特徴と考察
個人的に非常に良い事例を載せたと思っている。
遺伝子組み換え作物は、組み換えでない同種の作物より、自然界で生き抜く力が強いものが多数ある。それらが人の管理下を離れると、侵略性の強い外来生物として環境を脅かし、生物多様性に悪影響を与える可能性がある。
農業は、既存の生態系との共存が重要だ。例えば昆虫がいなければ成り立たない農作物もあるし、生態系の変化で既存の昆虫や動物が害虫害獣化する事も起こり得る。既存の環境に合わせて発達してきた農業は、環境が変わると成り立たなくなるといった事態も起こり得る。
遺伝子組み換え作物の与える環境への影響、などと言うと理科分野の事例にも見えるが、実際は食に大きく関わる事例である。枠外コラムでこのような事まで書ききれないが、学びの端緒として生きる事を切に願う。
東京書籍『新編 新しい技術・家庭 家庭分野 自立と共生を目指して』
東京書籍は教科書出版会社として大手で、様々な科目の教科書を出版している。そのほぼ全てのタイトルに「新編 新しい」という枕詞が付く。きっと以前は「新しい」だけだったのだろうが、どこかのタイミングで「新編」まで加えられたのだろう。『新編 新しい道徳』などと言われると、既存の道徳の破壊と新たな秩序の構築を目指しているかのような印象を受ける。
閑話休題、該当箇所引用しつつ考察をしていこう。
加工食品の概要
・教科書の記述
”加工食品
加工食品を製造するときには、品質の改良や保存性の向上、着色や調味などを目的として、食品添加物が加えられることがあります。”(p.56)(太字は出典に準拠)
・特徴と考察
使用目的に「品質の改良」という表現が入っているのが特徴的である。後述の図表にて栄養強化剤を採用している点に対応する記述であろうが、食品添加物のプラスの側面を評価した記述と言える。
食品添加物の表示
・教科書の記述
”加工食品の表示の例
食品添加物
原材料名の中に「/(スラッシュ)」で分けたり、別の欄にするなどの方法で表示される。多く使われた順に表示される。食品添加物は、安全に、安心して食品をとることができるよう、さまざまな基準値が設けられている。また、食品添加物がないと作れない加工食品もある。”(p.58)
・特徴と考察
食品添加物を前向きに評価する雰囲気を感じる。教育図書と東京書籍の、対応する記述を再度引用する。
”添加物は、安全性の確保のために、使用量や使用目的などの制限(使用基準)が設けられている。”(教育図書)
”食品添加物は、安全に、安心して食品をとることができるよう、さまざまな基準値が設けられている。”(東京書籍)
同じ事実を伝えるのに、表現が異なるだけで与える印象が大きく変わる良い例である。
また、最後の一文で”食品添加物がないと作れない加工食品もある”としているのも面白い。開隆堂の”近年、食品添加物を使用していない加工食品も増えています。”という記述とは極めて対照的である。
図表
・教科書の記述
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・特徴と考察
香料と栄養強化剤を採り上げているのが特徴的だ。どちらも掲載しているのは本書だけである。
また、乳化剤・増粘剤・豆腐用凝固剤の3種を「製造加工に必要」と括っている点はやや疑問が残る。豆腐用凝固剤に関しては必要性を疑うまでもないが、特に増粘剤については必要という表現が適切か疑問だ。尤も、教育図書のように「舌触り」という独立した括りにするよりは自然に思えるが。
遺伝子組み換え食品の表示
・教科書の記述
”遺伝子組換え食品の表示
ある生物から、特有の性質を持つ遺伝子を取り出し、別の生物に組み込む技術を利用して作られた食品。遺伝子組換え食品としての安全性が確認された9種の農作物、およびこれを原材料とする加工食品は表示が義務付けられている(表示免除の場合もある)。”(p.59)
・特徴と考察
極めて教科書的で無味無臭な記述。強いて言えば、組み替える事でどのような特性を与えられるのか、という説明があれば尚よかった。
その他
・教科書の記述
挿絵の中学生男子と思しき人物のセリフとして吹き出し内にて
”食品添加物がなかった、どんな食生活になるのだろう。”
というものが掲載されている。
・特徴と考察
記載した直接の意図は、生徒たちに考える切っ掛けとなるよう問いかけた、
という理由だろう。これは、先述の”食品添加物がないと作れない加工食品もある”という記述を受けての問いかけだと考えられ、そうであるならば食品添加物に対して良い印象を抱くよう誘導する記述とも言える。
おわりに
指導要領に記載された項目であっても、三社三様の書き方で非常に面白かった。
食品の安全性を考える上で最も重要なのは「何をどの程度摂取したら危険なのか」という視点である。食品添加物には一日摂取許容量(ADI)という指標があり、その範囲内であれば毎日摂取しても健康に影響は無いと考えられている。本文中でも触れた毒性の高い亜硝酸Naも、食品衛生法の基準により、ハムやソーセージを1Kg食べたとしても、余裕をもってADIの範囲に収まる量しか使用されていない(この事実と、加工肉の安全性の問題とはまた別の議論である、念のため)。
曖昧な印象や非科学的な根拠で食品添加物の危険性を訴える言説は、SNSや雑誌書籍を中心に非常に多く目にする。テレビなどの大手メディアは、あからさまな危険視は控えるようになったものの、根拠なく「自然」や「天然」といったものをさも安全であるかのように表現することはやめていない。こうした事態は科学リテラシーの明確な欠如であり、それを改善するために教育は機能するべきだ。教育の根幹となるべき教科書において、一部とはいえ、教育の役割とは真逆のはずの思想に基づいたと思しき記述があった事は非常に残念である。
