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僕と祖父の思い出【エッセイ】

僕の祖父の話をしたい。
祖父は聡明であり、周りからも尊敬される立派な人である。
しかし、少々頭が固い部分もあった。
これまで培ってきた経験は大きな矜持になっていたが、それ故に他の意見を寄せ付けないところがあるのだろう。

そんな僕と祖父のくだらない話がある。

僕がまだ小学生の頃、祖父と書店へ来ていた。
一冊好きな本を選んで良いと言われた僕は、絶賛流行中であったラノベを買ってもらおうと思っていた。
祖父はラノベに抵抗があったのか少々顔をしかめながらも承諾し、レジへ向かった。
ついにクラスで流行っている本が読めると楽しみに待っていたのだが、
祖父が買ってきた本の表紙は、僕が考えていたような可憐な美少女ではなく猛々しい熊が描かれていた。
その名も、吉村昭著「羆嵐」。

祖父は吉村昭や松本清張を好んで読んでおり、恐らく偶然目に留まった名著を孫に読んでもらいたいために買ってきたのだろう。
本来買うはずだったラノベを忘れて。

それから10年後、僕は祖父が好きだった名著たちを読んでいる。
まさか古の名著を読む日が来るとは昔の僕は思いもしなかっただろう。
祖父は幸いなことにまだ健在で、僕は地元に帰るたびに古い本の話をしている。
僕が本を読み続ける原動力は、祖父と話がしたいところから来るのだ。
次に会うときはどの本の話をしよう。

最後に、「羆嵐」は気迫に満ち溢れた名著である。
まぢ熊怖い。

(終)

#おじいちゃんおばあちゃんへ

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