参考資料
※本文で登場順に掲載
※URLは全て2024年11月11日にアクセス
※下記資料中の教科書については、教科書検定を2024年に通過した2025年度使用予定のサンプルであり、教科書センターに献本されたものである。一般流通する品との差異については筆者の関知するところではない。また、奥付の発行年や改訂情報が空白であるため、下記リストにも出版年の記載は行っていない。
◆文部科学省 2017「中学校学習指導要領(平成29年告示)」(https://www.mext.go.jp/content/20230120-mxt_kyoiku02-100002604_02.pdf)
◆文部科学省 2017「【技術・家庭編】中学校学習指導要領(平成29年告示)解説」(https://www.mext.go.jp/content/20230516-mxt_kyoikujinzai02-000033059_04.pdf)
◆消費者庁食品表示課 2011「食品添加物のはなし」(https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/food_sanitation/food_additive/pdf/syokuhin497.pdf)
■河村美穂ほか38名『新 技術・家庭 家庭分野 暮らしを創造する』教育図書
◆福井直樹ほか10名 2017「2007~2016 年度に実施した輸入柑橘類中の防かび剤の検査結果」『研究年報 平成29年度1号』大阪健康安全基盤研究所(https://www.iph.osaka.jp/s004/060/reserch_annual_report-1_2017.pdf)
◆斎藤勲 2020「輸入レモンの防かび剤 残留農薬問題は「正しく恐れる」ことが大事」(https://foocom.net/column/residue/18863/)
◆厚生労働省 2024「令和4年度マーケットバスケット方式による
保存料等の摂取量調査の結果について」(https://www.mhlw.go.jp/content/001212316.pdf)
◆多田敦子 2023「生産量統計調査を基にした食品添加物摂取量の推定に関わる研究 その 1 指定添加物品目(第13回最終報告) 」(https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/report_pdf/202224027A-sonota1.pdf)
◆消費者庁食品表示企画課 2020「食品表示基準の一部改正について」(https://www.cao.go.jp/consumer/kabusoshiki/syokuhinhyouji/doc/200525_shiryou1_1.pdf)
◆食品添加物表示制度に関する検討会 2020「食品添加物表示制度に関する検討会報告書」(https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/meeting_materials/review_meeting_003/pdf/food_labeling_cms101_200331_01.pdf)
◆森田満樹 2020「食品添加物「人工」「合成」の用語を削除へ 消費者庁がパブコメへ」(https://foocom.net/secretariat/foodlabeling/18593/)
◆食品安全委員会 (執筆年不明)「どうやって守るの?食べ物の安全性」(https://www.fsc.go.jp/kids-box/foodsafety/index.data/foodsafety1-7.pdf)
◆畝山智香子 2020『食品添加物はなぜ嫌われるのか』化学同人
◆消費者庁 2024「2023年度開催状況一覧」(https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_safety/food_safety/risk_communication/assets/consumer_safety_cms203_240527_01.pdf)
■綿引伴子ほか130名『技術・家庭[家庭分野]』開隆堂出版
◆中央日報日本語版 2023「韓国政府、ハムやソーセージの添加物「亜硝酸ナトリウム」を自殺危害物に指定」(https://japanese.joins.com/JArticle/312849)
◆国立がん研究センター 2015「情報提供 赤肉・加工肉のがんリスクについて」(https://www.ncc.go.jp/jp/information/pr_release/2015/1029/index.html)
◆農林水産省 2023「国際がん研究機関(IARC)の概要とIARC発がん性分類について」(https://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/risk_analysis/priority/hazard_chem/iarc.html)
■志村結美、上野顕子ほか80名『新編 新しい技術・家庭 家庭分野 自立と共生を目指して』東京書籍